二度あることは三度ある

 赤いスライムを助けてから数日。


 シルバは赤色のスライムにルージュと名付け、新たな相棒としてアオと一緒に冒険者として働いていた。


 雄雌の区別はないが、赤色は女の子っぽい色だからというシルバの偏見でルージュと名付けられた赤いスライムは、アオとは違い火の魔法が使える。


 アオはアオで水魔法が使えるので薬草採取だけでなはなく、簡単な魔物の討伐も可能になった。

 

 とはいえ、スライムしかテイム出来ていないシルバは相変わらず他の冒険者パーティには加入出来ないでいた。


「ごめんね。僕たちが弱くて」


「お前たちのせいじゃないよ。俺が弱いのが駄目なんだ」


 自分の実力を理解しているからこそ、シルバはあっけらかんと笑い、スライム二匹を引き連れ、行き慣れた森へと向かう。

 本日の依頼は角兎一匹の討伐。

 並の冒険者ならすぐ終わりような依頼だったが、この日はなかなか角兎が見つからず、森を長時間彷徨うハメになってしまう。


「ああ。今日は久々に野宿だなあ。あそこに行くかあ」


 オレンジ色に染まってしまった空を見上げて、手で顔を覆うと、シルバは相棒のスライム二匹を連れてある場所に向かった。


 ルージュを見つけた廃ダンジョンだ。


 しかし、しばらく崖沿いを歩いていると、森の方から何かの足跡が聞こえてきた。

 

「やべえ! 魔物か!」


 どうやらこちらに向かってきているであろう足音を警戒して、アオとルージュを抱き上げようとした瞬間だった。

 森から揉み合いようにして狼型の魔物であるフォレストウルフと、猪型の魔物フォレストボアが現れた。

 どうやらフォレストウルフに追い込まれ、フォレストボアが道連れにしようとこの崖から飛び降りるのを選んだのだろう。

 

 いや、単に振り払おうとして走った先がここだったというだけの話かも知れないが、ともあれそんな二頭が相棒を巻き込んで崖下へと落下していった。


「あーれー」


「アオ! ルージュ!」


 気の抜けそうな声を出していた事から大したダメージは負っていないようだったが、心配にならないわけもない。

 シルバはいつものルートへと走り、崖下へと辿り着くと相棒を探して森を進む。

 

 落下した位置は以前アオが落ちた位置に近い。

 廃ダンジョンに行けば恐らく二匹はダンジョンに逃げているはず。


 問題は一緒に落下した狼と猪だ。


(二頭とも負傷していた。出来ればくたばっててくれえ)


 二頭が生きていた場合、弱小テイマーであるシルバに勝ち目はない。

 だが、相棒を捨てて逃げるわけにもいかない。

 そんな事をすれば、人間としてもテイマーとしてもカスだ。

 少なくともシルバはそう思ったからこそ、急いで廃ダンジョンへと向かう。

 

 そして辿り着いた先で、シルバは廃ダンジョンの手前で倒れている狼と猪の姿を見て、胸を撫で下ろした。


「死んでるか? アオ! ルージュ! 無事か!」


 姿が見えない相棒たちの名前を呼び、廃ダンジョンへ向かって歩いていく。

 そして、濃い緑色の体毛に覆われた狼の横を通り過ぎようとした瞬間。


 近くに倒れていた猪、フォレストボアが叫び声をあげながら暴れ始め、立ち上がった。


(まずい!)


 護身用のショートソードは腰に下げているが、剣一本で魔物と戦えるほどの腕はシルバにはない。

 魔法も使えないわけではないが、一撃で倒せるような出力も望めない。


 立ち上がり、同じ目線でこちらを睨む猪に対し、死を覚悟出来る勇敢さもなく、足は震え、腰を抜かしそうになった。

 そんな時だった。


「ファイヤーアロ〜」

「ウォーターアロ〜」


 と、ほぼ同時にスライムたちの声が聞こえてきて、火で生成された矢と、水で生成された矢が猪の頭部と穿った。

 力無く倒れる猪を呆然と見下ろし、シルバは視線を矢の飛んできたほうに向ける。


 そこには魔法を使って疲れ果てて今にも溶けてしまいそうな相棒たちがいた。


「ご主人、魔力分けてー」


「疲れた〜」


「お前たち、あんな強力な魔法使えたのか」


「頑張った」


「だから早く魔力ちょうだい」


「あ、ああ分かった」


 そう言って、相棒たちの元へ駆け出し、片膝を地面に付くと二匹に触って魔力を送っていく。

 そうしていると、突然後ろからガリっという地面を何かが引っ掻いた音がした。

 

 嫌な予感もなにもない。

 狼も生きていて、立ち上がったのだ。

 しかし、満身創痍だったのか、シルバが振り返っても狼は襲ってくる様子はなかった。


「最後に見るのが、魔物に魔力をくれてやっている人間とはな」


 聞こえてきたのはフォレストウルフの声だった。

 立ったはいいが、直ぐに伏せ力無く首を垂れるフォレストウルフ。

 

 まだ死んではいないが再び気を失ったようだ。

 フォレストウルフはシルバが近付いても目を覚さなかった。


「助けるの?」


「声が、聞こえちまったからな」


「ご主人は優しいね」


「甘いだけだよ」


 そう言って、シルバはその場で昨日買ったばかりの、薬草とキノコを煎じて作った液状の回復薬を狼にぶっ掛ける。

 そのあと、アオとルージュが倒した猪から肉を剥ぎ取り、狼の近くで焚き火をして、気を失った狼が目を覚ますのを待つのだった。

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