第12話

「……、別になにも……、アオイくんはただのチームメイトですし」

「でもさ、夕菜、いつもアオイくんのこと見てるじゃない?」

「あれは、……違うんです! 好きとか、そんな風にアオイくんのことを見ていたわけじゃなくて」


 あわてて私が否定したら、ワカちゃんセンパイが突然目を丸くしてなにか言いたげに口をパクパクさせている。

 そんなことより今は誤解をとくためにと、先輩の仕草にかまわずに話を続けた。


「私がアオイくんのことを見ている理由は一つだけですよ。アオイくんのプレイを見ているのが好きなんです。きっと素晴らしい選手になるって、そう思うので。だから恋とか、そんなんじゃ全くないですから」

「だってさ、センパイ。もう新木のことからかうの止めてあげてよ」


 ポンと私の頭の上に乗せられたボール。

 それをつかんで振り向いたら、着替え終えたアオイくんが困った顔で笑っていた。

 なんで? いつからいたの? 聞かれちゃった!?


「あ、あの、今のは」

「じゃ、お先に、新木、ワカセンパイ! お疲れ様でした~!」


 笑顔で去っていくアオイくんの背中に、それ以上何も声をかけられない。

 

「夕菜のバカ、だから止めたのに~!」


 あ、さっきセンパイが何か言いかけてたのはアオイくんがいるよって教えてくれてたのか。


「だって……、アオイくんには大事な子がいるって。だから」


 だから、私の気持ちは絶対に知られちゃいけない。

 唇を噛みしめたらせっかく磨いた床に、誰かの汗が落ちた。

 違う、私の涙だ。

 ボタボタ落ちる涙が止まらなくて、膝を抱えて座り込む。


「あのね、夕菜。その大事な子はね、多分」


 よしよしと私の頭を撫でてくれたワカセンパイの話を聞いて、更に止まらなくなる涙。

 だって、知らなかったんだもん。

 知ってたら、私は――。

 私は、どうしたい?

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