第47話
何度目かの悪夢ーーー
変異した僕は、人間の内臓をうまそうに食していた。引き裂いた口には、ベットリと血糊がついていて、赤黒く汚れている。
僕は、その『もう一人の自分』をただ黙ってそばで見ていた。
見ていることしか出来なかった。
僕の前に食い散らかした肉片が、飛んでくる。
ピチャッ………。
ピチャッ……。
腐ったピザに見えた。
どうしたら、夢から覚める?
『 夢? バカか、お前。これは、現実だよ 』
振り向いた僕は。
泣きながら、笑っていた。
……………。
こわい………。
こわいよ……。
いつか、きっと………。
【 僕は、大切な人をこの手で殺すだろう 】
「ナオ、大丈夫?」
目を開けるとナナが、僕の頭を撫でていた。
いつの間に?
どうして、僕の部屋に?
そんな疑問も今はどうでもよかった。
「しばらく側にいて。お願いだから……」
「うん。私は、ずっといるよ。だから、安心していいよ」
ありがとう、ナナ。
「これからどうしたらいい?」
「私と一緒になって、幸せに暮らせばいいじゃん。毎日が、ハッピー」
「……いつか、ナナを襲うかもしれない。恐くて仕方ないよ。こんなに不安定な状態の僕といるのは危険だと思う。ナナなら、もっと違う誰かと幸せに、」
ビシッ!
頭にチョップをされた。結構強め。
「ナオじゃなきゃ嫌なの! バカなことばかり言ってると一生眠らせるよ?」
「……ごめん」
ナナは、もぞもぞと僕の布団の中に入ってくる。ナナの首筋から甘いシャンプーの香りが。
ドクンッと心臓が、大きく跳ねた。
「一人で寝るから怖い夢を見るんだよ。だから、ね? 私と寝よ」
布団の中でナナが、僕の手を両手で握っている。
「ナナ……。あったかい」
僕は、赤ん坊のようにナナの胸に顔を埋めた。それだけで全身を包まれているように安心出来た。
「甘えん坊だなぁ。ほ~ら、もっと触っていいよ~」
「………………」
「少しなら舐めてもいいよ~」
「……す…ゥ………」
「あ~ぁ、寝ちゃった。ちょっと残念。まぁ、いいや。良い子でねんねしてて。私は、ちょっとバイトしてくるから」
ナナが、静かに部屋を出ていく。僕は、その後ろ姿を夢と現実との間で見ていた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
走ってーー。
走ってーー。
彼から逃げる。
背後から聞こえる笑い声。どんなに必死に逃げても、彼は私を追ってきた。
「なんで!! なんで私が……」
悔しさが、涙が、目から溢れた。
なんとか暗闇に浮かぶコンビニの中に逃げることが出来た。額からは、大量の汗が。
明るい。
陽気な流行曲が、店内に流れている。客は、私だけ。でも若い学生風の店員が二人いて、それだけで安心出来た。
「すみませんっ! 助けてください。追われているんです」
「追われてる?」
マッチ棒のように細く痩せた店員は、怪訝そうな顔で私と店の出入口を交互に見ていた。もう一人の小太りの店員は、パンコーナーで、バインダーを見ながら何かをチェックしていた。
「……誰も追ってきませんよ? お客様の勘違いじゃありませんか?」
「勘違いなんかじゃっっ! あっ、すみません。大声出して。でも、本当に。勘違いじゃないんです。信じてください」
「そうですか。あれ? もしかして、アナタを追っていた男は、彼ですかぁ?」
店の入口。先程はいなかった彼が立っている。私を見つけると、目を細め、嬉しそうに笑いながら手を振った。口の中の牙が、今も光っている。
「そうですっ!! 彼です。アイツが、いきなり私を襲ってきたんです。早くっ、早く警察を呼んでくださいっ!!」
「警察? ふふふふ」
「アハッハッハッ」
笑う店員。
その時、私は気付いた。彼らの目が、真っ赤に染まっていくのをーー
この店員も彼と同じ。化け物。
私は、その場に尻餅をついた。もう足に力が入らない。もちろん、逃げることも出来ない。
「な? やっぱり、ここに逃げ込むだろ? 人間の心理なんてこんなもん。賭けは、俺の勝ちだな」
彼が、ズボンに手を突っ込みながら店内に入ってきた。
「チッ! 仕方ないなぁ。じゃあ、僕は右足で我慢するよ。お前は、両手な」
「え~~、それだけじゃすぐにお腹すいちゃうよ。はぁ~、せっかくの上玉なのになぁ」
私は、死を覚悟して目を閉じた。
パパ……。ママ……。
ごめんなさい。こんな最期でごめんなさい。
その時、声がした。
「うわぁ~、スゴいぃ………。この本、スゴいぃ……。汁サンタ先生、相も変わらず天才だよ!! このエロ魔神。毎月、この安定したエロさ。スゴいな~。学校の図書館にもあればいいのにな~。………今度、ママに相談してみよっと!」
18禁の漫画、雑誌のコーナーで私と同じくらいの年の女の子が、立ち読みをしている。なぜか、お祭りの露店で売っているような、キャラクターの面をかぶっている。
店員二人が頭を掻きながら、女の子に近づく。
「なんだよ。いつの間に店に入ったんだ、こいつ」
「お嬢ちゃ~ん。お兄ちゃん達と遊ばない? 最高に面白いよ~」
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