第15話
酷くマヌケな格好で黒い風がやってくる山を無言で見つめていた。きっと、その時の僕たちは、三人揃って同じ顔をしていたに違いない。
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夕方になり、学校をあとにした僕たち四人は、アンナの隠れ家に集まっていた。町外れの廃ビル。その六階部分をアンナは自分の生活エリアにしていた。一通りの家具、テレビやラジオなどの家電も揃っていた。それでも家と言うより秘密基地のような印象だった。フロアの中央には、緑色の巨大なテントが建てられており、そのテントからはアンナの制服が透けて見えた。ドキリとする。慌てて僕は、下を向いた。
「こんなところに隠れてたのか。どうりで見つからないわけだ」
「なんであんたがここにいるのよ」
「いいだろ、別に。俺の勝手だ」
「いいわけないでしょ、この裏切り者っ! ナオトを殺そうとしたんでしょ。もう最低を通り越して、私があんたを殺してやりたい」
「もういいよ。タケルだって妹の手術費用を稼ごうとしてやったことだし。気持ちは、分かるし」
タケルの本音をここへ来る途中で聞いていた僕たちは、先ほどの行為を許していた。一人を除いて。
「絶対に許さないから」
「あっそ。うるせぇ女」
取っ組み合いの喧嘩になりそうな雰囲気。どうしようかと焦っていると甘い良い香りがどこからともなく漂ってきた。この匂いは、ココア。アンナが、僕たち三人にココアが入ったマグカップを手渡す。いつの間に湯を沸かしたんだろう。
「はい、どうぞ」
「どうも」
「あ、ありがとう」
「ありがとうございます」
三人揃って、ゆっくりとココアを飲む。喉から胃、さらに全身が温かくなるのを感じた。その後、僕は学校にあるようなパイプ椅子に座り、ボーと天井を見上げていた。
突然、ガタッと何かが倒れる音がして、飛び跳ねるように音のした方を見た。
「タケルっ! どうした」
タケルが床に頭をつけて倒れていた。笑わせる為とかそんなんじゃない。僕は、タケルを抱きかかえ起こした。息はしているが、目が虚ろでぼんやりとしている。額の汗が、頬を伝っていた。
「これ絶対、医者に診せた方がいいよ。やばいって!」
「心配しなくても大丈夫だ。数時間もすれば元に戻る。色々とコイツには聞きたいことがあったからな。私特製の自白剤をココアに混ぜたんだ」
「自白剤……。タケルから何を聞くって言うんだよ」
「ナオトだって、本当は気になっているんじゃないの? どうやってタケルが私たちの存在に気づいたのか。知りたいでしょ?」
「それは………………」
言葉に詰まる。確かに気になっていた。屋上でタケルは、僕たちを獣人だと簡単に見抜いていた。外見からじゃ、決して分からなかったはずなのに。
アンナは、僕の側に来るとタケルの両脇を支え、強引に椅子に座らせた。そしてタケルの前に自分の椅子を持ってきて、ピョンッと椅子の上に飛び乗った。
「いくつかお前に質問がある。まず、どうして私たちが獣人だと分かった?」
「声がした、声が」
バシッッ!
アンナはタケルを思い切りビンタした。タケルの口の端から血の混じったヨダレが垂れる。霊華を見たが、唇を噛んでこれを凝視していた。止める気はないようだ。
「おいっ、やりすぎだろ」
僕の言葉を無視して、アンナは質問を続けた。
「もう一度だけ聞く。今度ふざけたことを言ったら、お前の爪を剥いでその爪を食わせるぞ。いいな。どうして私たちが獣人だと分かった?」
「…………ゆびわ。ゆびわの色でわかる。普通の人間は、白。獣人だと赤。覚醒者が側にいると黒くなる」
タケルの中指を見る。今も黒く輝いている指輪があった。この指輪で獣人かどうか識別していたのか。こんなものを所有している敵の脅威を改めて感じた。
「私たちが、獣人だと誰が知ってる。お前の他に」
「誰も知らない………。誰も。俺は、ただ学校の中にいる獣人や覚醒者を見つけるように頼まれただけ」
「誰に頼まれた?」
「…………………」
「答えろ」
「………………っ」
黙るタケル。ぎりぎりと歯を噛んで何かに耐えている。口からは白い泡をふいていた。自白剤でもこの抵抗。よっぽど、言うのが嫌なのだろう。もし僕たちにそれを話してしまったら、タケルの身が危ないのかもしれない。それに、妹さんにも危険が及ぶ可能性もある。平気で人殺しするような連中だし、どんな残忍な手段に出るか分からない。
「もう……いいよ」
「誰に頼まれた?」
「アンナっ! もういいって言ってるだろ。十分だ、もう。僕たちの正体は、タケルは絶対にばらさないよ。タケルが黙っていれば、僕たちは安全だ」
「どうして、そう言い切れる。仮にだ、コイツの妹が組織に拉致されたとする。そして、私たちのことを話さないと妹を殺すと脅したらどうなる。それでもコイツは、大事な可愛い妹の命より私たちをとるかな」
「それは……」
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