特級祓魔師は大人気ダンジョン配信者~世界最強でモンスターを倒しまくって無双し、今日もコメント欄が荒れる~

髙橋リン

第1話 世界最強の特級祓魔師

 祓魔師エクソシスト……人間や物質に取り憑いた悪魔を祓う人のことを指す。一般社会では悪魔の存在は信じられていないため、祓魔師は祈禱師きとうしやカウンセラーのような存在とされている。


 そんな祓魔師には階級があり……準3級、3級、準2級、2級、準1級、1級、特級がある。


 階級を上げるには、とにかく多くの悪魔を祓っていく必要がある。悪魔も強力な奴などがいるため、祓えずに嘘をついて金だけを貰う祓魔師もいるそうだ。


 階級の一番上、特級の祓魔師は世界で5人しかいない。特級になるには、悪魔を1億体祓い、祓具ふつぐと呼ばれる悪魔を祓う武器を完璧に使いこなす必要がある。


 1級の祓魔師は悪魔を一億体以上祓っているが、祓具を完璧に使いこなせることができないため、特級になれない。


 まあ、まず1級の祓魔師になるのも大変だけどな。悪魔を1億体以上祓わないといけないのだから……。1級になれるだけでも凄いと言えるだろう。


 ダンジョンが日本の大都市に突如現れてから、1年が経った。ダンジョンの中にはモンスターが潜んでおり、そんなモンスターを討伐して報酬を受け取る『冒険者』と呼ばれる職業が新しく生まれた。冒険者になる者には『スキル』と呼ばれる特殊能力みたいなものが授けられるらしいが……冒険者の死亡率は89パーセントと異常に高い。ダンジョンの中には、あちらこちらに冒険者の死体が転がっており、臓器が見えてしまっている死体もあるため、グロ耐性がないとダンジョンの中には入れない。


 そんなダンジョンを攻略するのと並行して、モンスターを倒す配信をやろうと考えた頭のおかしい人間がいた。


 その人間の名は――あかつき紅葉くれは


 そう、この僕だ。身長187センチで体重は65キロ、年齢は今年で26になる。地毛の白髪と赤髪が半分に分かれていて、左目には黒い眼帯を付けている。


 そして、僕は――世界で5人しかいないうちの1人、特級祓魔師だ!


 どうだ! すごいだろぉ~! 


 僕は褒められて伸びるタイプだからね。


 祓魔師になったのは18のときだ。とある事件をきっかけに、僕は祓魔師になると決めた。僕はこの世にいる悪魔を一匹残らず祓いたいと考えている。まあ、当たり前のことだけど……。


 しかし、ダンジョンが突如現れてから……悪魔を祓う依頼が来なくなってしまった。前までは毎日のように依頼が来てたのに……。悪魔を祓う依頼が来ないと収入が入らない。


 つまり――金欠になってしまうということだ。


 金欠になるのを回避するために、考えたのが……そう、ダンジョンを攻略するのと並行して、モンスターを倒す配信をすることだった。


 ダンジョンの中で配信をしている人は当時いなかったから、見てくれるか心配だったけど……僕がダンジョンに潜んでいるモンスターを倒すと、なぜかすご~くバズって――今では、チャンネル登録者100万人のちょー大人気で有名な配信者になっている。


 いやぁ~、僕の本職は祓魔師なんだけどね。本職よりも配信の方が、収入が何倍も多いんだよぉ~。一応、特級祓魔師なんだけどね。


 本職が忙しくならない限りは、配信者として活動していくことを決めた僕は……今日もダンジョンで配信をする。


「は~い! ごきげんよう! 諸君! 世界で5人しかいないうちの1人、特級祓魔師の暁紅葉で~す!」


 僕は配信しているスマホのレンズに向かって、白い歯を見せてピースをする。


〈歯並び綺麗すぎるだろ笑〉

〈自分で特級エクソシストって言っちゃってるし〉

〈エクソシストってなんなのかよくわからん〉

〈待ってましたぁ!〉

〈ごきげんようで~す!〉

〈黒い眼帯付けてるのは中二病だからか?〉

〈中二病でもおかしくはない笑〉

〈こんな奴が特級祓魔師なのか……〉

〈実力は本物だからなぁ〉

〈そこら辺の冒険者より全然強い〉

〈今日も盛り上がらせてくれよ!〉

〈配信中にモンスターに殺されたら、それはそれで面白い笑〉

〈簡単に殺されないだろ、コイツは〉


「えーと、とりあえず30階層を目指して向かってるんだけど……あっ、どうして30階層を目指しているかと言ったら――」


 僕はバク転をして咄嗟に回避をする。


「人が話してるのに攻撃してくるなんて、ほんとッ空気の読めないモンスターだな! あれ? そう言えば、前回の配信も同じだったような……」


 僕は上を向いて手で顎を触る。


「ヴュアァァ!!」


 ケンタウロスのような見た目をしているが、皮膚がなくて筋肉がむき出しになっており、燃えるような赤い目が一つあるモンスター……ナックルヴィーが僕に威嚇をしてくる。


 僕はナックルヴィーを見て、ドン引きをする。


「うわぁ~、マジキモすぎぃ……。名前は知ってるけど、生で見たのは初めてだなぁ……。強いのか? コイツ……」


〈ナックルヴィー出たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!〉

〈見た目がキモすぎる笑〉

〈体が硬いから剣なんかじゃ傷一つつけられないらしい〉

〈どうするの!? そうするんだい!〉

〈ドン引きしてる顔、マジで草〉

〈どうやって倒すんだろ? ワクワク!〉

〈そこそこ手強いモンスターだな〉

〈どっちが死ぬか見ものだな〉

〈ケンタウロスの強化版〉

〈今見に来たんだけど……これから戦う感じ?〉

〈そう〉


「ヴュアァァァァァァァァァァァァァ!!」


 ナックルヴィーは猪突猛進で襲いかかってくる。鋭い爪で僕の顔を引き裂こうとするが……僕は頭を下げてナックルヴィーの攻撃を躱す。


「ひぃー、あぶねぇ~!」


 攻撃を躱した後、ナックルヴィーは口から紫色の液体……毒を吐いてきたので、僕は後ろに下がりながら攻撃を躱す。


「なるほど~! そういう感じね!」


〈どういう感じだよ笑〉

〈見ているこっちがヒヤヒヤする〉

〈俺だったら瞬殺されるだろうな~笑〉

〈よく攻撃を躱せるな。身体能力と動体視力がレべチなのか?〉

〈今日も見せてくれるよなぁ! 瞬殺技〉

〈今日は武器を使わないのか?〉

〈いやいや、素手で倒せる相手じゃないから使うだろ。祓具〉

〈俺は信じない。この世に悪魔なんてものが存在すること〉

〈早くっちまえよ!〉

〈酒が美味くなってきたぁぁぁぁぁぁああ!!〉

〈平日の昼間から酒飲んでんのかよ。羨ましッ〉


「え~、皆さん! 今日、使う祓具は……こちらで~す! ジャジャーン!!」


 そう言って僕は……祓具、鎖剣さけんを右手に持って視聴者に見せる。


「鎖剣……この祓具はとても扱いが難しくてね。この鎖に繋がれてるつるぎが身体に当たったら、強制的に相手を動けなくさせることができるんだ。だけど、ずっと動けなくさせれるわけじゃない。3秒間だ。相手は3秒間だけ動けなくなり、3秒経つと身体は動けるようになる。しかも、この祓具は扱いが難いくせに効果がゴミなんだ。3秒間経って動けるようになった相手にまた剣を当てても、相手は3秒間動けない効果は切れるんだ。つまり、この祓具の効果は一度で、相手が動けない3秒間の間に決着をつけないといけないんだ。ね~、ゴミすぎるでしょ~! この祓具ぅ……! あッ、一応言っておくけど……祓具は本来、悪魔に対して使用するものだけど、人間やモンスターなどの生物にも有効だよ」


〈なぜそれを選んだ?笑〉

〈雑魚武器やん〉

〈割に合わねぇ……〉

〈たったの3秒しか相手を動けなくできねぇのかよ……〉

〈そんな祓具で倒せるのかよ。やる気あんのか?〉

〈見た目はカッコいいのに、性能はゴミすぎるッ!〉

〈そんなので倒せるわけねぇだろ。バカが〉

〈いや、無理ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!〉

〈とんでもないもの持ってきたな笑〉

〈おいおい、この人の頭大丈夫か?〉

〈イカれてるのか。それとも、バカなのか……〉

〈なんとかなるっしょ! とかって思ってそう笑〉

〈あ~、絶対そう思ってるわ笑〉


 僕は口角を上げて、鎖剣を振り回す。


「お前ら、僕を誰だと思ってるの? この世に5人しかいない特級祓魔師……いや、世界最強の特級祓魔師……暁紅葉だよ! 高校時代の偏差値は35くらいしかなかったけど……祓魔師としての腕前は一流だッ!」


〈へぇー、バカじゃん〉

〈バカだな〉

〈偏差値35はバカと言うべき〉

〈頭の中ピーマンで草〉

〈偏差値35の奴が、よく特級祓魔師になれたな笑〉

〈ある意味スゲー奴〉

〈バカなのか天才なのか……分からねぇ!笑〉

〈なによ~、ただのおバカちゃんじゃないの!〉

〈Q.僕を誰だと思ってるの? A.バカだと思ってる〉

〈大丈夫……じゃないな。頭が〉

〈自分で世界最強とかって言っちゃってるし……〉

〈なんとかなるっしょ!って絶対思ってるわ〉

〈見ていると分かる。楽観的な人間だな〉

〈人が死んでもなんとも思わなそう〉


 僕は舌を出しながら、祓具を持っている右手で人差し指を上げる。


「お前ら、1秒で決着をつけてやる。瞬き厳禁だからな!」


 僕は首の骨を鳴らして、ナックルヴィーを見ながらニヤリと笑う。


「よ~い……ドンッ!」


 そう言った瞬間――ナックルヴィーの身体は細かく斬り刻まれていて、原形をとどめていない。


 僕はニヤリと笑い、ナックルヴィーの血が付着した鎖剣を視聴者に見せつける。


「討伐かんりょーう! いや~、弱すぎて屁でもなかったわ」


〈えっ……何が起きたの?〉

〈理解不能〉

〈ナックルヴィー、死んでるやん。いつの間にか〉

〈おいおい、人外だろ。コイツ……〉

〈キモいのは……お前だな〉

〈瞬きしてなかったけど、どうやって倒したのか分からねぇ……〉

〈速すぎて草〉

〈神速だな汗〉

〈とんだバケモンだな……〉

〈なんだコイツ……強すぎるだろ!〉

〈ただのバカじゃなかったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!〉

〈今日も瞬殺してくれた笑〉

〈瞬殺の皇帝〉

〈キングじゃなくて、エンペラーだな……〉


 僕は耳をほじりながら、視聴者にナックルヴィーをどうやって倒したのか教える。


「めっちゃ簡単に説明すると、ナックルヴィーとの間合いを一瞬で詰めて……その後は鎖剣をめっちゃナックルヴィーの身体に当てて斬った。んで、そしたらこうなった。はい、以上!」


 ナックルヴィーの皮膚が思いのほか硬かったから、すこ~しだけ腕力を上げて斬り刻んだ。0,8秒間、迅速で鎖剣を振り回してナックルヴィーに攻撃を与えたから、ちょー肩がいてぇ……! つうか、肩コリ半端ねぇ……家に帰ったら湿布を張らないと。


〈語彙力がヤバすぎる笑〉

〈めっちゃっていう言葉、使いすぎや〉

〈簡単に説明できてなくね?笑〉

〈それで理解できる奴、おらんやろ〉

〈理解不能〉

〈ナックルヴィー、フルボッコじゃん〉

〈何を言ってるの?〉

〈今日もヤバいな! この人は!!〉

〈ふ~ん、分からん〉

〈とりあえず……ナックルヴィーが倒されたことだけは見て分かった〉

〈まずは語彙力を増やせ〉

〈偏差値35は嘘じゃないな。バカ丸出しだし笑〉

〈強いけど……バカなのが欠点だな〉

〈酒がうめぇー! その調子でどんどんモンスター倒してくれ!!〉


「んじゃ、30階層目指して歩いていくぞ~!」


 僕は頬にナックルヴィーの血を付けながら、30階層を目指して歩き進むのだった。

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