魔王扱いされてるんだが?

 シルバが廃ダンジョンを拠点にして生活を初めてどれくらい経ったか。


 話が出来る魔物たちと仲を深め、時には縄張り争いで傷付いた魔物を助け、行く宛が無くなった個体を廃ダンジョンに招いて暮らしていたシルバとスライムたち。


 人が近付かない森の奥での暮らしは裕福とは言えなかったが、楽しく心は豊かでのんびり暮らせていた。


 町に行って金を稼ぎ、倒した魔物から剥ぎ取った素材や、近くの洞窟で見つけた鉱物で装備を整える。


 とはいえ生活出来ていたことから、冒険者としての地位向上は狙わずに、目立たず静かに暮らしていた。


「シルバさま。お伝えしたいことが」


「お〜。どうした?」


 廃ダンジョンの奥に作ったリビングっぽい部屋で、何度目かの寒冷期を迎える前に、防寒用のマフラーを編んでいたシルバの元へ、森に棲む木の精霊ドライアドが姿を現す。


 そして、近くを飛んでいた鳥型の魔物から聞いた情報をシルバに伝えるために口を開いた。


「冒険者の一行がこちらに向かっています」


「この場所は見つかりにくいし、なんなら人払いの結界を張ってもらってたはずだけど?」

 

「デッドグリズリーに手を出したようで、状況から見て逃走中、偶然こちらに進路が向いたそうです」


「あの熊さんに手を出したのか。馬鹿だなあ、近付かなければ何もして来なかったろうに。デッドグリズリーの方には警告は?」


「領域内に入れば容赦はしないと、勧告はしましたが」


「そっか。なら、仕方ない。同じ人間を見捨てるのも忍びないし。迎え撃とうか」


 座っていた、火の魔石で暖を取るお手製暖炉の前で立ち上がり、シルバは丁度作り終えたマフラーを手にドライアドに近付く。

 そして、そのマフラーをドライアドの首に巻くと、一歩離れて出来栄えを見て納得したか、ニヤッと微笑んだ。


「あの、シルバさま」


「いい感じだ。それライアさんにあげる」


「い、いけませんシルバさま。私なんかに」


「ライアさんだからあげるんだよ。さあ、迎撃だ。みんなを呼んでこよう」


 そう言って、シルバは装備を置いている部屋へ向かうと、とりあえず剣やら鎧を装備していく。

 そしてダンジョンのフロアに出ると、地面に手を付き、魔力を流し込んでいった。


「総員戦闘準備。不可侵条約を破ったデッドグリズリーを迎撃する。戦闘に参加出来る者は集合してくれ」


 この言葉は、シルバが放出した魔力を通して、ダンジョン内に響き渡った。

 ここ数年で、コツコツ広げた廃ダンジョン。

 その通路をシルバがドライアドのライアを連れて、奥から入り口に向かっていくと、最初に仲間にしたスライムであるアオとルージュがまず合流する。


「ご主人戦うの?」


「ああ、また頼むぞアオ、ルージュ」


「はーい」


 その後に続いたのは、かつてシルバが助けたフォレストウルフのボスが進化し、死んだ仲間を使役する事が出来るようになったネクロウルフのベルデ。


 シルバが友人関係を築いた魔物たちと改築した廃ダンジョンを入り口に向かって歩き、通路が合流するたびに魔物たちがシルバの元に集う。


 そして階段を上って日の元に姿を晒した直後。

 真正面から報告にあった近くの町から来た冒険者たちが四人現れた。

 一人、大柄の男に担がれている女性は血塗れで意識がないのか項垂れている。


 そんな四人の先頭を走っていた槍を持った青年が、シルバとシルバに引き連れられた魔物の群れを見て、足を止めると槍を構えた。


「こ、ここって噂になってる森のダンジョンなんじゃ」


「じゃ、じゃあ、あの先頭にいる奴が他のパーティが遭遇したっていうダンジョンの主人。魔王か」


 足を止め、怯えた表情で汗だくの青年たちは言葉を漏らす。

 そんな一行に、シルバは兜で顔を隠したまま「誰が魔王だよ誰が」と困ったように笑いながら近付き「ちょっと待ってろ、事情はあとで聞く」と、先頭の青年に言うと、冒険者パーティの横を魔物たちと通り過ぎていった。


 ゾロゾロと出てくる魔物たちに顔面蒼白になり、ぶるぶる震える若い冒険者たち。

 

 このあとシルバはこの森で最強と謳われていたデッドグリズリーと相対し、仲間たちと適度にボコると森の奥へと追い返すことに成功する。


 この一連を見ていた冒険者パーティは帰還後、森でデッドグリズリーに襲われたことと、魔物を引き連れた男に助けられた話を冒険者ギルドに報告するが、最後までダンジョンの場所は言わなかった。

 というよりはやたらめったら走った為に、正確な場所がわからなかったのだ。


 しかしその話が新たに噂を作り出していく。


 どうやら町の近くに魔物を率いる王。魔王がいるというのは本当らしいという噂。


 その噂を、久しぶりに町に訪れたシルバはギルドで聞くことになる。

 そしてそんな話を肴に、今日も廃ダンジョンだった根城で魔物や精霊の仲間たちと宴で盛り上がる。


「よっ、魔王さま〜」


「はあ、いつから魔王扱いされてたんだかなあ。困ったもんだ」


 などと言いながら、シルバはこの生活が気に入っているのでやめるつもりもなく、ご近所魔王として町の冒険者と協力して他国の侵略を防いだりするのだが、それはまた別のお話。


 シルバはその後も仲間になった魔物や亜人集合たちと末永く暮らしていくのだった。


           完

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廃ダンジョンで魔物を育てていたらいつの間にか魔王扱いされてました リズ @Re_rize

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