第8話初戦闘です。あれ?何か忘れているような……


トランクイル平原は見晴らしが良く長閑な場所で、ピクニックをするのに丁度良さそうです。


あっ…モンスターと闘う前にこんな気分ではいけませんね……

気を引き締めましょう! 


気持ちを切り替えて、辺りを見渡すと沢山のプレイヤー達がモンスターと戦っています。


「わぁ…人が沢山いますね」


「リリースからずっと品薄状態のソフトが、ここ最近で販売本数を大幅に増やしたら、そりゃ初心者が沢山いるわな……

しかも、初心者の狩場でここは有名やから、飽和するに決まってるわ……」

「フェリシアちゃんとユキナさん。目立たないようにしてたのに、人が沢山いる所に連れてきてしまって、ホンマゴメンや……」


師匠は申し訳なさそうに頭を下げてますが、師匠のせいでは無いと思います。

それに初心者が増加中でしたら、どこに行っても人は沢山いると思います……


「師匠。謝らないで下さい。全然気にしてませんよ。

それに、私達には師匠が贈ってくれたこのローブがあるのでへっちゃらです!」


「そうですね。私もパンダモンさんが悪いとは思いません」


「二人とも、スマンな。それとありがとうな」

「ちょっと人は多いけど、予定どおりモンスターと戦闘してみようか!」


「「はい!」」


気を取り直してモンスターを探そうとしますが、よく考えると、どんなモンスターがいるのか分からないので探しようがありません……

師匠に聞こうとすると、私よりも早く、静華が師匠へ質問していました。


「ここではどんなモンスターが出現するか教えて頂けないでしょうか?」


「言うの忘れてたな……ここでは6種類のモンスターがおるねん

倒しやすい順番やと『プラントン』『ホーンラビット』『ハミングシープ』『ホーネット』『スピアイーグル』『ナイトボア』になるかな」


「ありがとうございます。あの、プラントンとはどんなモンスターなのでしょうか? 他のモンスターは大体イメージ出来そうなのですが……」


「そうやな……大きさはバスケットボールぐらいで、動きも遅く、体当たりしか出来ない植物系のモンスターやな」

「初心者でも簡単に倒せるモンスターやから、最初はコイツを探したいな」


師匠に教えて頂いた事を踏まえて、暫くモンスターを探してると、角の生えたウサギさんが出てきました!

ウサギさんだから、先ほど師匠が仰っていたホーンラビット?になるのでしょうか?

逃げないようにじっと見つめ、初めてのモンスターに少し興奮しながら、師匠に報告します。


「師匠。ホーンラビット?が出てきました!」


「おっ、出てきたか。これぐらいなら1人で倒せると思うから、まずはフェリシアちゃん頑張ってみようか」


「はい! 頑張ります!」 


この兎さんはあんまり可愛くないので、倒せそうですね……

そう思い装備している木の杖を構えます。


杖はあまり使った事はありませんが、長さが短いので、得意な薙刀よりも刀に近い感じですね……

ひとまず、刀と同じ要領で使ってみましょう。


私が思案していると、ホーンラビットは名前の通り、大きな角をこちらに向けながら突進してきました。


想定よりもスピードが遅いですね……

これなら余裕で躱して、攻撃も出来そうです。


ホーンラビットの突進に合わせて右足を後ろに引いて、半身になり、 首の付け根付近を狙って、杖を左袈裟斬りの要領で振り下ろします。

すると、『Critical』と『23ダメージ』の表記が出て、ホーンラビットは粒子になって消えちゃいました。

ホーンラビットが消えた先には角?が落ちました。

これはホーンラビットの角でしょうか?


「お嬢様。お見事です!」

「……」


ホーンラビットを倒すと、静華が私の事をすぐに褒めてくれたので、得意気な顔で答えます。


「大勝利です!」


私と静華が盛り上がってる中、師匠は呆然としたままでした。

もしかして何か失敗したかと思い、初戦闘について聞いてみます。


「師匠。私の戦い方は何かおかしかったでしょうか?」


「あ、ああ、凄くよかった。おかしいちゃおかしいけど、良い意味のおかしいや」


「良い意味の……? 

その、おかしかった所を教えて頂いてもよろしいでしょうか?

教えて頂けるとすぐに修正しますので!」


「修正点なんてないよ。普通初めてで、クリティカルとATKの最大ダメージだせるヤツなんておらんからな。

しかもノーダメって……

正直、俺の教えることは何もないねんけど……」


「ガーン……師匠は私の事を見捨てるのでしょうか?」


「何でそうなるねん!?」


「だって師匠が教えることは何も無いって……」


「違う違う、完璧過ぎて教えることが何もないだけや……」


「…そうなんですか?

私が不出来なせいで、早速、師弟関係を解消されちゃうのかと思いました……」


「そんなわけないやん。フェリシアちゃんが不安やったら教える事を考えるからちょい待ち」

「教えること…、教えることかぁ……あっ、モンスター倒した時に落ちるドロップアイテムはしっかり拾っときや」


師匠に言われた通り、ドロップアイテムをイベントリに収納してると、師匠は言葉を絞り出すかのようにアドバイスを続けてくれます。


「あと、MPに余裕があればスキルを使ってみ。

熟練度上がるで」


「あっ…そうでした。スキルの事を完全に忘れてました……

そう言えば、スキルってどのように使うのでしょうか?」


「そういえば言ってなかったな……

スキルを使うにはスキルの発動を意識して、発声するだけやで。

他のゲームと違って、このゲームのスキルは動きをアシストするものはほとんどないから、自分で動きながら上手いことスキルを発動しないとアカンで」


「勝手に体が動くと変な感じがしますので、私としてはそちらの方がありがたいです。」

「スキルで思い出しましたが、師匠は説明の時に、エパクトシステムについて触れていませんでしたが、なぜでしょうか?」


「ああ、エパクトシステムは計算して出るもんじゃないから省いただけや。

実際に今回の戦闘も忘れてたと思うけど、問題なかったやろ?」


「そうですね。では、エパクトシステムはあまり気にしなくても良いのでしょうか?」


「意識し過ぎてぎこちなくなるより、ありのままでゲームをプレイしてる方が、熟練度の上昇やスキルの習得も早くなるって、検証班のデータにもちゃんと出てるし、そこまで気にしなくてもいいんちゃうかな」 


「分かりました。無理せず、思いのままプレイしてみます!」


師匠と話すのに夢中になり過ぎて、ふと気付いた頃には静華と実物の3倍以上大きいスズメバチとの戦闘が始まろうとしてました。


この平原で出てくるモンスターでスズメバチといったら、ホーネットでしょうか?

先ほどの師匠との会話を思い出し、ホーネット?に向けてアナライズのスキルの使用を試みます。

すると、私の目の前にホーネットの情報が出てきました。


―――――――――――――――――――――――

ホーネット


HP 15/15

MP 0/0


【ATK 20】

【DEF 0】

【INT 0】

【MID 0】

【DEX 10】


スキル

【毒針】


弱点

火属性、氷属性


耐性

無し

―――――――――――――――――――――――


アナライズの情報では、ホーネットは攻撃特化のモンスターのようで、お尻に付いてるあの大きな針に刺されると凄く痛そうです……

私がアナライズで情報を見てると、ホーネット側に動きがありました。


ホーネットは立体的な動きで翻弄しながら、徐々に静華に近付いていきます。

狙いが定まったのか、大きな針を静華へ突き立てようと一気に距離を詰めました。


静華はホーネットが針を刺す動きに合わせて、木の盾を少し右側に傾け、ホーネットの攻撃を軽くいなし、

一瞬の隙をついて、盾をホーネットの上側に移動させ、そのままホーネットごと地面に叩きつけました。


『15ダメージ』と表示され、そのままホーネットが粒子となって消え、そこには大きな針が落ちました……


「流石ユキナですね!」


「ありがとうございます。」


勝利を分かち合ってる私と静華を見て、師匠がボソッと「なんなんこの2人……」と呟いているのが聞こえましたが、私と静華の仲の良さに改めて驚いてるのでしょうか……?


「えっと、ユキナさんも俺から言うことはなんもないわ。

ていうか、スキル使わずに盾でATKの最大ダメージを出してる人、初めて見たわ……」

「二人とも大丈夫そうやな。先よりも人が減ってきたから、この隙にいっぱい狩っていこうか」

「ていうか、パーティー組んだ意味なかったかもな…

一回パーティー解散させるか?」


「いえ、結構です!」


師匠がパーティーの解散を提案しましたが、それを静華が一蹴しました。

師匠の目が点になり「じゃあそのままで…」と言って、パーティーの継続が決まりました。

私も静華と一緒が良いので、問題なしです!


それから、私達は何回か戦いましたが、全部余裕を持って倒せたので、パーティーの解散はしませんでしたが(解散は静華と私が頑なに拒みました…)、私と静華は二手に分かれてモンスターを狩っていきました。


師匠の教えの通り、やっぱり一番厄介だったのがナイトボアで、HPとDEFが高く、突進中はダメージを受けない仕様もあり、倒すのに結構時間が掛かってしまいました。


次に厄介と感じたのは、ハミングシープで、仲間をどんどん呼んでくるので大変でした……

モコモコの毛も衝撃吸収のスキルがあって、顔付近に攻撃しないとダメージを与えられなかったのも厄介でした。


他のモンスターはほとんど一撃で倒すことが出来たので、特筆すべき点はありませんでした。


「一通り見せてもらったけど、なんも問題なさそうやな。いや、初めてでこれは十分問題やねけんど、そこは置いといて…………

実際モンスターと闘ってみてどうやった?」


「ナイトボアは結構苦戦しました。やっぱりもう少し長い武器が欲しいです……」

「私は、盾ではモンスターを倒しにくいので、武器が欲しいと思いました。」


「今回でルピも貯まったと思うし、新しい武器を買ってもいいかもな。

まあ、プレイヤー産のものは大体高めやからNPC産か、安いドロップ品になりそうやけど」


「薙刀も売ってますでしょうか?」


「見てみないと分からんけど、薙刀はあんまり無かったかもな……

槍なら結構ドロップ品で落ちるから売ってるとは思うけど」


まだルピが心許ないので、取り敢えずは槍で戦って、ルピが貯まったら薙刀をオーダーメイドする予定でいきましょう!

そもそも、私はなぜ杖を振り回しているのでしょうか……?

何かを忘れてるような……

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