第46話
「やったぁ! ありがとう。やっぱり、君は素晴らしいよ」
鼻歌交じりでスキップしている未来。僕たちは、校門前で待っていたナナに声をかけた。
「却下っ!」
「まだ、何も言ってないよ」
「未来も連れて行くって言うんだろ? そんなのダメだ」
「そんなこと言わないでよぉ、ナナちゃん。お願いだからさ、僕も連れていってよ」
土下座する勢いの未来。その姿に同情すら覚える。
「ナナ。三人で行こう。きっと、楽しいから。ね?」
「……ふぅ。仕方ないな。その代わり、今日はヌイグルミ三個だからな! 忘れるなよ」
自分で自分の首を絞めてしまった。はぁ。僕たちは、三人並んで歩き出した。
未来は、相変わらずナナの機嫌をとろうと必死に話題を振っていた。それを無視するか、適当に返事を繰り返すナナ。僕は、二人の後姿を見ていた。
(こうやって見ても普通の人間と変わらないな)
ナナや未来、校長や僕の両親も覚醒者。今でも信じられないが、この目で見てしまった以上、もはや現実逃避は出来ない。
あの赤いカプセルがあるおかげで、彼らは普通に生活できる。ブラックモンキー様々だな、ほんと。
「どうした? やけに静かだね」
「お腹でも痛いんじゃないかなぁ。下痢だよ、きっと。そんなことより、ナナちゃん! ゲーセン行った後でさ、二人だけでカラオケ行かない?」
『二人だけ』そこを強調する未来。彼の目には、もはや僕の姿は映っていなかった。
「現世でも来世でも行かない」
「そんなぁ。はぁ……ショックだなぁ」
「行ってきなよ。未来が、可哀想だし。あんなに涙まで流してるんだから」
「い・や・だ! 私が、二人きりになるのはナオとだけだよ。他の男なんて虫けら以下の存在なんだから。虫と一緒にカラオケ行っても仕方ないでしょうが」
相変わらず、ナナは口が悪い。面接とか絶対に受からないだろう。
「ナオ……。明日、もし僕が学校に来なかったら、双子山を警察と一緒に捜索してね。きっとそこには、以前僕だったモノが小便垂らしてぶら下がっているだろうから」
ハハ…ハ、と元気なく笑う未来。危険な状態だった。不安になった僕は、未来の耳元で囁く。
「ナナはさ、照れてるんだよ。未来が、あまりにもいい男だから」
薄っぺらーい嘘。
「本当っ、それ! やったぁ!!」
「声のボリューム! みんな、見てるよ」
すれ違う人たちが、クスクス笑っていた。かなり恥ずかしい。
「仲がいいよね~、ナオと未来って」
ナナは、羨ましそうに僕たちを見ていた。
ゲーセンに着いた僕たちは、対戦ゲームやUFOキャッチャーをして遊んだ。
「ねぇねぇ。三人でプリクラ撮ろうよ!」
何故か、興奮している未来。プリクラなど興味なかったが、未来が眩しいぐらいの笑顔で誘うもんだから僕もナナも渋々参加した。
カシャッ。
僕は、出来上がったばかりのプリクラを見ながらぼんやりと考えていた。
「ナオ。未来の部分だけマジックで消したこのプリクラさ、財布にでも貼っておいてよ」
学校で一緒に勉強し、学校帰りには時間を忘れるくらい夢中で遊ぶ。いつまで、こんな生活が出来るんだろう。
「ナオ? どうした」
もし、あの薬で発作を抑えることが出来なくなったら?
彼らは、躊躇なく僕を襲うだろう。恐いというよりも、なんだか凄く悲しくて。
「本当にお腹痛いの? 僕、近くの薬局で薬買ってくるよ」
「大丈夫。少し考え事してただけ」
「何を考えていたの? もしかしてーーー」
『私達が、化け物になってナオを襲うことかな』
ドキッとした。ナナの勘の鋭さに驚く。
「その可能性は、数十パーセントもないと思うよ」
下を向き、自信なさげに言うナナ。……ってか、数十パーセントって結構危険な値だな。
「まぁ、そのときは諦めてよ。僕の血となり肉となって、僕の中で永遠に生きてくれ! 他の覚醒者に喰わせるぐらいなら僕が食べる。髪の毛一本も残さないよ!」
コイツに至っては、もはや喰う前提で考えている。友達解消しようと本気で思った。
「綺麗な夜空だねぇ」
「明日、晴れるねぇ」
「なに、その棒読みは。僕は、ナナや未来のこと信じてるよ。覚醒しても絶対に僕を襲わないって信じてる」
友達を信じられなくなったら、終わりだ。
まぁさっきは、喰われそうになったけど。今度は、きっと大丈夫。僕たちの絆は、覚醒者の呪いの運命をも凌駕するはず。
「そろそろ夏も終わるねぇ」
「ほら、秋の足音がすぐそこまで来ているよ」
「だから、その棒読みはなんなのっ!! 自信ないの? 僕を襲うの? 信じていいんでしょ」
「文化祭の準備が始まるねぇ」
「今年の出し物は何かねぇ」
「…………」
心臓近くにある青い痣が、ギリギリと痛んだ。
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