第5話 ばーさん激ヤバエピソード②

 私が生まれてくる前から生きている従姉は、私よりもばーさんに色々なことをされていると思われる。私が話を聞いて驚いたのは、従姉の通っていた学校などで(良く言えば自主的に? 悪く言えば勝手に?)ばーさんが草取りをしてしまったことだ。まるで自分の家の庭を、きれいにするかのように涼しい顔でしていたらしい。それについて従姉は、


「もうやめてよ、ばあちゃん! あたし恥ずかしくて、学校に行けなくなっちゃうよ! ちゃんと用務員の人がいるし、みんな掃除しているんだから……ばあちゃんは余計なことをしなくて大丈夫だってば!」


 もちろん恥ずかしいと感じて、ばーさんを怒鳴ったとのこと。自分が通う学校などに用事がある度に、ありがた迷惑な奉仕作業を始める祖母を、従姉は大いに嫌がった。そりゃそうだ。私だって、ばーさんにそんなことをされて「真田んとこのばーさんが草むしりしているぜ!」なんて言われたら恥ずかしいったらありゃしない。そんなくだらないことで有名になるなんて、もう人生の汚点でしかない。芸人ならばネタにできるだろうが、私は芸人ではないし、なる気もない。お笑いは、やるものではなく見るものだ。


「そこに草があるから、おれは草を取ってんだよ! 庭をきれいにして何が悪いっ!」


 しかし、ばーさんは見事に逆ギレをした。ちなみに、ばーさんは自分のことを「おれ」と呼ぶ。世界で……いや宇宙でナンバーワンに萌えないオレっ娘である。高性能ばあちゃんでも美魔女でもあるまいし。もう大迷惑ばーさんでしかない。


「ギャハハハ! ばあちゃん、やっちったよー」


 ちなみに智子は、ばーさんの草取りについて大爆笑していたそうだ。酒が入っていなくても笑っていたらしい。じいちゃんは、一応ばーさんを止めたとのこと。しかし、ばーさんは「うるせぇ、くそったれえぃっ!」と言って、じいちゃんの忠告を聞かなかったのだ。それでも、そのばーさんの奇行は誰にもバレなかったのは本当に奇跡である。

 ママたちが私の学校などの行事に絶対ばーさんを呼ばなかったのは、こういうことなのだろう。だが、ばーさんは私たち家族にも同じようなことをしていた。


「やだ、ばあちゃんが家の草取りをしている!」


 ある夏の日、ばーさんは勝手に我が家の草取りを始めていた。せめて挨拶しろよ、と思った。いくら親戚でも、これはいけない。不法侵入ではなかろうか。そして、


「どうして私の部屋を、ばあちゃんが……?」


 私が中学二年生だったときの、ある休日。ばーさんが私の留守中に、私の部屋の掃除をしていたのだ。ママは何度も止めたが、やはりばーさんは頑固。部屋がきれいになって助かった、なんて感想は全く抱かない。気持ち悪いとしか思えなかった。私はショックだったが、ばーさんに文句を言わなかった。昔ばーさんの家に泊まりに行ったとき、下着をなくされて逆ギレされたことを覚えているからだ。

 もはや「親しき仲にも礼儀あり」とか「デリカシー」とか「プライバシー」などという言葉は、ばーさんの頭の中にない。いつだって「自分! 自分!」だ。そんなばーさんは外で平気な顔をして排泄するし(大も小も)、ゴミのポイ捨てもするし、どこでも気にすることなく喫煙する。うん、もうバカでしかない。

 あの妖怪・恥知らず女から生まれた三人の娘は、一体どう成長したのか……。少なくとも私の母親は、ばーさんみたいなルール違反をしていないということは分かる。

 また、ママが最もばーさんに困っているのは「そこにあったものを適当に着た」ような、ひどすぎるファッションである。そういや、ばーさんは本日もママが頭を抱えるような服装だった。スタイリストは必要かもしれないが、そんな役回りを誰が立候補するのだろうか。

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