勇者の末路 [ 改定版 ]
南悠
第1話
王国は、勇者の突然の狂気により潰滅した。
いま各国は、連合して王国の鎮静化の為に軍を駐屯し、事の原因究明に全力を尽くしている。
王宮内では、連合国が関係者に聞き取りを開始し始めていた。
「連合国審議官殿。記録官として、勇者殿の言動・行動を正直に発言致します。」
[ 記録官 ]
「自分が、勇者殿と行動を伴にし始めたのは、召喚より半年後に行われた、初めてダンジョン訓練からとなります。
王様より、今後の勇者殿の行動を全て記録として残す様にとの命令でした。」
[ 審議官 ]
「勇者は、どの様な印象でしたか。そして、訓練の状況を教えて下さい。」
[ 記録官 ]
「最初の頃の勇者殿は、明るく何時も笑顔が絶える事の無い方と記憶に残っております。また、ダンジョンの訓練は順調で魔物を恐れる事なく、騎士殿の教えを守る頼りになる印象でした。」
[ 審議官 ]
「ほかに変わった事は無かったですか。」
[ 記録官 ]
「特には異常は感じませんが、ダンジョン制覇頃から、時より軽い目眩がする様な事を言っておりました。また、眠りが浅くて騎士殿より、ドリンク若しくはお香を調合して貰っていた様でした。」
[ 審議官 ]
「ドリンクとお香ですか。それに付いて感じた事は有りませんでしたか。」
[ 記録官 ]
「はい。ドリンクやお香を寝る前に炊くとグッスリと眠れたと騎士殿との会話を聴いております。」
[ 審議官 ]
「ほかに気付いた事は有りませんでしたか。」
[ 記録官 ]
「騎士殿は、我々勇者一行にもドリンクを渡して下さり、自分も毎食後に飲んでおりました。 はい。味は甘く飲みやすく、後口もスッキリするので美味しく飲んでおりました。ただ、今思うとその頃から自分も軽い目眩を感じる様になりました。」
[ 審議官 ]
「そうですが。」
[ 記録官 ]
「その後から、勇者殿の快進撃が始まったのでした。」
勇者の回想
[ 騎士 ]
「勇者さま。あれが魔王軍四天王のひとりで御座います。勇者さまの実力なら、一撃で倒せるでしょう。」
[ 勇者 ]
( 少しめまいが・・・。疲れか )
「あれが四天王のひとりか。俺に任せろ。 トリャー!」
一撃で四天王は倒れ、彼の軍は、勇者により、壊滅した。
[ 勇者 ]
「今日の成果は、四天王と魔物四百匹だ。まずまずだな!」
[ 騎士 ]
「流石勇者さまです。早速、城に戻り 王に報告致しましょう。」
勇者一行は、意気揚々と王都に向かう。残された草原には血生臭い風が舞っていた。
[ 勇者 ]
「王様。報告致します。本日は魔王軍四天王のひとりと部下の魔物多数を倒して参りました。」
( 何か・・・意識が朦朧する。 )
[ 王 ]
「勇者よ。ご苦労で御座います。共に食事を取りながら 詳しい話をして下され。」
[ 勇者 ]
「有難う御座います。」
その夜の勇者は、死んだ様に深い眠りに。翌朝、体の疲れは残っていないが、ただ僅かな不快感だけが心底にへばり着く様に残っていた。
[ 騎士 ]
「勇者さま。おはようございます。本日も魔王軍撲滅の為、ご尽力をお願いいたします。」
[ 勇者 ]
「騎士殿。宜しくお願いいたします。」
勇者一行は、新たな魔王軍と戦い求め、また幾多の魔物を倒して行く。
[ 勇者 ]
「魔王軍は、幾ひゃ・・( 眩む。疲れか? 大丈夫だ!) 幾百居ようとも、私の敵では無い。」
[ 騎士 ]
「流石、勇者さま。力強いお言葉。王国は磐石ですな。」
勇者の奮闘で魔王軍は壊滅した。
[ 勇者 ]
「魔王軍が脆すぎて、張り合いが無い位だ。さぁ次の敵を探すぞ。」
[ 騎士 ]
「了解しました。」
次の戦いに、足を向ける一行。
血の匂いが漂う森林を後にする。
勇者一行の遠征は、幾多の魔王軍の拠点を落とし、多くの魔物を倒して進んで行く。
戦いは、勇者の一方的な勝利で終わるが、魔物たちの断末魔の叫びが、徐々に勇者の精神を蝕んでおり、浅い眠りと悪夢が妨げていた。
審議官と記録官の対話
[ 審議官 ]
「勇者の変化した事。または、気付いた事は有りませんでしたか?」
[ 記録官 ]
「この頃から、勇者殿はうなされる事が多くなり、寝室から頻繁に奇声が聞こえる様になりました。」
「その後は、決まって騎士殿からのドリンクの量が増えてました。」
勇者の回想
[ 勇者 ]
「騎士殿。貴方から頂いたドリンクとお香は、良い物だ。私を深い眠りを誘ってくれ、そして、爽やかな目覚めを約束してくれる。有難う。」
[ 騎士 ]
「どういたしまして。お役に立てて光栄です。」
その後も勇者の快進撃は続いた。
[ 騎士 ]
「本日は、魔王軍四天王最強の守る城となります。宜しいお願いします。」
[ 勇者 ]
「任せて下さい。必ず王国に勝利を捧げましょう。」
魔王軍最強の城を見つめながら答えた。
魔王軍最強の城は、王都に劣らぬ高さの城壁に数百の魔物が守りを固める堅固さで、城壁では魔物達がこちらの行動を見つめている。
まず、勇者は稲妻を起こし城壁へ。
崩れる城壁と戸惑う魔物たち。
悲鳴と怒号が飛び交い、魔物たちは矢を一斉に射掛けてくる。
城門が開き、数十の騎兵隊然の魔物が撃って出る。
迎え撃つ勇者。
勇者の一振の真空刃で倒れ落ちる騎馬隊。
続けて撃つ稲妻に、崩れる城門と逃げ惑う魔物の群れ。
後は、一方的な殺戮と化した。
戦いは終わった。
城は死臭が漂う無人の廃墟となり、陥落した。
[ 騎士 ]
「勇者さま。おめでとうございます。魔王軍最強の城を陥落されました。功績は、全て勇者さまの栄冠と輝く事でしょう。」
城を落として、王都に凱旋する勇者一行。
沿道を埋め尽くす観衆に片手を挙げて応える勇者。
勇者一行は、王からの労いの言葉に感激し、更に一層の勝利を誓い合う。
そして、一時の休暇ののち、新たな敵を求めて勇者一行は旅立った。
新たな遠征は、辺境の村町そして、砦。数多くの戦いを勝利して、多くの殺戮を産み落とし更に進軍は続く。
今!勇者の前には屈強な魔物が立ち塞ぎ、幼き魔物の逃げる時間を稼ぐ。だが、勇者の戦いの後には血が川の如く流れて幾多の池を作り、屍の山が更に高くなる。そして全ての生けるものが居ない無人の荒野が広がり続ける。
記録官の回想
[ 記録官 ]
「はい。その夜の勇者一行は、夜営で大いに盛り上がりました。ところが夜半過ぎに、ほろ酔いで就寝した筈の勇者が、突如奇声を上げ始めたのです。」
[ 勇者 ]
「ちくしよー。 死んじまえ。」
「くるなー あっちいけ! くるな」
[ 記録官 ]
「その後も勇者の悪夢は、終わる事なく続き、その怯え声は、痛ましい程でした。」
[ 審議官 ]
「勇者の体調の具合はどうでしたか」
[ 記録官 ]
「はい。翌朝の憔悴仕切った姿は、言葉に表せ無い程です。そして、この日を境に、夜半の眠りに怯える勇者が度々確認される様になりました。時には狂ったかの様に剣を振り回し、その後は疲れ果てて、倒れるかの様に眠りに着く事も有りました。」
[ 審議官 ]
「勇者は大変に苦しんでいた様子ですね」
[ 記録官 ]
「はい。我々では、どうする事も出来ず、今まで飲んで熟睡出来ていた、ドリンクやお香もダメだった見たいです。」
[ 審議官 ]
「そんな状態では、戦いにならないのでは?
休養を勧めなかったのですか。」
[ 記録官 ]
「はい。その後の勇者の事ですが、徐々に精彩を欠けていき、特筆する程の大きな成果を上げる事なく、王都に帰還する事となりました。その時の勇者は、心身共に疲れ切った状態でのやっと馬に乗っている様子でした。そして事件が起きたのです。途上の街の城門を抜けた所で門の陰から、急に暴漢者が勇者に斬りかかりました。暴漢者の短剣が勇者の足に刺さりましたが医務術者の医療魔法で事なきを得ました。」
[ 審議官 ]
「ケガが軽くて良かったですね。
その後は、どう成りましたか。」
[ 記録官]
「直ぐに周りの者が暴漢者を捕まえると、まだ年端の行かない少年だったのです。少年は勇者に向かい声を枯らす程の罵声で [ 人殺し。家族を返せ。みんなを生き帰してくれ。・・・。] と涙声で叫び続けていました。」
[ 審議官 ]
「その少年はどうなったのですか。
裁判が有ったとの記録が無いのですが。」
[ 記録官 ]
「少年のその後ですか。・・・痛ましい事ですが、騎士殿により、その場で殺されました。」
[ 審議官 ]
「そうですか。
その後の変化は有りましたか」
[ 記録官 ]
「それからの勇者は、何かが変わったと感じました。心身的な衰弱が見受けられましたが、何か思い詰めた表情で、口数も殆ど無くなり、宿では部屋に閉じ籠り、あれだけ話していた騎士殿との会話も無くなりました。」
[ 審議官 ]
「確かな変ですね。
ほかの変化はどうですか。」
[ 記録官 ]
「はい。食事については、あれからは部屋に運ぶのですが、手を付けた痕跡すら無かったと思います。
そして、その数ヶ月後に王都での惨劇が起こったのです。痛ましい事でした。」
記録官の発言が終了した後に、一人の男が発言の許可を求めて来たのです。
[ ??? ]
「連合国審議官殿。勇者に付いて発言を許して頂けますか。」一人の男が名乗り出た。
[ 情報屋 ]
「あっしは、王都の情報屋を生業としております。勇者さまが王都に帰った夜に密かに屋敷に呼ばれ、直接に依頼を受けました。依頼内容は、
[ 審議官 ]
「ちょっと待って下さい。依頼内容を勝手に明かして良いのですか。」
[ 情報屋 ]
「あっしらの職業柄、本来なら守秘義務が掟として有り、依頼内容を明かす事は有り得ません。しかし、余りにも勇者さまが可哀想で掟破りを覚悟で参りました。
発言の許可を お願い致します。」
[ 審議官 ]
「理解しました。発言を許可します。」
[ 情報屋 ]
「ありがとうございます。
勇者さまからの依頼内容は、以下3点の調査でした。
①ドリンクとお香の成分解析
②勇者の討伐成果の状況の洗い出し
③王国の本当の目的
となります。
そして、調査には多少の時間が係りましたが、勇者さまに直接に報告しました。
内容は、
①ドリンクとお香の成分解析結果
ドリンクは、強い幻覚剤と興奮剤そして術者の言動に迎合しやすくなる魔術が確認されました。
お香には深層心理の鎮静剤と睡眠剤そして術者を信じ依存性の高い術が確認されました。
②勇者の討伐成果の状況洗い出しに付きましては、魔王軍の存在は確認は出来ませんでした。全てが、王国内にある反体制派関連の貴族もしくは拠点となります。そしてほぼ皆殺しとなっておりました。魔王軍四天王と言われる存在及び城は、反体制派に属する王弟と勇者と同じ時期に召喚された他の勇者の拠点と考えられます。」
[ 審議官 ]
「なんだって!他の勇者だと。勇者はひとりでは無かったのか。」
[ 情報屋 ]
「はい。召喚された勇者は四人だった様です。現勇者の外、召喚時に失敗が有り、一人は死亡。残りの二人は王の洗脳が効かず、のちに脱走。反体制派の王弟の元で比護され、活動していた模様。勇者の倒した四天王は、彼らの事となります。」
[ 審議官 ]
「王の洗脳?王は何を考えていたのか。」
[ 情報屋 ]
「それに付きましては、三番目の回答となります。
③王国の本当の目的は、世界征服を考えていた模様です。ちなみに魔王の存在は確認出来ませんでした。
反体制派の軍を居ない筈の魔王軍と幻惑させ虐殺し、そのまま他国も対象にしていた節もあります。狂っていたとしか考えられません。勇者は、幻惑で言い様に騙されて、虐殺の片棒を担がされて居たのでしょう。
それが、少年に刺された事により、幻惑から解かれた物と考えられます。その後は、我らの情報で苦しみ、そして王都での悲劇に繋がったのでは無いでしょか。幻惑で洗脳されたと言え、勇者の犯した罪を消し去る事は出来ません。が、彼が安らかにそして、魂だけども自分の故郷に帰れる様に女神が計らって下さります様にお祈り致します。」
王国は、僅かに残された王族により、建て直された。
狂気の前王とは言え、王を殺した勇
者は反逆者として、処刑された。
カクヨムコンテスト10(短編)参加作品
勇者の末路 [ 改定版 ] 南悠 @kame111
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