実験03
佐藤は周期表を見てまた考えだした。
「三十四番セレン… 人の名前に変換するとかか? うーん」
私も二人の後ろからのぞき見る。二人とも背が高いから見えにくいな。
「ちょっ私も見たい。背ぇ高すぎ。見えん」
佐藤とユウはすっと間を開けてくれた。
https://kakuyomu.jp/users/akilala/news/16818093089630816532
「あー、これは私でも分かる。すい・へい・りーべ・ぼくのふね でしょ?」
「… あぁ」
「そうそう。これは覚えてたんだね」
「だって暗記用の歌があったから。私、歌は得意なんだー」
「そっか。でも三十四番がセレン? だとしても何だろう?」
と、佐藤と同じようにユウも周期表とにらめっこを始める。
「だねー。ん? ここ、盛り上がっているような…」
にらめっこをしている二人の横で、私はふとセレンと書かれた所に触れた。するとセレンの部分がはがれ、折畳まった小さな紙が落っこちた。
https://kakuyomu.jp/users/akilala/news/16818093089630885767
「これ… 裏に何か書いてあるんだけど? 『偉人の歌』?」
https://kakuyomu.jp/users/akilala/news/16818093089630920005
「またクイズか… 偉人か。理科の偉人… 居すぎて絞れないな。セレンの発見者の事なのか?」
佐藤はスマホでセレンの発見者を検索し始めるが、眉間にシワが寄ったままカチャカチャしている。
「どした? まだ検索出ない?」
「違う。スマホが… 電波がない。と言うか電源が勝手に切られている。そしてスマホ自体が再起動しない」
「うそ!」
慌てて私とユウは自分のスマホを確認する。本当だ。通じない。
「どうすんの? これって外とも連絡取れないって事じゃん。てか、しくった。一番に確認すべきだった」
「本当に… スマホの存在をすっかり忘れてた… どうしたんだろう俺。まぁどの道、助けての連絡は出来ないけどさ」
いつも触りまくりのスマホの存在を忘れるなんて… JKとしては一生の不覚。
「じゃぁ、そのセレンの発見者がわからないって… 進まないじゃん」
「まぁ、そうなるな… 他の道を探さないと」
そう言うと佐藤は理科室の戸棚を詮索し始める。何か手掛かりになるような資料がないか見ているみたいだ。
「他… セレンの裏に書かれているけど違うかも。偉人の歌だよ? 歌。セレンは関係ないかも」
ユウがセレンは関係ないんじゃないかと言い出した。
「歌ねぇー。私、歌、結構得意だけど、理科とか科学者とか? それ関係の歌い手知らないなぁ」
「だよね、研究とかしてる人は歌手にはならないか」
完全に手詰まり? と、私とユウは中央の席で座ってボーっと考える。
これからどうするか、どうなるんだろうと不安だけが募っていく。佐藤は諦めずにまだ資料を漁っている。私はいつものクセでふふふ〜んと鼻歌が出てしまった。
「あっ、それ、最近TikTokでよく流れてるよね」
「あっ、うん… あーそだねー」
しまった。つい口ずさんでしまった。秘密なのに… しかし、佐藤は抜け目がなかった。『しまった』と言う顔を一瞬した私にすかさずつっこむ。
「おい、何か問題が? その歌にヒントがあるのか? なぜそんな反応をする? 何か分かったなら何でもいいから言ってみろ。確か、ケープとか言う歌手の歌だろ?」
は? 何で佐藤が知ってるの? まだまだマイナーなのに。
「い、いや。何でもない。好きでいつも歌ってるからクセで出ただけ」
「何でもない事はないはずだ。『しまった』ってした顔が見えた」
佐藤は引く気はないみたい。
「だから、何でもないって。マジで」
「いや、小さな事でも今は何か手掛かりになるかもしれない。さっきのは僕の見間違いでも無い。何がある? 何だ?」
こいつ! 自分が納得するまで追求するやつじゃん。うざっ。マジでどう返す?
「てか、個人的な事だし… 佐藤には怪しく見えたかもしれないけどそう簡単には言えない事で、このクイズには関係ない。それだけは断言できる」
「なぜ断言できる? 別に訳を聞いた後に僕が判断するが?」
「はぁ??? 聞いてた? 個人的な事だって。プライバシーだっつーの」
私と佐藤のやりとりを聞いていたユウはちょっと困っている。ワタワタしながら私の肩を持ってくれた。
「まぁまぁ、佐藤も。チルはクイズに関係ないって言ってるんだし、そこは信じようよ。仲良くしよう?」
「ふん、馴れ合うつもりはない。そもそも知り合いでもないし、僕だって無闇に人を疑いたくはないんだ。でも、今、理論的に証明できない事が起き、こうして不可式な謎解きをしているのも現実だ。だから何でも言って欲しい。早くここを出ないと」
確かに。と、ユウも思ったのか私をうかがいの目で見つめてくる。イケメンのキラキラ瞳… 眩しい。
「うっ… ほんっとに関係ないんだって… そんな目で見ないでよーもうっ」
二人はまだ私を見ている。これは言うまで見てくるな… このままって訳にもいかないし。あーあ、はー。
「じゃぁ一つだけ約束して。私が何でそんな顔をしたのか聞いても誰にも絶対に言わない事。それを約束してくれるなら言う。てか、本当に関係ないんだけど?」
「あぁ、いいだろう」
「分かった」
何だよ、結局疑ってるんじゃん。まぁ、元々知らない同士だし。しょうがない、か。
「私がそんな顔をしたのは… ケ、ケープは私だから。つい自分の曲を口ずさんでしまったから。焦っただけ。以上」
ユウはポカンと口を開けて固まった。一方佐藤は口を押さえて顔を真っ赤にして私を指差す。
「お、お前がケープ? ほ、本当に?」
「うん。私一芸入学じゃん、歌でね。でも、学校はSNS活動禁止じゃん? 入学後に、てか最近ちょいちょい有名になってきてーだから。てか佐藤もTikTokとか見るんだね」
「あっいや… まぁ人並みには… 岬満がケープ… うそだ…」
と、佐藤はブツブツ言いながら頭を抱えている。
「何その反応。意味わかんないんですけど。それより秘密にしてね。退学だけは勘弁して欲しいし、友達にも秘密にしてるんだから。絶対誰にも言わないで、お願い」
ユウは頭の整理ができたのかニコッと笑って私に
「大丈夫、誰にも言わない。てかごめん、さっきは疑って。本当に関係なかったな。しかし、こんな身近に人気歌手がいるなんて! あとでサインちょうだい」
「う、うん。て、ユウ、アレ大丈夫?」
コソコソと私は佐藤を指差す。
「多分… 反省してるんじゃない? 分かんないけど」
「ならいいけど… 佐藤? おい、佐藤?」
「ん? はっ、何だ?」
「約束守ってよ」
「あぁ… すまない」
「いいよ。で? 『偉人の歌』はどうする?」
「そうだな」
「そうだねー」
と、三人は振り出しに戻った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます