第7話トランクイル平原に向かいます


モンスターと戦うと聞いてから、ドキドキしてましたが、トランクイル平原に向かう前に、まずは防具屋で準備をするらしく、何だか肩透かしを食らった気分です……



店を出る前に師匠が支払った代金が2,700ルピと高額であった事を思い出し、改めて師匠にお礼をします。


「師匠。先程はご馳走様でした。私の1,000ルピはやはり受け取ってもらえないのでしょうか……?」


「奢るって言ったのはこっちやから気にしんといて。

それよりも師匠呼びをそろそろ止めて欲しいな……」


「それは……お断りします。師匠は師匠ですから!」


私が断ると、師匠は諦めた表情で肩を落としました。

そんな師匠の姿はやっぱりちょっと可愛い気がします……


斜め後ろを歩く静華も師匠に対して、最初の方は警戒心バリバリでしたが、徐々に視線が優しくなってきた感じがします……


「師匠。モンスターと闘う前に、なぜ防具屋に行くのでしょうか? 私達の手持ちが1,000ルピしかないので、恐らく何も買えないと思います……」


「防具屋に向かってるのは、フード付きのローブを買いたいからやで」


「ローブですか? DEFを上げて、モンスターからのダメージを抑えるのが目的でしょうか?」


「違う違う、フード付きのローブを買うのは2人の姿を隠す為や」


師匠はそう答えましたが、私はなぜ姿を隠さないといけないのかがピンと来ません……

静華の方を向くと、答えが元々分かっていたようで、頷いてますし、何だか仲間外れになった気分です……

仲間外れは悲しいので、思い切って聞いてみます。


「どうして、私達の姿を隠さないといけないのでしょうか?」


すると師匠と静華は呆れた表情を浮かべ、師匠が静華に向かって「今まで苦労してきたんやね」と同情し、静華は理解者が出来て嬉しいのか、大きく頷いています。


2人が仲良くなったのは嬉しいのですが、やっぱり仲間外れは寂しいです……

そんな私を見て、師匠が慌てて説明してくれました。


「ちょっと前にも言ったけど、正直、2人とも今までに見たことないレベルで可愛いやん。

さらにゲーム内やと男の方が多いから、まさに激レアの存在やねん。

そんな子達がいると、良からぬ事を考えるヤツも出てくるし、何かとトラブルの元になりやすいから、なるべく姿が分からないようにローブが必要になるねん」


お兄様とお父様以外の男性で、面と向かって可愛いと言われたのは初めてです。

そんな真っ直ぐ伝えられるとかなり照れてしまいます……


「照れてしまいますね……」


「なんでや?今まで散々言われてきてるやろ?

そこら辺のアイドルとかと比べても全然可愛いと思うで」


それにしても、先ほどから師匠の関西弁のインパクトが強過ぎませんか……

話し方のギャップもあり、照れも引いてきました。


「それとな、2人ともプレイヤーネームが白いやろ、

名前が白いままやと、キャラメイクにほとんど手を付けてない証拠やから、ゲームで作られた姿じゃなくて、現実世界でもその可愛いさって事になるねん」

「確かに、ゲーム内でも顔立ちが整ってるヤツもいるけど、元の姿から弄くり過ぎて、プレイヤーネームがほとんど黒くなってるからなぁ……

その点、2人は違うから、余計にトラブルを生みそうで早くローブが欲しいところや……」


道中ずっと、師匠は私達の容姿について褒めちぎってきたので、関西弁の話し方に違和感を感じなくなってきた私はずっと赤面しっぱなしです……


チラッと後ろを見ると、静華の頬も少し赤くなっています。あの静華を照れさせるとは師匠やりますね……


やっとの思いで防具屋に到着し、褒め地獄から脱出することに成功しました。


「ここが防具屋や、ここでローブを買ってくるから商品でも見て待っといてな」


「えっ……師匠が買ってくるのですか?」


「ああ。だって一番安い旅人のローブでも2,000ルピするから、お金足らんやろ?」


「そんな…カフェでもご馳走して頂いたばかりなのに、申し訳ないです……」


「師匠から弟子へのプレゼントやから、遠慮せずに受け取っとき」


師匠はそう言って、ローブを2着持ってカウンターの方へ歩いていきました……

師匠呼びのツケがこんなところで帰ってくるとは……


店内をうろつき、暫く待ってると、師匠がカウンターから帰ってきて、店を出ます。

トランクイル平原へ向かう道中、師匠は私達にローブを手渡してきので、しっかりと感謝を伝えます。


「師匠。ローブありがとうございます。大切にしますね」

「パンダモンさん。ローブありがとうございます。大事に使わせて頂きます……」


ローブを装備すると、装備欄の体の所に

【隠者のローブ】(DEF+10)とステータスに表示されました。


「あれっ?…… 師匠は旅人のローブを購入したのではなかったのですか?」


私が問うと、師匠はとぼけた表情で、「師匠から弟子に初めてのプレゼントやで、そりゃ良いもん送りたいやん」と仰いました。


しかも隠者のローブにはスキルが付いており、スキルの欄に新たにPassiveの文字が出てきて、その下に【ハイド】と記載されています…


「こんな高価なもの、頂けません……」


「いやいや、そんなに高くないよ。フェリシアちゃんやユキナさんが着てくれるだけで俺は嬉しいから、あんま気にしんといて」


そう師匠は言ってましたが、隠者のローブの棚には確か50,000ルピと書かれていた気がします……

私の所持金の50倍をポンッと出せる師匠ってやっぱりスゴい方です。でも、いつかは恩返しをしたいですね……


「そうそう、ハイドのスキル見てみ」


師匠に促されて、ハイドのスキルを長押しすると、

【ハイド:ローブを被っている間、気付かれにくくなる】

と書かれていました。

あれっ?ヒールの時はMP消費が書かれていたのにハイドには書かれていません……


「師匠。ハイドのスキルにMPの消費量が書かれていないのですが……

この場合はMPを使わずにスキルが使えるのでしょうか?」


「そうやで、フードさえ被っとけば、常にハイドの効果があるし、MP消費もないから便利やろ」

「ちなみに、もっと良いこと教えてあげるわ。

装備に付いてるスキルも熟練度を100%にする事で、その装備を外しても、付いてるスキルは使用出来るで」

「まあ今回のハイドはフードを被るって条件が面倒やからなぁ……

スキルの習得出来たら、スキルショップに行って条件の変更か上位スキルに進化させんとな」


「えっ、そんなこと出来るんですか!?」


「勿論。まあ、中級者ぐらいになってからやけど……

スキルショップに行くと、お金が湯水のようになくなるからなぁ……」


過去にお金がなくなった事を思い出してなのか、師匠は遠い目をしてます……

私と静華のローブ合わせて10万ルピを、ポンッと支払った師匠が、そんなことを仰るとは、スキルショップ……

恐ろしい場所です……


「そろそろ、着きそうやね」


アインベルグの西門に辿り着くと、足を止めました。


「じゃあ、まずはパーティーを組もうか」

「メニュー画面にパーティーの申請ってあるから、これでパーティー編成できるで」


「分かりました。ちょっと待って下さい……」


「良かったわ! フェリシアちゃんにパーティーが通じて……

パーティーするならケーキが必要ですね!とか言われたらリアクションに困るところやったわ……」


師匠が何やら失礼な事を言ってます……


「私だってパーティーぐらい知ってます!」


このままでは、また残念な子認定されそうだったので、胸を張って師匠に言ってやりました!


「推察になりますが…先程のカフェでパンダモンさんが、

ステータスの特化についてお話してた時に、固定パーティーの事を触れられていたので、お嬢様は前後の文から言葉の意味を推理し、知ったかぶりをしてるだと思いますよ」


「…思わぬ所からの裏切りです!?」


静華がまさか師匠側に付くとは……

まさに静華が指摘した通りなので、二の句が継げないでいると、静華は何事も無かったかのように、しれっと話題を元に戻していきます……


「お嬢様。パーティー編成は出来ましたでしょうか?」


「もう少し、待って下さい!」


「あっ、俺にはパーティー申請送らんといてや」

「パーティーメンバー増えたら増えるほど、熟練度上がりにくくなるなるから……

パーティーは2人だけで組んどいて。

ヤバくなったら助けるから安心してや。」


師匠の気遣いと静華のからかいを受けながら、やっとパーティー申請が出来ました!

静華がパーティーの了承をしたので、私のメニュー画面にパーティー結成の通知が届きました。


「これで、私とユキナもパーティーですね!」


「改めてよろしくお願い致します。お嬢様」


そう言って私達はトランクイル平原へ足を踏み入れるのでした……

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