第29話

夕焼けに染まる会長室で一人。


学園の支配者は奴隷を全員帰らせ、待ち人を静かに待っていた。


カチャッ……。


姿を現したのは、小学生くらいの女の子。噛んでいたガムを机の角にくっつけた。


「待ってたよ。天魔」


「何の用です? わざわざこんな場所まで呼び出して………。ってか、生徒以外の人間が入って大丈夫なんですか?」


「ここは、僕の城。僕が、ここのルールで王だから、何の問題もないよ。………それはそうと、最近、青井君のメイドをやってもらってるけど、どんな感じ? 問題ない?」


「今のところ、問題ありません。まぁ……最近あった楽しいイベントと言えば、お嬢の叔父さん、神楽咲(かぐらさき)様が雇った殺し屋に命を狙われたくらいですかねぇ。雑魚過ぎて眠くなりましたが」


「他には?」


「………………」


相変わらずコイツ、すっごく嫌な目をしてるな。私達、殺し屋とも違う。底なしの異質な闇を感じる。

神華一族の限られた人間にだけ発現する、魔眼。


未来が見える?

人を操る?


気持ちが悪い女ーーーー。


「ありません。あとは……相変わらず、アイツがバカ過ぎるってことくらいですかね~。報告は以上なんで、そろそろ帰っていいっすか? 」


「他には?」


「ないってば! しつこいな……」


「僕に嘘は通用しないよ。知ってるだろ?」


「私もさぁ、アイツの周辺を警戒したりそこまで暇じゃないんで、帰ります」


「彼のこと、好きになったね」


「…っ……」


「でしょ?」


「だったら、何だよ。メイドは、クビか? この場で私を卯月に拘束させて、拷問して、ゴミのように殺す?」


「ハハハハ!! そんなことしないって。天魔は、卯月と同じくらい大事な人間。僕は、ただ君の本音を聞きたかっただけだよ」


私は、扉横の電子錠を破壊し、無理矢理扉を開けた。


「お嬢には、私がアイツを好きになることも初めから分かっていたんだろ? それでも私をメイドにした。やっぱり狂ってるよ、神華の奴らは」


「うん。やっぱり僕は、間違ってなかった。君をメイドにして正解だったよ。命令以上の働きをしてもらうには、別のファクターが必要だからね。例えば、叶わぬ恋とか………」


「この糞女。お前の本性、全部アイツにばらしてやる。裏でしている犯罪も全部な!! そして、嫌われろ。早く別れろ。バーーーーカ」


部屋の温度が一度下がった。


「……………ぜんぶ……タマちゃんは、知ってるよ……。私が……悪魔だって………」



「急に女になるなっ! さっきから気持ち悪くて仕方ないんだよ!! その男の格好、すげぇキモい! 何が、学園の王だ。アホか!!」


バタンッッ!!


壊れるほど強く、扉を閉めた。

学園を出てから、一度だけ振り返った。



「………クソ……女…」


我慢が出来ず、地面に膝をつく。足の震え、冷や汗が止まらない。


ーーーー扉が閉まる瞬間、私の背中を刺した彼女の双眸。


「なんだよ……あの目……」


どんなに残忍な殺し屋も彼女にとっては子猫と変わらない。だから私も彼女に敵わない。その卑しく、魅力的な闇に絡め取られ、身動きが出来ない。

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