第6話

───……pi,pi,pi…!!


昨夜セットした目覚まし時計が控えめな音を鳴らした。桜の葉園自室。時刻は5時。与えて貰った個別の部屋で目を覚まし、まだ眠気を残るものの重い瞼を開けて体を起こした。


布団を畳んで片付け、手早く着替えを済まる。部屋を出ると、廊下はまだシーンと静まり返っている。この時間から起きている小さな子供達はまだいない。みんなを起こさないように、そぉっと廊下を歩き、一階の食堂へと向かった。




「おはようございます」


「あら沙良ちゃん。おはよう」


「おはよう!相変わらず早いわね……」


私の挨拶に明るい笑顔で返してくれたのは、この施設を立ち上げた時から涼子先生と一緒に働いている職員の滝先生と北山先生。



「まだゆっくり寝てていいのに」


「そうよ!他の子供達はまだみんな寝てんだから、一緒の時間でいいからね〜」


食堂で朝の準備をしている2人の輪に加わって、食事の準備を手伝おうとすると、いつも2人はそう優しく言ってくれる。


でも、やっぱり……私は小さな子供達とは違うからそうはいかないと思う。


「ありがとうございます。でも、早く目が覚めちゃったので手伝わせて下さい」


すぐに布巾を濡らして食堂のテーブル拭きにとりかかる。


「ありがとう。いつも助かるわ。でも、あまり無理はしないでね」


「無理しちゃダメよ〜」


「はい。分かりました」


二人に笑って応え、優しく気遣ってくれる先生に感謝する。今日もいつものように食事の準備を手伝ってみんなが起きるのを待った。





「沙良ちゃん!おはよう!」


ドタドタドタッ……と勢いよく走ってきた女の子が足元に飛びつく。桜の葉園でお世話になり始めて2週間。少しずつだけど、新しい生活にも慣れてきた。


現在の桜の葉園の入所者数は、未就学児3人、小学生3人、中学生2人の施設。国や都の管轄ではなく、園長個人で経営している。



「おはよう。花梨かりんちゃん」


頭を撫でながら挨拶を返すとキラキラした目を向けながら花梨ちゃんは言ってくれた。


「今日はね!花梨ね!沙良ちゃんとおままごとして遊ぶの!」


「ふふ…いいよ。じゃあ朝ごはんしっかり食べて、それから遊ぼうね?」


「うん!花梨いっぱい食べる!」


花梨ちゃんはこの園で一番年の幼い女の子。半年前に涼子先生の誘いで園に顔を出すようになった時から懐いてくれていて、この2週間でさらに仲良しになった。


「沙良ちゃん!僕もなわとびしたい!」


「僕は鬼ごっこ!」


花梨ちゃんと手を繋いで食堂の椅子に腰掛けると、後から来た5歳の裕太くんと健くんも元気な笑顔を見せてはしゃぎながら席に着く。


「うん!じゃあ、後でみんなで遊ぼうね!」


今日する遊びを話したり、口に付いた食べこぼしを拭いたりしながらみんなで食事をする。穏やかで優しい時間。これが新しく始まった私の朝の風景だった。

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