第8話
沙良ちゃんは、会えばいつも幸せそうに笑っていた。家族関係は順調だと報告してくれた。だから気付けなかった。いや、それでもすぐに気付くべきだった。
違和感を感じたのは半年前。
それはたまたま沙良ちゃんが通う学校の近くを通った時のことだった。
学校の面談の帰りだったのだろう。制服姿の沙良ちゃんと母親。そして母親と手を繋ぐ小さい女の子。横に3人並んで歩いてよさそうなものが、母親と妹の後を数メートル離れて俯きがちに沙良ちゃんは歩いていた。
その光景は、たまたまだったのかもしれない。たまたま母親と喧嘩をしていたのかもしれない。
だけど、どうしても違和感を感じて、少しでも話を聞ければと、沙良ちゃんに園に遊び来るように声を掛けた。
「人手不足だから遊びに来てくれると嬉しい」
そう誘えば、沙良ちゃんは戸惑いながらも頻繁に来てくれるようになった。でも、園に来ても沙良ちゃんが家のことを言うことは何もなかった。頻繁に園に来ているのに宮内夫妻からも何も言われない。家庭環境が上手くいってないという疑惑は確信に変わった。
──…調べて分かったことは家庭環境が上手く築けていたのは最初の2年間だけ。実子が産まれから沙良ちゃんは、蔑ろにされていたようだった。
そして1か月前──…
養子を解消したいと直接宮内夫妻から連絡があった。
「自分達には似ていない沙良を養うほどの余裕がない」
「1人で生きていく能力は十分あるから、自分達はもう必要ない」
彼らの言い分は酷いもので、子供が出来るまでは沙良ちゃんの養子や能力を散々評価していたのに、子供が出来ればあっさり手のひらを返して捨てた。
─…最低だ。だが、そんな彼らの本性を私は見抜けなかった。
それでも沙良ちゃんが宮内夫妻のことを非難することは一度もない。どんなに自分が辛くても、それを微塵も感じさせないように私や子供達には屈託なく笑う。
本当に心優しい子なのだ。
そんな子を私の判断ミスで傷つけてしまった。5年前、宮内夫妻の人柄を見抜いていればと悔やんでも悔やみきれない。
実の親に捨てられ傷ついているのに、もう一度義理の親に捨てられるという傷を負わせてしまった。だから、少しでも彼女を支えたい。少しでも負わせてしまったその傷が癒せるように。
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