第2話 家もバイト先も姥捨山?

 ばーさんは数ヶ月前まで長女の智子ともこたちと住んでいたが、とうとう追い出されてしまった。とうとう……その表現には、きちんとした根拠がある。

 まず、ばーさんと智子は私が幼いころから(いや、もしかしたら私が生まれる前かもしれないが)ケンカばかりしていた。同居していたのに仲が悪かった。仲が悪かったのに同居していた。どちらの言い方が正しいかは分からない。それとも両方が正解か?

 そんな彼女たちが同居していた理由は、智子の離婚と金遣いの荒さだと思う。子持ちの智子は最初の旦那と別れた直後、娘を連れて実家へ。自分で稼いではいたが、ばーさんの金に頼ることもあった。元旦那から養育費は、いただかなかったのだろうか……そこら辺の詳しいことは分からない。というか私が知っておくべきことではない。それでは余計なお世話となってしまう。また、智子はギャンブルと酒が大好きである。

 智子は金銭面だけではなく、ばーさんに子育ても頼っていた。自分が仕事(それに加えてギャンブルや男遊び)で忙しい間、ばーさんに長女の面倒を見させていた。しかし智子は娘に愛がなかったわけでもない。娘が欲しいものは極力買い与えていた。幼少期の私は、ばーさんの家へ遊びに行く度に従姉を羨ましがった。自分の家に祖母がいて、たくさんの漫画やゲーム、おもちゃなどを持っているなんて最高じゃん……と私は思っていた。お金を使って消せない淋しさがあることも、ばーさんが結構クセの強い人間だということも知らずに。

 そこまでしてもらった智子だったが、ついに母親を追い出した。ばーさんがボケて扱いづらくなったからだと思われる。


「もう、おしまいだよぉ……ううっ……」


 そういうわけで、この家にばーさんが来たということなのだろうか。すると私は、数日前にバイト先の阿北佐あほくさ食品工場で聞いた、あの名言あるいは迷言を思い出した。


「あたしらの部署は姥捨山うばすてやまかよ!」


 とあるベテランさんが、吐き捨てるように言った台詞。最近私たちの部署に、他部署にいた新人おばあちゃんパートが移ってきたことが原因だ。私が所属している部署は、よそで「いらない」とされたパートが移動してくることが少なくない。リーダーが「そんな人、ここにもいらない」と断っても社員は押し付けるように、そのパートを私たちの部署に入れた。すると彼女は早速やらかして、


「あの人を採用したのは、なぜ?」

「工場じゃなくて病院に行けよな!」

「認知症なんじゃないの、あの方……」

「生きてりゃ誰でも良いのかよ!」


 ますます評判が悪くなってしまった。どれだけ注意しても直さない、同じ失敗をする、挨拶を返さないなどなど……。その新人さんを好きな従業員はゼロと言っても良いだろう。きっと社員たちも頭を抱えているが、こっちからやめさせた場合の危険性を考えて部署替えをしたのだ。こうなったら、もう本人から工場を出てもらうのを待つしかない……ということらしい。


「ううっ……ううっ!」


 私は姥捨山に住み、姥捨山へと働きに行っているということだろうか。泣き続けるばーさんを見ながら、そんなことを考えてしまった。

 ところで……さっきから何だか臭うのは、気のせいか?

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