第30話
最近では、七美と心と三人で食卓を囲むことも多くなった。
「ガツガツ! ガツガツガツガツっ!!」
「……ちゃんと良く噛んで食べなきゃダメ。それに箸の持ち方は、こうでしょ?」
「憤怒っ!!」
ご飯粒を頬っぺたにくっつけながら、七美を睨む俺のメイド。
今夜は、料理が全く作れない心に代わって、七美が美味しい夕飯を作ってくれた。
「ねぇ、コロちゃん。最近、遊んでばかりでしょ。ちゃんと青井さんの世話をしないとダメだよ? アナタは、彼の専属メイドなんだから」
「るさいっ! うるさーーーいっ!!」
「……………七美の言うことも一理あるな(ボソッ)」
シュッ。
タッ!!
壁に心の箸が突き刺さった。俺の頬を掠め…て……。
「っぶな! な、なな、何すんだ!! 危ないだろ!! ってか、逆ギレするなよ。自分じゃ何も出来ないくせに」
「うっ、うるさい! このバカ。糞人間。汚物野郎。お前なんか、ただのお嬢のヒモじゃねぇか。偉そうなこと言うなっ!」
心は、机をバンッ!!と叩くと家を飛び出した。
「…………なんだ……アイツ……」
七美は、倒れた茶碗を片付け、テーブルを拭いていた。俺とは目を合わさず、それ以降一言も発しなかった。
…………………………。
……………………。
………………。
深夜。
なかなか眠ることが出来ず、寝返りばかり。とうとう耐えきれなくなり、アイスを買いに遠くのコンビニまで走った。
そのついでに、俺のメイドがいないか空き地や公園を確認する。
「はぁ……ぁ…はぁ……はぁ……明らかに運動不足だ………」
家を出て、小一時間が経過していた。
隣町近くの児童公園。そのベンチの上に三角座りで、星を数えている家出メイドを発見した。
静かに近づこうとしたら、落ちていた空き缶を蹴飛ばしてしまい、秒で気付かれた。
「ぁ………。さっき…は……言い過ぎた。その…………ごめん……」
「………………」
「あの…さ、心には感謝してる。命をかけて、俺を守ってくれてるから」
人違いかと思うほどしおらしい声がした。
「……わざわざ私を探して、その……優しくするのは、お嬢の機嫌取り?」
「ハハハ、全然違うよ。俺はただ、お前のことが心配だっただけ。うん……。じゃあ、また明日な」
公園を去り、とぼとぼ歩き始めた俺の背中に突然の衝撃。豪快に飛び乗る心。
「進めぃっっ!! 我が下僕よ」
「誰が下僕じゃ………」
「フ………」
小さな温もり。なるべく揺らさないように気をつけながら、暗い夜道を歩いていると、いつの間にか、俺のメイドは背中で寝てしまった。
「……あり…がと……」
この寝言(?)は聞かなかったことにしよう。それよりも家まであと三十分。万一落としたら、殺される。
緊張とぬるい幸せが、交互に俺を襲っていた。
アパートに帰ると、部屋の前で俺達の帰りを待っている七美がいた。
「どうした? そんな地面に三角座りして。中で待ってれば良かったのに」
「…………私……学園でね……この子に酷いこと言ったの……」
「とにかく、中に入ろう。風邪引くよ」
「私……やっぱり…悪魔なの……。最低の糞女………」
「こんなに泣き虫な悪魔がいるかよ。七美は、悪魔なんかじゃない。とにかく部屋に入ろう。腕が、もう…限界でさ……」
その夜。
俺達は、狭い部屋で川の字で寝た。小さい頃に両親を失った俺は、家族の愛に飢えている。
寄せ集め。
血の繋がりもない。
だけどさーーー。
なぜか『家族』を意識してしまい、少しだけ涙が出た。もちろん、そのことは二人には内緒。
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