第27話
「あ~、腹減ったぁあぁあ~。何か食わせろ~~、この甲斐性なし~~~」
二時間ほど寝て少し回復した少年が、繰り返し耳元で囁く。
「わ、分かったから離れろ!」
俺は、狭い台所で野菜炒めと餃子スープを手早く作った。
「本当はさ、弱ってる体にはお粥の方が良いと思うけど……。これで我慢してくれ」
隣の部屋で、テレビ画面にかじりつき、アニメを見ている男の子。元気になったようで安心した。
「出来たぞぉ」
「…………………クン…クン」
犬のように匂いを嗅いだ後、ガツガツと凄い勢いで食べ始めた。
「もう少し、ゆっくり食べろよ。腹壊すぞ」
「おっ、おきゃわりっ!! なきゃ、殺す」
「はいはい……」
結局、計四回も台所とリビングを往復した。俺の分まで食べた少年は、嬉しそうにポンポンと膨れた腹を叩いた。
「落ち着いたらさぁ、風呂に入れよ。汚れたままだと気持ち悪いだろ? 服も洗うから」
「…………う…ん」
「は? なにモジモジしてんの。気持ち悪いな」
「うっせぇ! バカ虫っ!!」
文句を言いながら、風呂場に行った。その間に食器の洗い物を片付ける。しばらくすると、背後から爽やかな柑橘系の香りがした。風呂から上がったらしい。
「早かったな。とりあえず、俺の短パン着……うえぇっ!?」
目に飛び込んだ小さな裸体。コイツには、男にあるべきアレが付いていなかった。
「短パンって、これのこと? ダッセェ服。嫌だよ、こんなの。面倒くせぇから、もう全裸でいいや」
「えっ、どういう………。女だったの?」
「女だとお前に何か不都合があるのか?」
「いや………別に…ないけど……。少し、驚いただけ……」
文句を言いながらも俺のTシャツと短パンを着てくれた少女は、冷凍庫から勝手にアイスまで取り出し、くたびれたソファーでくつろぎ始めた。
「あの……なんで君は、家の前にいたの?」
「仕事の為。仕方なーーーく、ここに来た。青井 魂日。お前の世話をする為にな。お嬢から命令されたから」
「七美を知ってるの? 世話? どゆこと」
「私は、お前専属のメイドちゃん。身辺警護と身の回りの世話をするのが仕事。………死ぬほど嫌だけどなっ!!」
「あのさ、なんでメイドのお前が寝袋で拉致されそうになってたの?」
「あれは……………………罰を受けてた。卯月のババアにメイド服を強要されて……。私、メイド服大嫌いだからさ、それを拒否したら食事に致死量の睡眠薬を盛られて……。寝袋に無理矢理詰められた。ってかさぁ、行き先のメモ用紙見なかったのかよ。納品先が、この住所になってただろうがよ」
「………人身売買だと思って、メモ見る余裕なかった。あの時は、お前を助けることしか頭になかったから」
俺のメイドだと言い張る少女は、こっちを見つめ、俺と目が合うとわざと視線をそらした。キラキラと瞳が輝いている。
「お前のこと人攫いかと思って殴っちゃった。そういえば、自己紹介がまだだったな。私は、天魔 心(てんま こころ)。これから宜しくっ!!」
「あぁ…うん。宜しく。まぁ……まだ良く分かってないけど」
テレビっ子に戻ったメイドが、最後に一言だけ。
「………助けて…くれて…あんがと……」
胡座をかいて、画面に向かってそう呟いた少女が、ほんの少ーーーしだけ可愛く思えた。
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