第9話
『桜の葉園』から駅5つ分離れた場所は都内の中心地。駅から10分歩き、治安の悪い繁華街の中でも比較的落ち着いた通りのひとつにその店はあった。
喫茶店『
イタリア語で「太陽」を意味するこの喫茶店は、小さい個人経営の店だが20年近く続いていて常連客も多い。
今日から私はアルバイトを始める。早く自活して、園の迷惑にならないように、少しでも生活費の足しにしたいと以前から考えていた。アルバイトをしたいと涼子先生に相談したら、先生の古くからの友人である夫婦が営んでいるという喫茶店を紹介してくれた。
瞼を閉じ、深呼吸をする。
初めてのアルバイトだ。緊張する。……でも頑張らなきゃ。店のドアを開けて、一歩前へ踏み出した。
「こんにちは」
「あら沙良ちゃん」
明るく快活な笑顔を向けてくれた人は田島佳代子さん。準備中だった佳代子さんは私に気がつくと出迎えてくれた。
「先日はありがとうございました。今日からよろしくお願いします」
この前、涼子先生が佳代子さんに連絡してくれて、軽い面接をしてもらった。そして、佳代子さんは「いつでも来てくれていい」とその場で採用を決めてくれた。
「いーえ〜!こちらこそよろしくね!あっ今、哲郎呼んでくるわ」
佳代子さんは厨房に向かい、厨房で仕込み作業中だった旦那さんの哲郎さんを呼ぷ。
「おっ沙良ちゃん!たしかアルバイトは今日からだったな。よろしくな」
佳代子さんと一緒に出てきたのは豪快な笑みを浮かべる大柄な体格をした哲郎さん。今日から働く私を2人は笑顔で迎えてくれた。
営業時間になると店内は段々と混んでくる。
私を含め3人で店を回すから状況に応じてレジ、配膳、キッチンに入って欲しいと言われていて、初日の今日は分からないことが多いからと、配膳を中心に働いた。
若干の疲れを感じ始めた頃。緊張感の中、一生懸命に動いていたので気付けば店の客足はだいぶ引いていて、時計を見ればもう9時半を過ぎていた。
「沙良ちゃんお疲れ〜。もう9時過ぎたし、上がっていいわよ」
レジで売り上げの確認をしていた佳代子さんが声をかけてくれる。
「おっ、もうそんな時間か?上がりな〜!」
「あっはい。分かりました」
キッチンにいる哲郎さんにも帰るように言って貰えたので、エプロンを脱ぎ帰り支度をする。2人のフォローのおかげでなんとか初日を終えることが出来た。
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