第31話
ご主人様(バカ)におんぶされ、何だかフワフワ夢心地。本当に気持ち良くて……むにゃむにゃ……。いつの間にか、寝てしまった。
ちょい昔の夢を見たんだよね。
【憎い雨が降り続いているーーー】
傘もささずに立っている私と卯月。
頭や手足がセパレートした元殺し屋が、私達を色のない目、無言で盛り上げる。
『どうしたのぉ? そろそろ再開しないと朝になっちゃうよ~』
足先で死体の頭をこねくり回す長髪お化け、卯月。
『ーーーねぇ。あんたは、今まで何人殺した?』
『ん~~……。まぁ……百や二百じゃないことは確かかなぁ。天魔も同じくらい殺してるでしょ? でも私ね、もうすぐ殺し屋を辞めるの。面白そうな、気になる子がいてね。その子の側にいたいから』
『…………簡単に辞められるわけないだろ? あの人が、そんな勝手を許すわけない』
『うん! 知ってる。だから、アナタ達が裏切り者の私を殺しに来たんだもんね。でもさぁ、もう残ってる殺し屋は、アナタ一人だけ』
『なぁ……卯月。今からさ、五分だけでいいから私の攻撃を耐えてくれ。頼むから、死なないで。………五分後、もしお前がまだ生きてたら、その時は、私も一緒に連れて行ってほしい』
『分かった。いいよ。アナタは、私の一番のお気に入り玩具だから』
雨音が掻き消され、辺りが静寂に支配される。
『アナタの本気……。鬼畜レベルだからなぁ。靴脱いで、裸足になっても良い? 私も本気にならないと、十秒で肉塊にされちゃうし』
鉄臭い雨が、私達の周りを流れていく。
どこまでも。
どこまでもーーー。
夜明けは、まだ先ーーー。
本気になった卯月を前にして、私の中で何かが変わろうとしていた。
………………………………。
………………………。
………………。
目を開けると、まだ夜空がユラユラ揺れていた。
「…ねぇ…ワガママ…言って良い?」
「いいよ」
「………悪いんだけどさ、一緒に悪夢に付き合って。一人だと、恐くて………だから…」
「分かった。ずっと、お前の手を握ってるから大丈夫。安心して眠るまで側にいるから、心配するな」
「……………」
我慢が出来ず、優しいバカの首にキスをした。
「っ!?」
「毛虫が付いてた。もう、取ったから大丈夫」
「あっ……うん……ありがと…。いぃっ!! 何してる?」
この時間が終わらなければ良いと。
「毛虫だらけ」
アパートに永遠に着かないで欲しかった。
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