第12話 セッキン(4/7)
私は無事にテスト用紙を藤井君に返すことができた。
美央の言うとおり、一度話してしまえば緊張はなくなっていた。明日からは普通にあいさつできる気がする。
藤井君は実は人見知りだったのか、話しているうちに表情が柔らかくなっていった。教室では結構気を張っているのかもしれない。
「葵、良かったね」
出番のなかった美央が、後ろからこっそり話しかけてきた。
ありがとう。ふり返ってそう言おうとした時、美央のさらに後ろからすごい勢いで近づいてくるショートヘアの女子が見えた。
「あーっ、藤井またラブレターもらってるう!」
よく通る大声が響いて、下校中の生徒がいっせいにこちらを見た。
えええっ⁉︎
「ちがっ……」
「ちがうから」
私よりも先に藤井君がはっきりと否定した。全然あわてていなくて……カッコイイ。
「うわっ、吉田ひな子じゃん」
美央が私に耳打ちする。美央は吉田さんが苦手みたいだ。
となりのクラスだから私は話したことがないけれど、藤井君とは別の意味でかなり目立つ存在で、一応しっかり者のリーダータイプらしい。
「あの、吉田さんちがうから。これ、漢字テストのプリントなの。藤井君に返しただけだから」
「ふうん。藤井、ちゃんとお礼言った?」
吉田さんは私と藤井君の間に強引に割り込んできて、漢字テストの点数を確認した。私もこれ満点だったよと、藤井君にからんでいる。
藤井君は少しうっとうしそうだ。
「川上さんだっけ? 藤井、これで結構恥ずかしがりだから、気にしないでね」
美央が頭の中で、あなた何様ですかーって叫んでいる気がした。
私は、吉田さんが藤井君と同じ塾に通っていて前から仲がいいのを知っている。吉田さんは、藤井君に話しかける私を
そういうの、ちょっとイヤだな。
ここはまだ校門を出て少しのところだから、生徒がいっぱいいる。
吉田さんが大声でラブレターなんて叫ぶから、上級生も含めてものすごく注目されてしまっている。みんなが私を見て行く。
藤井君のことで私と吉田さんがケンカしていると思われたかもしれない。
最悪。
「美央、なんか周りから見られちゃってる」
「葵、もう帰ろうよ」
美央が私の制服のすそを引っ張った。
「うん……」
視線が気になって、恥ずかしくなって下を向いた。
どうしよう。
藤井君はただでさえ目立つのに、めいわくかけちゃったかな。
藤井君の顔が見られない。
藤井君、イヤだったよね? 怒っているよね?
……うわあ、考えがどんどん悪い方に向かっている。
「ほらっ、葵。帰ろう!」
美央が強引に腕を引いて、立ちつくす私を動かしてくれた。
「美央も、まき込んじゃってごめんね……」
「やだっ暗いって。勝手に落ち込むなー。こんな時こそ、葵デース美央デースって! 有名になるチャンスだって!」
美央が優し過ぎて泣きそうになる。
「ほらっ! 葵デーえ……」
「アオイさまーーーーっ!!!」
え?
「あっおいっさっまあーーーーっ!!!」
美央の漫才よりも、吉田さんの大声よりも、さらに大きく目立つパワーワードが飛び出した。
アオイ様⁉︎
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