実験02

「てかさぁ何で閉じ込めたりするんだろう? うちらの共通点は無くない? なぁ、佐藤」


 さっきからあのメッセージを元に佐藤が何やら計算をしている。ブツブツと真剣な佐藤にお決まりの様に無視された。私はユウを見て『はー』とため息をつき話を変える。


「ユウは? 心当たりあるの? てか何で補講?」


「補講の理由? 俺さぁサッカーのジュニアクラブチームに所属してて、先月合宿があってさ、丸っと学校休んでるんだよ。それで」


「出席日数足りない系かぁ。… で? 佐藤は?」


「……… 僕は授業中に他の教科を勉強して、だ」


「どんだけ勉強好きだよ。でもさぁそれって注意されるぐらいじゃないの? 他もあるでしょ? 何やったんだよーあはは」


「……… い、一回じゃない」


「え?」


「五回は注意された」


「………」

「………」


 ユウと私はお互いを見合って飽きれる。


「自業自得だな」

「やべぇな」


「そ、そんな事は君たちに言われなくてもわかっている! それよりこれを解く気はあるのか? さっきからぺちゃくちゃと!」


 モニターを指差しにらみつけてくる佐藤は、この謎のメッセージに手詰まりの様子だ。


「だってー、フレミングの法則っての? 知らんしー」


 今まで友好的だったユウが驚愕きょうがくの顔で私を振り返る。


「チ、チル。フレミングの法則を知らない? サッカーバカの俺でも知ってるぞ。ほら中学の時に習ったろ?」


 と、右手を前に出してきた。指が三本、違う方向を指している。


「何これ? Yo Yo的な?」


「いやいやいや。ラップじゃないよ。これがフレミングの法則。電・磁・力だよ。力の法則。本当に覚えてないの? 受験勉強したでしょ?」


「あー私、一芸入学組だしー。何となく覚えてるような… 気が? へへへ」


 佐藤は私に向けて盛大にため息を吐いてから無言で作業に戻った。


「えー。何その態度ー病むー」


「まぁまぁ。佐藤は多分計算が合わないから悩んでるんだと思うよ。あの計算式がフレミングの法則の式と合わないんだよ」


「ふーん、計算ねー。てかさ、普通に計算してもダメじゃね? これ」


 と、佐藤がやっと私の声に反応した。ふっと頭を上げて真剣な顔で見てくる。


「普通とは?」


「だってさ、これって一種のクイズみたいなもんじゃん? マジに計算する感じじゃない気がする」


 佐藤は合点がいった様に腕組みしてモニターを見つめながら私に問いかける。


「ではこれがクイズだとして、フレミングの法則と横の計算式は見方を変えればいいのか… しかし、どう…」


 ユウも横で手をフレミングの法則にしながら首を傾けている。私も手をフレミングの法則とやらをしてみた。横にしたり、回してみたり…


「あっ!!!」


 と、満面の笑みと大きな声で立ち上がったのは私だ。めっちゃ嬉しい! 絶対コレだよ! 何、この高揚感! 脳汁出る!


「これ! 見て! 上から」


「上から?」


 佐藤とユウはフレミングの法則をした自分の手を見た。


「何かに似てない?」


「ん?」

「似る?」


 うーんとまだ二人はピンときていない。


「ほら! 時計!」


 と、私は教室前方の黒板の上を指差した。


「親指が短い針の時間で、人差し指が分、中指が秒。ね? 時計っぽくね?」


「あ! 本当だ! 時計だな!」


 と、ユウも嬉しそうに私に賛同してくれた。佐藤はまだ首を傾げている。


「そう言われればそう見えるが… しかし、仮にフレミングの法則が時計を表しているとして、横の計算式は? 九+二+三だから十四? この数字はどう説明するんだ?」


「えっと… その…」


 私は佐藤につっこまれて、謎が解けて浮かれていたのが一転、急に下を向いてしまう。ちぇっ、解けたと思ったのに。


「合計数が十四。十四時… 二時か? うーん。意味が…」


 佐藤は落ち込む私を横に時計を見ながらブツブツ考え出した。すると、今度はユウが私の肩を叩きながら嬉しそうな顔をして立ち上がる。


「わかった! 指をこの数字に当てはめてみて!」


 指を当てはめる?


「親指が九とか?」 


「そう!!!」


 私が『ん?』と思いながら、他の指を当てはめていると佐藤が急に話し出す。


「そうか! なるほど… となると答えは三十四」


「は? 何でそうなるの? ちょっと待って、まだ指を当てはめきれてない」


 慌てて私は時計を想像しながら指を動かす。あたふたしている私を見てユウがわかりやすく説明をしてくれた。


「まず針の長さを念頭において、フレミングの法則を上から見たら、親指が一番上で一番短い時間を表す九時、人差し指は二番目で二で分だから十分、最後は三で秒だから?」


「十五秒!」


 と、嬉しくなった私はユウと指を差し笑い合う。


「そうそう。でね、足し算を書き換えると、九 たす 十 たす 十五 = 三十四」


「おー! これ、答えっぽいな。で? どうなんの? ドアの鍵が開くとか?」


「それは… 確かめてみよう」


 私とユウは早速、前後の入り口のドアを確認した。が、開かなかった。


「はぁ、開かないじゃん。どうすんの? って事は、次は『三十四』の謎を解くの? 三十四って何の意味があんだよ。ただの数字じゃん」


「そうだな…」


 うーんとユウと悩むが一向に答えは出ない。しばらく悩んでいると、佐藤が教室を見回しあるポスターの前で目を止めた。


「アレだ」


 と、佐藤が指差した方を見る。


「何、何?」

「そうか!」


 私とユウの反応は違う。私だけ分かっていないみたい。


「そうだ。この理科室で行われているクイズで三十四が関わる物、つまり、それは、化学元素記号の周期表だ」


「え? え?」


 と、私はまだピンときていない。『うん』とお互いうなずいた佐藤とユウはすぐさま周期表が貼られている壁へ移動した。

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