第7話


昼休憩前の園長室。園長は事務仕事が一段落すると、ふと園庭を眺めた。


そこでは、沙良ちゃんが職員と混じって子供と遊んでいた。花梨ちゃんと手を繋ぎながら、裕太君と健君のなわとびを数えてあげている。


彼女が桜の葉園に来てから2週間。彼女は時間のある限り子供達の面倒を見てくれ、嫌な顔一つせず、いつも子供達の要求に応えてくれていた。そして、そんな沙良ちゃんは既に再入園する前から花梨ちゃん、裕太君、健君をはじめとする子供達や職員達にも頼りにされている。


「みんな〜!そろそろ、休憩にしておやつにしましょうか?」


入所して2週間経った今、もう沙良ちゃんは大切な桜の葉園の一員だ。庭に出て大きな声で子供達を呼び、みんなに声を掛けた。


「順番に手を洗って、食堂に行くのよ」


「「「はーい!」」」


「沙良ちゃんはちょっとお話ししたいから園長室に来てもらってもいいかしら?」


「私ですか?あっはい、もちろんです」


子供達が食堂に向かうのを見送ってから、彼女を連れて園長室に向かった。





園長室に入るとテーブルを挟んだソファーに座り、沙良ちゃんにも向かいのソファーに座るよう促す。用意してもらったお茶を一口飲み、沙良ちゃんにも飲むように勧めた。


「ここに来て2週間経つけど、どうかしら?園での暮らしにはもう慣れてきた?」


「はい。皆さん本当に良くしてくれて。だいぶ慣れてきました」


「花梨ちゃんは特に嬉しそうね 」


彼女に出会う前の花梨ちゃんはまだ3才なのに聞き分けの良すぎる子供だった。でも、きちんと向き合って、気持ちをいちから聞こうと丁寧に接する沙良ちゃんの態度に心を開き、最近は我儘も少し言えるようになってきていた。


「子供達も職員も沙良ちゃんが来てくれて、すごく助かっているわ。ありがとう」


「…いえっ。花梨ちゃん達はすごく可愛くて、遊んでもらって嬉しいのは私の方です。私の方こそ皆さんにお礼を言わせて下さい。ありがとうございます」


お礼を言ったの、逆にお礼を返されてしまう。優しい彼女らしい反応だ。だけど…


「でもね。あなたは職員じゃないのだから、もっと他の子達みたいに自由にのんびり過ごしていいのよ?無理だけはしないでね」


「無理はしていないです。でも、はい…分かりました」


苦笑いをこぼして頷く沙良ちゃんに、私も微笑み返した。


目の前に座る彼女を改めて見れば、沙良ちゃんは綺麗な子だと思う。160センチ前後の細めの体型に透き通るような白い肌。艶のある胸元までの内巻きかかった自然な黒髪。パッチリした二重の中には薄茶の瞳を持ち、均整のとれた小さな顔。


初めて出会った7年前。

当時10歳だった沙良ちゃんは母親と二人で暮らし、その母親は沙良ちゃんを置いて男と出て行ってしまった。園に引き取り、傷を抱えながらも暮らしに慣れ始めた2年が経つ頃。小学6年生の時、遠い親戚にあたる宮内夫妻が訪れた。


人目をひく綺麗な容姿に、穏やかな彼女の性格を宮内夫妻はひどく気に入り、子供の出来なかった宮内夫妻は、園に何度も足を運び、熱心に私に訴えた。



「あの子を引き取って養子に迎えたい」


「大切に育てたい」


熱心な申し入れと人当たりの良さそうな人柄に、私は沙良ちゃんに養子縁組の提案をした。


だが、それは大きな間違いだった。

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