第6話 ばーさん激ヤバエピソード③
ばーさんは、私たち親戚以外も困らせた。
私は幼いころ、ばーさんとじいちゃんに農産物直売所へと連れられた。ばーさんの家に2泊3日で遊びに行ったときの出来事だ。
その日は直売所で収穫祭が開かれていた。いつものように農産物などが売られているだけではなく、珍しいものの販売や福引きなど、お祭りらしく楽しいこともやっていた。
今の私なら収穫祭を楽しめるが、なぜか昔の私にとっては、つまらないものだった。福引きで2等のレジャー用チェアを当てても、そんなに嬉しいとは感じなかった。それは案の定、今も自宅の物置小屋に入ったままだ。
そういうわけで私はすぐに、ばーさんの買い物が長く感じて退屈になってしまった。また私は空腹だったこともあって「ばあちゃん、試食コーナーに行くね」と言って、ばーさんと離れた。
店の外では良い匂いがしていて、ますます私はお腹が空いた。そして私は、おじちゃんが肉を焼いている姿を見つけ「あそこだ!」と走った。
おじちゃんが焼いていた肉について、詳しいことは覚えていない。ただただおいしかったという情報だけが頭に残っている。あと、良い豚肉だったと思う。おじちゃんは無口だったので、それを良いことに私は肉をパクパク食べた。
しかし肉の虜になっていたのは私だけではない。いつの間にか、おじちゃんの周りには多くの子どもたちが来ていた。みんな私と同じように肉を食べている。私は「だよね、お肉おいしいもんね」と仲間ができたことに喜びながら、肉を食べ続けた。
おいしいおいしい……なんて幸せな気分になっていると、私がいる方ににポン、と肉が飛んできた。「ん? 私のために焼いてくれたの?」と思った私は、下向きだった顔を上げた。そして私は、これ以上肉が口に入れられなくなってしまった。
「ばあちゃん……」
ばーさんが試食コーナーのおじちゃんを押し退け、肉を焼いていたのである。ちなみに、ばーさんはホットプレートの横に置いてあった、試食用の割り箸で肉を焼いていた。幸い(なのか?)おじちゃんが使っていた道具を奪ってはいなかった。
「利生、食え」
呆然とする孫娘にも、自分が恥ずかしいことをしているのにも気付かず、ばーさんはポイッと焼けた肉を愛する我が孫に向けて投げ続ける。地獄のバーベキュー状態である。
そして私が与えられた肉を確認した直後、
「◎☆#▲▽♪︎*@✕!!!!!」
怒声が耳に入ってきた。しかし、何を言っているのかは全く分からなかった。大きな声で意味不明な言葉を放ったのは、ばーさんに職場を乗っ取られたおじちゃんだった。表情も鬼のようで、あの声を聞かなくても怒っているのが伝わっただろう。ばーさんを除き、おじちゃんと肉を囲んでいた私たちは凍り付いた。
子どもたち怖くなり、ブチギレおじちゃんの目の前から逃げるように去ったのである。そのとき、ばーさんも試食コーナーからすぐ離れたかどうかは不明。二人の間で、ケンカとかは起きなかったのだろうか。とりあえず私は、ばーさんからもキレたおじちゃんからも離れたかったので、ささっと違う場所へと移動した。
「利生、帰るぞ。じーさんも疲れて、車ん中に戻っちまったからな」
「うん……」
しばらくしてから合流し、ばーさんと私は直売所を出ることになった。あんなことをしても、ばーさんは平気であった。
おじちゃん、どうしたのかな……と心配になった私は試食コーナーを去り際にチラッと見た。そこにいたスタッフは私たち子どもに営業妨害をされ、恥知らずな大迷惑ばーさんに勝手なことをされた奇声おじちゃんではなかった。若い男性が笑顔で試食コーナーを担当していた。まさか、おじちゃんは自分がキレた姿を、お偉いさんとかに見られてクビになってしまったのでは……と私はゾッとした。
あれから何年か経過した今なら分かる。あの出来事は恐らく、おじちゃんの仕事を邪魔した私に下った恥ずかしい天罰だ。私が恥ずかしい思いをしたのは、自業自得だったのかもしれない。
というかバクバク試食している時点で、自分が悪いことをやっているのだと気付かなかった私はバカだった。まだ子どもだったから、なんて通用しない。おじちゃんが困っていることを、もっと早く察するべきだった。
こういうことから私も、ばーさんのそれを受け継いでしまったと思われる。ああ嫌だ……。
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