第23話
「体の調子、悪いの?」
「今のところは大丈夫だよ。発作も起きてないし」
「そっか。ならいいんだ。発作が起きそうになったら、すぐ教えてね。用意するのに少し時間がかかるからさ」
「光……大丈夫? 無理してるでしょ、私のために」
「僕は、大丈夫だよ。無理もしてない。つまらない証拠も残してないから、捕まる心配もないし」
「………ごめんなさい。私のためにこんな危険なことさせて」
「何言ってるの? 夫婦は助け合うものでしょ。本当に大丈夫だからさ、心配しなくていいよ」
キッチンで、霊華が食器の洗い物をしている間、僕は地下室の様子を見に行った。ドライエリアを設け、湿気対策をした自慢の地下室だ。僕しか知らない暗証番号を入力し、鉄扉を開ける。四方をコンクリートの灰色の壁に囲まれた部屋。小さな羽虫のようなエアコン音。そのエアコンのおかげでカビの臭いもしない。温度、湿度ともに低く、快適に過ごせるように設定している。この部屋の設備は、ここに来る住人のために僕が用意したもの。
「っ……けて」
しかし、今僕の前で鎖に繋がれている少女は、とても快適そうには見えなかった。誘拐して、この部屋に監禁してからずっと少女は涙を流し続けている。
少女の前に置かれたスープとパンには、今日も口をつけていない。もう丸三日何も食べていないことになる。このままでは、死んでしまう。死んでしまったら、後は腐るだけ。使い物にならなくなる。それは、どんなことをしても避けなければならなかった。
僕は、落ち着いた声で少女に話しかけた。
「何か食べないと死んでしまうよ? リクエストがあれば、なんでも食べさせてあげるからね。フルーツとかどう?」
「どう……して。こんなこと……」
消え入りそうな涙声で、少女は言った。唇が乾燥し、ひび割れている。涙で濡れた髪が、ベットリと痩せこけた頬に張り付いていた。
「たすけ、て……おねがい……します。なんでも……する……だからたすけて」
少女は、そう言うと自分のシャツのボタンを一つずつ震える手で外していく。スカートも脱ぎ、下着姿になった。白いブラとショーツだけとなった少女は小刻みに震えており、それでも僕の顔を見て、女の色気をアピールした。
「そんなことはしなくていいよ。僕には、その気はないしさ。服を着なさい。風邪を引いたら大変だ。……もうすぐ解放してあげるよ。だから、少しでいいから何か食べなさい」
怯えている相手の顔を見て優しく諭した。
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