第45話
両手を合わせ、上目遣いで僕にお願いする校長。その仕草が、餌をねだるアライグマのようでなんとも愛らしかった。
「えっと、なんでしょうか? 僕にできることならなんだってしますけど」
「上着を脱いで欲しいの。ダメ?」
「うわぎ……ですか? えっと、まぁ、いいですけど」
僕は、多少戸惑いながらも制服のボタンに手をかけた。
すると、
「ダメッ! 絶対にダメ。ナオの体を見ていいのは、私だけなの! ママでも許さないんだから」
立ち上がったナナが、猛烈な抗議をしている。
「そう。残念ね」
肩を落としてションボリしている校長。そんな校長の姿は、僕までも悲しい気分にさせた。
「ママは、ナオの胸の痣が見たいの。確かめたいんだよ、パパの生まれ変わりだってことを」
「はっ?」
今、なんて言ったんだ。
ウマレカワリ?
「生まれ変わりなんてあるわけないよ」
「ママは、ナオがパパの生まれ変わりだって信じてるの」
胸の痣。あんな痣は、珍しくもない。産まれる過程で偶然出来たものだろう。
「おばさん。僕は、違います。すみません」
後頭部に何か柔らかいものが当たっている。
なんだ? 僕の耳元で、ナナが囁いている。
「ナオは、ナオだよ」
その言葉はとても優しくて、僕は安心した。
「胸が、頭に当たってる」
「!?」
ナナは、飛び上がると僕から離れた。視界が、パッと明るくなる。やはり、ナナは僕を後ろから抱きしめていたようだ。今考えるとかなり恥ずかしい状況。しかも目の前には、ナナの母親もいるし。
「ナナちゃんって意外と胸あるのよ。母親似でね。フフ、将来楽しみでしょ? 色んな意味で」
校長は、エロ親父のような目で僕を見ていた。肯定も否定も出来ず、僕はただ黙ってうな垂れていた。それから、すぐに僕とナナは校長室を出た。なんだか、居心地が悪くなったから。
「また、夕飯一緒に食べましょうね。今度は、板前さん呼んで美味しいお刺身を用意して待ってるから。ナオ君。ナナちゃんのことこれからも宜しくね。校長としてではなく、一人の母親としてお願いします」
校長は、ナナのことをこんなにも心配している。当の本人は、そんな母の愛に気付いているのかな。
僕が、正面玄関で靴を履き替えていると、僕の横に復活した未来が来た。走ってきたのか、はぁはぁと息遣いが荒い。
「今、帰り? 偶然だね、僕もだよ」
「なんか、わざとらしいね。その言い方」
何か企んでいるな。
「そ、そんなことないよ。偶然、帰りが一緒になっただけ。用心深いなぁ、ナオは」
そう言うと、未来は靴箱を開けた。バサッ、バサバサバサ。少なく見積もっても十通以上のラブレターが、簀の子の上に雪崩式に落ちてきた。僕は、それを無言で拾った。
「はい。相変わらず、おモテなようで。羨ましい限りですよ、全く」
「はぁ……彼女らには悪いけど、僕にはナナちゃんがいるしなぁ。こういうラブレターってさ、処分するのに困るんだよね」
贅沢な悩みだな。僕なんか、今まで一度もラブレターなど貰ったことはないのに。不幸の手紙ぐらいだ、僕に届いたのは。
「そういえば、ナナちゃんの姿が見えないけど。これから、ゲーセンに行くんでしょ? もちろん、僕もついていっていいよね。ナオの親友なわけだし」
昼休み。ナナとの会話中、未来は寝ていたはずだが。どうして、ゲーセンに行くことを知っているんだろう。恐ろしいほどの地獄耳だな。
「三人で行こう」
仕方ないな。まぁ、僕としては二人でも三人でもさほど変わらない。
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