第二章 未知とのセッキン

第9話 セッキン(1/7)

「あらまあ、ホントに蓮君じゃないの。ああ、やっぱりステキねえ。なんだかずいぶんと豪華な息子が当選しちゃったみたいだわ」

「オカーサン様お喜びでワタシも大喜びでし」


 お母さんは朝からとにかく機嫌が良かった。

 いつもおだやかで何事にも動じないお母さんだけれど、さすがに福引きの特賞でも引き当てた気分なのだと思う。

 最初に見たのが銀色のツルツルだった反動なのか、現れたのが完コピの滝川蓮君だからなのか。

 いずれにしても昨日の今日で、宇宙人はお客様どころかすっかりウチの家族になっていた。


「銀太郎君はご飯いらないっていうから、チョコアイスにするわね」


 三人分の朝食と銀太郎分のアイスが並ぶ食卓で、当たり前のように「いただきます」をする。

 ウチってつくづく平和だと思った。

 ああ、蓮君がとなりでチョコアイスを食べている。

 見とれる私に銀太郎は笑顔を返す。

 ドキドキして心臓に悪い。コレ、宇宙人なんだけどな……。


「あら、でもこのままだと蓮君とまちがわれちゃうわねえ」


 お母さんは、棒アイスを堪能中の銀太郎の横に来てふわりと髪をかき上げた。

 サラサラストレートヘアが、くしゃっとゆるいくせっ毛のように広がる。


「あー、それいい! こんな蓮君見たことないけど似合う! 別人みたい」

「でしょう?」

「うーん、パパにはさっきと同じに見えるけど」

「全然ちがうでしょ!!」


 パパはまだ首をかしげている。


「うーん。そのレンクンと同じ姿に変身したといっても、銀太郎は最初から銀太郎だよ? 葵ちゃん、銀太郎にレンクンの理想を押しつけたらダメだよ?」

「わかっているわよねえ、葵? 私たちにとって、蓮君は一人だものね」

「うん……」


 お母さんは堂々と蓮君に忠誠を誓ったけれど、私はあいまいな返事しかできなかった。

 宇宙人が蓮君の姿で目の前にいたら、ちがうとわかっていても蓮君って呼びたくなるでしょう? 蓮君だったらきっとこうするのにって、思ってしまうでしょう?


「ちょっと、なにしているのよ銀太郎? それ、食べられないでしょっ」

「スミマセン」


 アイスの棒をかじってボロボロにするなんて、蓮君は絶対にやらないからっ。

 あ、これは理想の押しつけじゃないからね。蓮君じゃなくてもやらないから。

 銀太郎は叱られた子犬みたいに一瞬しゅんとなって、それからすぐにケロッとして笑った。


「ワタシ、アオイ様のリソー頑張りましよ? そしたらアオイ様、ワタシ好きになってくれまし」


 銀太郎は常にニコニコして、努力に前向きで、超ポジティブ思考の宇宙人だった。

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