幼馴染♀が次々と俺の彼女を寝取る理由

空松蓮司

第1話 幼馴染♀が次々と俺の彼女を寝取る理由

 自分の部屋の扉を開けた時、俺の思考は止まった。


 俺のベッドの上で、全裸の女子2人が体を重ねている。


 片方は俺の彼女、七瀬ななせ苺花いちか

 もう片方は俺の幼馴染の女子、雪村ゆきむら風音かのん


「わ、わたる君っ!? ち、違うのこれは!!」


 必死に言い訳をする1分後に別れる予定の彼女、そして、


「よっ、早かったじゃん」


 まったく悪びれる様子のない幼馴染。


「て、テメェ……これで4度目だぞ。なんで毎度毎度俺の彼女にばかり手を出すんだ……!」

「だって可愛いんだもん」


 風音は苺花を後ろからハグし、両足でホールドする。

 苺花は苺花で満更でもなく、「みゃあっ!?」と艶声を出しやがる。


「やっぱり、渉と私って……好み似てるね」


 口元を笑わせる風音。

 飄々とした風音の態度に、俺は我慢の限界を迎える。


「なんで嬉しそうなんだお前は……! 出てけぇ!!!」

 


 ---



 俺の幼馴染である雪村風音はなぜかいつもいつも俺の彼女を寝取る。しかも毎度、俺がよく行く場所でだ。

 今回は俺の部屋だったが、前回は俺が掃除を任されていた体育倉庫。その前は昼休みにいつも俺が足を運んでいた学校の屋上。その更に前はアイツの部屋。


 目的は彼女が堕ちる様を俺に見せつけるためだろう。ほんっっっっとうに趣味が悪い!


 アイツが本気出せば俺なんて敵わないことはわかってるんだ。なんせ、アイツの容姿は完璧だからな。

 銀髪でセミロング。深い二重瞼で、キリっとした目つき。スレンダーで、顔つきも体つきも整っている。性格はクール……と、女子にモテそうな女子、って感じだ(事実モテてるし)。


 もちろん、整った容姿のため男子にもモテる。男女ともに引く手あまた……なのになぜかいつも俺の彼女を奪っていく。こんなの、嫌がらせ以外の何者でもない。


――俺はアイツが嫌いだ。


「……」


 俺はさっきまで2人が致していたベッドに触れる。


「濡れては……ないな」


 ギリギリセーフ……か。


「いやセーフじゃねぇよ! 全然アウトだよっ!!!」


 俺の! ベッドの上で! 幼馴染と彼女が裸で抱き合っていたんだぞっ! ふざけんなぁ!!


……シーツは洗わないけどさぁ!!!


「あらあら、お客さん帰っちゃったの~?」


 姉貴がオレンジジュースの入ったグラスを2つ持って入ってきた。


「せっかくジュース淹れたのに」

「姉貴か! アイツらを家に上げたのは! いくら風音が俺の幼馴染だからって勝手に入れるなよ!」

「そうはいかないわよ~」


 姉貴は頬を赤く染めて、


「だって良い雰囲気の女の子2人がウチに来たのよ? 赤の他人でも上げるに決まってるじゃない~。あぁ~、視姦しかんしたかった……」


 そうだった、コイツは百合豚だった……!


「……俺の周りは変態しかいないのか」



 ---



 翌朝。

 通学路を歩いてると、


「渉くんっ!」

「……苺花」


 俺の彼女――だった女、苺花が横に並んでくる。


「あ、あのね、ちゃんと話したくて……」

「なんもねぇだろ。話すことなんか……」


 正直、顔も見たくない相手だ。


「ごめんなさいっ!」


 苺花はそう言って頭を下げる。


「や、やめろよ。こんな人通りの多い場所で……」


 苺花は顔を上げ、


「本当に一時の気の迷いというか……あんなことする気なかったの! でも風音さんが誘ってきて、つい……」

「ついでもなんでも、やっちまったことは事実だろ」

「お願い渉くん! やり直させて! 私、本当に君のこと……好きなの」


 苺花は俺の手をその柔い手で包み込み、涙目で懇願してくる。その表情の愛らしさと言ったら、もう言葉で言い表せない程の破壊力。


 く、クソ……そんな顔されたら……!


「わかった。やり直そう」

「ほ、ホント!? ありがとう渉くん! 大好きっ!」


 苺花は俺の腕に絡みついてくる。大きな胸の感触が肘に伝わる。

 ちくしょう……男って奴は、なんて単純なんだ……!



「苺花ちゃんとやり直したって!?」

「ああ」



 昼休みになって、俺は親友の山林やまばやしに朝の一件を話した。


「お前さぁ、昨日の夜、泣きながら俺に電話してきて、あんだけ恨みつらみ話したクセに、あの巨乳に乗せられてあっさり復縁したのかよ。信じられねぇ」

「言いたいことはわかる。けど、本気で後悔してるみたいだったし、一度ぐらい許してあげてもさ……」


 山林が、ジッと俺の目を見てくる。


「な、なんだよ」

「いや……あまり言いたくなかったんだけど、変な噂を聞いてな」

「噂?」

「実は、こんな噂が女子たちの間で流れているらしい」


 山林は身を乗りだし、俺の耳元で、


「……『成宮なるみや渉と付き合うと、雪村風音とヤレる』」

「はぁ!? なんだそれ!?」


 山林は椅子に腰かけ、


「噂だよ噂。それもかなり前からそういう噂が流れているらしい」

「な、なんてでたらめな……!」


 いや、あながち嘘ではない。事実、俺の彼女は全員――


「……言いたくはないけどさ、苺花ちゃんの目的もお前じゃなくて」

「そんなわけあるか! ないない! 絶対ない! 俺達は愛し合ってるんだ!」


 俺は席を立ちあがる。


「おい、どこ行くんだよ?」

「自販機だよ。ジュース買ってくる!」


 頭を冷やすため、一度俺は教室を離れる。


「まったく、山林のやつ、変な事言いやがって。俺に可愛い彼女が出来たからってひがんでやがるな」


 向かうは体育館前にある自動販売機。中通路から自販機の方を見ると、


「……苺花!?」


 苺花と、その友達と思われる女子生徒が2人、自販機前で談笑していた。

 さっきの山林の話もあって、俺は反射的に自販機近くの木に身を隠した。


「それで苺花さぁ、結局風音様とはできたの? セックス」


 取り巻きの1人が、とんでもないことを言い出す。


「それがね、良い所で邪魔が入っちゃったの。あのクソ……ああ間違えた。渉の邪魔がね」


 ズキ。と胸の奥に棘が刺さる。


 え? いま俺のことクソと間違えた?


 いつもの苺花じゃない……天真爛漫な彼女じゃない。陰のある表情で、低い声で、彼女は言葉を紡ぐ。


「でも惜しい所までいったんだ! いいなぁ~。風音様のファンクラブの一員として、嫉妬せざるを得ない……!」

「だけどいくら風音様とお近づきになれるとは言え、あんな冴えない奴と付き合うのはごめんだなァ、私」

「あはは! 気持はわかるけどねぇ。アイツさ、本気で私に好かれていると思ってんのかな? 自分のカースト見直せっての。あんな底辺を私が好きになるわけないじゃんね」

「これまでアイツに近づいた女って全員風音様目当てでしょ? もしかして、『モテ期来たぁ!』とか思ってんのかな? こういうのなんて言うんだっけ? ピエロ?」


 女子たちの笑い声が木霊する。


 これは、現実か?

 頭が、理解を拒んでいる。

 苺花や……今までの彼女たち。全部、目当ては風音? 嘘だろ。はは……道理で、どいつもこいつも簡単に風音と寝ると思ったよ。逆に俺とは、キスさえしなかったな。みんなさ。


「つーかさ、なんで風音様は成宮渉の彼女を寝取るわけ?」

「ああ、それね。私は寝る時、こう言われたなぁ。『一回相手してあげるから、二度と渉に近づかないで』って」

「!?」


 まさか、アイツ……。


「多分、渉を彼女と引き離すためにやってんだと思うよ。自分が悪者役になってね」

「じゃあ苺花の魂胆バレてんじゃん!」

「みたいだね~。あの男を守るのは幼馴染の友情ってやつかな。あー、やっぱ風音様ステキ! でも前回は未遂だったから、約束を守る必要はないよね~」


 もしかして、いつも俺に見つかるような場所でしていたのは……俺がコイツ等に近づこうとさせないため?


 約束で俺の彼女を牽制して、ヤってる所を俺に見せて俺を牽制する。そうすれば、俺達が互いに接触することは無くなる。


「アイツ……」


――ガララ! と自販機の近くにある体育館の扉が開く。


「いい加減にして」


 体育館から現れたのは、風音だった。


「か、風音さん!?」


 苺花は慌てていつもの純真な笑みを浮かべる。


「ど、どうしたの風音さん?」


 風音は体操服だ。脇にバスケットボールを抱えている。恐らく、次の授業が体育なのだろう。


「全部丸聞こえ。声大きすぎて陰口になってないよ」

「あ、えっと、その……」


 風音に詰められ、苺花たちは動揺している。


「下手なこと言わなければ、一度ぐらいは遊んであげたのに……もうその気も無くなった。渉の悪口を言う奴は許せない。消えなよ。二度と私と渉に近づかないで。もし近づいたら……」

「ち、近づいたら……?」

「普通にぶん殴る」


 風音の目つきが鋭くなる。いつもは猫のような目つきだが、今はまるで豹。距離のある俺ですら背筋に悪寒を感じる。


「い、いこ苺花!」

「う、うん!」


 苺花とその友人は自販機から離れ、校舎に戻っていく。


「まったく……ほんと、見る目が無いんだからさ」

「……あはは、その通りだな」


 俺は木陰から出て、風音に苦笑いを向ける。


「わ、渉!?」


 珍しく動揺する風音。


「まさかこれまで付き合った相手が全員、お前目当てだったとはな。なんで気づかねぇかな~。馬鹿みてぇ。――悪かったな風音。事情も知らずに、お前を嫌ってさ」

「え? 嫌ってたの?」

「え? まぁ、うん」

「……ふーん」


 あ、やばい。結構ガックシきてるな。表情こそ無だが、長い付き合いの俺にはわかる。


「いや! でも誤解だってわかったから! 俺と彼女が揉めないように、気を遣ってくれたんだよな。マジありがとう! 多分、俺、事情を話されても信じなかっただろうし、上手く牽制してくれて助かったよ」

「……別に」

「ん?」

「別に、アンタのために……寝取ってきたわけじゃない」


 風音は……その白い頬を、僅かに赤くさせる。


「私は、私のために別れさせてきただけ」

「どういうことだ? 俺達を別れさせることでお前に得なんてあるか?」

「……ある」

「どんな? 教えてくれよ。お前が次々と俺の彼女を寝取る理由。俺を守る以外でなんか――ぶはっ!?」


 バスケットボールが顔面に直撃する。


「おまっ、なにすんだよ!!」

「……ちょっとは自分で考えなよ。バカ」


 風音は俺の顔面でバウンドしたバスケットボールを持って体育館に戻り、扉を閉めた。


「まさかアイツ、本当はただ女を抱きたかっただけか!?」


 幼馴染が次々と俺の彼女を寝取る理由。

 その真の理由に気づくのは、もう少しの後のこと。







 ――――――――――

【あとがき】

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