第8話 ばーさん激ヤバエピソード⑤
ばーさんは本当に人の言うことを聞かない。前にママが「悪いものを取り除く」手術をするために入院したときも、まるで自分が主役かのように振る舞っていて腹立たしかった。
というか、あれだけママが「来ないで」と言ったのに来るなんて、ばーさんも智子も聞くじゃない母子だ。やかましい人間なんて絶対に呼びたくなかったのに、あの二人は手術当日に病院へ来た。
案の定ばーさんと智子は、うるさかった。手術を控えているママの気持ちを少しも考えず、質問責めしたり大声で話したり……。一応ママは個室で入院していた。それでも病院内だ。あんなにうるさくして良いわけがない。こいつら私より長く生きていて、マナーとか人の気持ちとか全く分からないのかよ……とイライラが止まらなかった。
そんな私の思いが伝わったのか、智子は割と早く病院を去った。しかし空気が読めない無神経ばーさんは残った。それに数時間、じいちゃんを車の中で待たせていたのだ。どこまで自己中心的ばーさんなのだろう。本当に神経を疑う。
ばーさんはママの手術が始まるときも、終わったときも「自分が、自分が」とママの側へ寄っていた。病院のスタッフたちが「離れてください」と言ったことを平気で無視していた。そのときのばーさんは、まるでドラマの主人公になったかのようで気持ちが悪かった。パパは黙って病室にいたというのに。
止めようと後を追った私に「ばあちゃん、これ以上はダメだよ」と言われると「うるせぇいっ、ちきしょうっ!」と涙を流していた。女優にでもなったつもりか。どこまで自分に酔っているのやら。
ママの手術中、パパは大迷惑ばーさんの餌食となってしまっていた。ばーさんは長々と智子の悪口をパパに聞かせていた。おまけに、ばーさんはパパのことが大のお気に入りだ。ばーさんはパパにくっついて離れず、もう何回聞かせたか分からないような智子とのエピソードをいくつも聞かせていた。いつも答えが出ずに終わる相談の数々に、相当パパは困っただろう。
あのとき私は、ばーさんの眼中にはなかったのだと思う。それか注意ばかりされて、おもしろくないから無視していたとか。まあ元々ばーさんは男好きな女なので仕方がない。
「どうしてパパじゃなかったの?」
ママは手術が終わった後、最初に見た顔がばーさんの顔だったことに怒っていた。大変なことを済ませた後は、やはり好きな人の顔を見てホッとしたかったのだ。それなのに図々しい大迷惑ばーさんの顔なんて見てしまったのだから、ママは余計に疲れてしまった。
ばーさんは何度も「まだ手術は終わらないのか」と病院内を、うろちょろしていた。他の患者さんや病院スタッフたちのことを考えずに……。パパと私は静かにママの部屋で待っていた。
その結果ばーさんは、一番目に手術後のママと目が合ってしまった。心底がっかりしてしまったママ。大迷惑な大女優ばーさんは、おいしいところをいただいて大満足だっただろう。ルールを守って律儀に手術が終わるのを待っていた、私たちの気持ちも知らずに。
「あのときさぁ、ばーさんじゃなくて私でも嫌だった? 絶対パパじゃなきゃダメだった?」
退院後、私はママに少し意地悪な質問をしてみた。するとママは「いやいや……パパじゃなくて、利生でも良かったに決まってんじゃん」と笑って答えた。まあ、それは真実でも嘘でも良い。とりあえず……もうママのナンバーワンが、ばーさんではないのは確かだ。ばーさんよ……娘に好かれたいなら、もっと娘の気持ちを考えて行動したらどうだ。そうすれば、一番にはなれなくても、最下位にはならなくて済むと思うぞ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。