第5話 攻略対象の友人達がやってくる
「まぁ、外務大臣閣下も来たことだし、兄上の妄想話を信じることにしますよ」
ソファーに腰掛け優雅に紅茶を飲みながら、アレックスはそう言った。
「……信じてくれたんなら話は早い」
アレックスとの話はまだ終わっていない。
この微妙に可愛くない弟だが、俺にとっては唯一と言っていいほどの家族だ。父は政務に忙しく滅多に顔を合わせず、母はもう故人。みんなを助けることは不可能だが、自分とこの弟、友人だけは助けたい。
「そういうわけだから、アレックス。この国を脱出するんだ。兄ちゃんと一緒に逃げるぞ!」
俺には軍団長から鍛えられた剣の腕がある。傭兵でもやって弟一人くらいは食わせてやる。しかし弟は優雅に首を振った。
「バカなことを言っちゃいけません。私は元々、ベッドの上で死ぬつもりはありませんでした。戦場で雄々しく散る。それこそが乱世に生まれた男の宿命」
なんと。戦国武将のようなことを言ってやがる。
このカントゥール大陸は、元々はエドゥール皇国が治める一つの国だった。しかしエドゥール皇国の勢力が衰え、滅亡。現在はタマサイ帝国、イバキラ王国、サキタカ王国、カガワナ帝国、ウコフ皇国、そして我らがバチ王国で覇権を争う、まさに戦国時代に突入している。
なぜ乙女ゲームの世界がこんなに殺伐としているのか、本当に謎だ。
しかし我らがバチ王国は小競り合いはあったものの、大きな戦争は経験していない。端っこにある、わりかし平和な国なのだ。あえて戦場で散らなくてもいいと思うのだ。
「兄上、情けなくないのですか? 敵前逃亡なんて騎士道に反します」
「騎士道だの武士道だの、俺にはどうでもいい。生きていればそれで勝ちなんだ。この世界じゃ、大人になって妻を娶るまで、エロい光景は見られないんだぞ? お前、エロい光景を見ずに死ぬのか? 嫌だろ? エロを体験したいだろ?」
十二歳相手にエロで釣る。こいつは早熟だから、頭の中はエロでいっぱい。そうに決まってる。
案の定、ぐぬぬって顔をして黙りこんでいる。そんな時、部屋がノックされた。実は友人も呼んでいたのだ。
「よぅ、ダスティン。俺はお前の無罪を信じてるからな」
友、ユージンは入ってくるなり、そう声をかけてくる。
ユージン・クラリス・セレスティア。このゲームの攻略対象の一人。近衛騎士団長の次男だ。俺の剣のライバルで子供の頃からの親友。こいつまで俺の強姦を信じてしまったら、俺は人間不信で立ち直れない。
「睡眠薬を盛られたんだろうが、なぜそんなことになったんだ? まさか飲み物をロクに毒身をさせずに飲んだのか? 第一王子ともあろうものが警戒心がなさすぎるぞ」
もう一人の友、ロデリックは、アレックスと同じことを責めてくる。
ロデリック・フォン・ヴァンベスト。こいつもゲームの攻略対象の一人だ。彼は宰相の一人息子である。
「ごめん、俺……お前らに謝らなければいけないことがあるんだ」
俺はアレックスにした話と同じことを二人に話す。二人とも、「エロい光景が見放題の電脳機器」に食いついてきた。俺が話したいのはそこじゃないのになぁ。
「お二人とも、信じられないでしょう? 私も信じられなかったのですが、兄上の予言どおり、外務大臣閣下の靴を舐めるシーンが登場したので、私は信じることにしました」
弟がアシストしてくれるが、ちょっと微妙に嘘が入ってるぞ。
「舐めてないぞ。舐めましょうか? って言ったところでクラウディアが乱入してきたからな。舐めてないんだからなッ」
そこは強調しておく。男の沽券に関わるところだ。
「で、俺がお前らとクラウディアがくっつくようにうまいことアシストしていたら、もしかするとお前らのどっちかとクラウディアが結ばれて、この国は平和だったかもしれないんだ」
王弟ルートのほうが難関なのだ。この二人とくっつけるように序盤から俺が動いていたらこんなことにはならなかったかもしれないのだ。
「うーん……クラウディア嬢は美人だけど、俺は興味ないなぁ。確かに公爵家を継ぐというのは魅力の一つだが」
ユージンは次男だから、婿入り先を探している。就職活動のようなものだ。
「けど、俺にはやっぱり荷が重いや、公爵は。武官で俺は成り上がりたいな。武門の名家でいい子がいないかな」
「そんなことを話してるんじゃないんだ。成り上がったり結婚する前に、ユージンは死ぬんだ。討死だ」
王弟ルートに入れば、これまで攻略してきた攻略対象もみんな死ぬ。ここがまた炎上ポイントだったのだから。
「もしかして俺も死んじゃうのか? 童貞のまま?」
ロデリックは婚約者はいるものの、清い関係だ。そして気になるところはそこなのかと言いたい。お前は婚約者とベッドインすることだけが人生の目標なのか。トップの成績で王立学園を卒業したというのに、頭の中はエロばかりか!
「ロデリックの結婚は二年後だったな、確か。となると、童貞のまま死ぬな。お前も王宮を枕に死ぬんだから」
叔父の蜂起は半年後。そこでタマサイ帝国の軍勢がなだれ込んでくるのだ。残念ながらロデリックの象さんは未使用のまま朽ちるのだ。
「本当にごめん。お前らのルートに入れればよかったのに。そうすれば、俺は追放されるが、みんな幸せだったよな。俺が保身に走ったばかりに」
「バカなこと言うなよ。お前一人犠牲にして、自分だけ幸せになれないって。俺も全然クラウディア嬢に興味ないし」
ユージンはいいヤツなので慰めてくれる。
「俺だって婚約者がいるのにクラウディア嬢とどうこうなんて考えたことないよ。それに俺がクラウディア嬢とくっついたら、婚約者はどうなるんだよ? 婚約破棄を告げるのか? バカ言うなよ」
ロデリックは婚約者殿のことを本気で好きなようだ。できれば結ばれてほしいのだが、それはきっと叶わないだろう。
「兄上の話には不足している点があります。指摘してもよろしいですか?」
「だから、いちいち許可取らなくていいって。なに? 不足している点って」
またしてもアレックスだ。いちいち許可を取ってくるところが嫌みったらしいのだが。
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