第8話 ソウグウ(8/8)

「アオイ様、落ち着きまづた?」


 私のベッドに勝手に座った宇宙人は、ポンポンと布団をたたいた。

 となりに座れということ?

 蓮君の横に並んで座る。中身は宇宙人なのに、緊張してドキドキした。

 これ、おうちデートの上級編じゃないの?


「アオイ様。ワタシ変身したので、約束確認でし」

「はい」


 声がふるえてかすれた。きっと顔が赤くなっている。どうしよう、このシチュエーションってかなり恥ずかしい。

 宇宙人は心なしか体を寄せてきた。肩がふれるくらいの近さ。となりの体温を感じる。

 わわわっ。近過ぎだってば!


「アオイ様、緊張しないで大丈夫。中身、ワタシでしよ?」


 楽しそうに笑っている。

 私、宇宙人に気をつかわれてしまっているかも。


「アオイ様、しばらくお世話になりまし。メイワクかけない頑張りまし。ご飯はゴムヨウ、これもアバター。ああ、でもアイスはうれしいでしよ」

「チョコ味、ね」

「ハイ。でもアオイ様くれたら何味でも好きでし」


 また、うれしそうに笑った。足をパタパタさせて、はしゃいでいる蓮君はすごくカワイイな。

 ……じゃなかった。宇宙人だ。


「そうだ。名前は? 私、なんて呼べばいい?」

「ワタシ、日本語の名前ないでし」

「そう。……じゃあ、銀太郎ぎんたろう。どう? 」


 まあ銀色だったからっていう、そのまんまだけど……。


「銀太郎。ギンタロウ。ギンタロウ……」


 宇宙人はまるで呪文のように、何度もくり返した。


「ギンタロウ、とてもイイ名前。アオイ様くれた、うれしいでし」


 蓮君の笑顔がまぶし過ぎて、まともに見られない。

 笑っている中身の宇宙人、銀太郎は本当にうれしそうだった。宝物でももらったみたいに、大切な物をあつかうように、ギンタロウと声に出した。

 ああ、名前をつけるって気持ちをプレゼントするのと同じだ。

 そんなことをふと思った。


「銀太郎……」

「ハイ!」

「お手」

「ハイ?」

「……ごめん。なんか子犬を拾った気分になった」

「ほお。では、ハイ!」

「△@&¥$□#!!!」


 蓮君が、軽くにぎった手を私の手のひらに乗せている⁉︎

 ご主人様にじゃれてしっぽをふる子犬の笑顔だ。ご主人様を一途に信頼してまっすぐに見つめるキラキラの瞳だ。

 蓮君……

 キュン死。


「アオイ様、お気を確かにーーーーっ」


 こうして宇宙人、銀太郎は当分の間ウチで暮らすことになった。



 

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