ロックドルーム 〜密室からの脱出〜

Akila

笑う理科室

実験01

 担任のルミちゃんが帰りの号令をした途端に、ガヤガヤといつもの放課後が始まる。


「あっ、そうだった! 岬さん、岬さん。理科の江須えす先生が補講だって言ってたわよ。十六時半に理科室だって。ごめーん、時間ないし急いでーよろしくねー」


 と、ルミちゃん先生が忘れていたのか、申し訳なさそうにあわてて言いに来た。既に帰り支度が終わっている私はあからさまに不機嫌になる。


「えー聞いてないー。今からカラオケなのにー。そだ! ルミちゃん、言い忘れた事にしてくんね?」


「ダーメ。ふふ、しょうがないよ。小テスト三連チャンで落としたんだって? 江須先生がこぼしてたわよ。はい、がんばって」


 バンと私の両肩をタッチしてルミちゃん先生は機嫌よく帰って行った。


「マジかー」


 思いっきり肩を落とす私。隣で聞いていた親友のみいちゃはケラケラ笑いながら


「三連チャンって。ぷはは。そりゃサボれないっしょ。停学になったらどうすんの? (カラオケ)遅れていいから行ってきなー」


「他人事だと思って… 理科って言うより江須が苦手なんだよ。はー」


「大丈夫だって。どうせビデオ見るか掃除とかでしょ? すぐ終わるって」


「はー」


「先、行ってんねー」

 

 みいちゃはそのまま他の友達と連れ立って消えて行った。私はみんなとは逆方向の理科室へと向かう。


「マジで憂鬱ゆううつ… 何でよりによって今日なんだよ」


 渡り廊下を渡って別棟の理科室へ到着した。は、いいけど… 様子がおかしい。野生の勘って言うの? 教室に入る前から何だか暗くて重苦しい感じがする。て、ただ今の自分のテンションでそう感じてるだけか。とほほ。


「入るの嫌だな」


 そうは言っても行かないと… ね。ガラガラガラ。


「うっわ。人少なくね?」


 教室の前の方で音楽を聞いて座っている体育部の… 誰だっけ? 結構イケメンで有名な… 名前が出てこない。まぁ、その男子と、その斜め後ろに頭良さげな男子が教科書を広げて座っていた。


「ねぇ、ねぇ」


 とりあえず話しやすそうな体育部男子に声をかけた。指を耳に向けてイヤホンを外すように促す。


「ん? 俺? 何?」


「あぁ… これって補講で呼ばれたで合ってる?」


「そうだ、と思う」


「ふーん。少なくね? これで全員? てか、あのメガネは補講って感じじゃない気がするんだけど?」


「そうか? うーん。なぁ、君!」


 と、すぐさま体育部男子はメガネに話しかけた。行動はやっ。コミュ力すっご。


「は? 僕?」


 眉間にシワを寄せたメガネは面倒臭そうに答える。


「うん。君も補講組?」


「そうだけど… 何? 何か問題でも?」


 何故か明らかに怒っているメガネ。そんな反応に体育部男子は少したじろいている。私はちょっとムッとしてつい口に出てしまった。


「おい、聞いただけじゃん。てか何で怒ってるんだよ。ただの補講じゃん。メガネでも勉強できない人はいるって。気にすんな」


「失敬な。さっきからメガネメガネって。君はもう少し考えてから言葉を発した方がいい。それより、僕は勉強が出来ないんじゃない。君たちと一緒にするな」


 ふん、と鼻を鳴らして再び教科書に目を落とすメガネ。


「じゃぁ、何で居んだよ! おい!」


 と、噛みつく私を丸ッと無視して教科書を読み続けるメガネ。


「クッソ、おい!」


 駆け寄ろうとした私を体育部男子が制した。その時


『ガチャ。ガチャ』


 と、前後のドアの鍵が閉まる音がした。ビクッとなった私と体育部男子は目を合わせてからドアの鍵を確認しに行く。引き戸を何度も開けようとするがびくともしない。


「え? 何で?」


 放心している私を余所に、体育部男子が後ろのドアも確認したが開かなかった。あーあ、イヤな予感的中じゃん。


「こっちも開かない… どういう事だ?」


「わかんない… 補講は? てか、何なのこれ?」


 メガネもびっくりしたのか無言で私たちを見ながらその場で立ち尽くしている。

 とりあえず落ち着かなきゃ。これからどうしたら… 江須が助けに来るのか? いや… 助けって。そもそも何で鍵が…。

 私は振り返り深呼吸をしてから教室を見渡すと、テレビ画面に文字が映っていた。私は口を押さえながら画面を指して二人に合図を送った。


「あ、あれ…」


 二人はすぐに画面を見る。それを見た二人ともが口が半開きになった。


(脱出ゲーム用・問題イラスト↓)

https://kakuyomu.jp/my/news/16818093089519667036


「謎を… 解け? は?」


「もしかして、本当に閉じ込められた? 新手のイタズラか?」


「いやいやメガネ… こんなイタズラ… 普通あるわけないっしょ」


「じゃぁ、何なんだよ。僕は君達と違ってこんな事をしている暇はないんだよ。塾があるのに… どうしよう」


「あぁ? あたしもカラオケが待ってんだよ。一人だけ忙しいみたいな言い方すんな」


 ギャーギャーと言い合っている私とメガネの間で、意外にも真剣な面持ちで体育部男子が静かに話し出す。


「なぁ、二人とも。今騒いでも仕方がない。肝心の江須先生も居ないしな。普通、画面に、あんな事は起きないはずだ。だから…」


「だから?」


「だからここは力を合わせて謎を解こう。それが今できる最善じゃないか? どう?」


 体育部男子はそう言って私たちを交互に見た。


「んーまー。そだね」

「… そうだな」


 ちょっと気まずい感じはするけど、まぁ、それが一番いいか。そして、体育部男子はニコッと微笑むと手を差し出してきた。


「俺は三組の吾妻悠太あずま ゆうた。ユウでいいよ。みんなにはそう呼ばれてる。ちなみにサッカー部なんだけど君たちは? 短い間だけど仲間になるんだし、名前ぐらい教えてよ」


 今時握手って。ははは、まぁ、ここはノリを合わせて行きますか。私もニコッと笑って返す。


「あたしは八組の岬満みさき みちる。チルでよろしく」


 紹介し合った私とユウは二人してメガネを見る。


「あっ… 僕は一組の佐藤翔吾さとう しょうご


「すんげーじゃん! 一組って特進クラスじゃん! やっぱメガネは頭いいんだなーって、ショウゴでおけ?」


「君は… 馴れ馴れしい。どうせ今だけなんだ、普通に佐藤と呼べ」


「へーへー」


「まぁまぁまぁ。よし、じゃぁこの謎を解いて早く教室を出よう」


 そんなバラバラな私たちはいつもの平穏な放課後から一転。理科室からの脱出を目指して謎解きをする事になった。

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