廃ダンジョンで魔物を育てていたらいつの間にか魔王扱いされてました

リズ

廃ダンジョンを見つけました

 いつものように、冒険者の青年であるシルバは相棒のスライムを連れて薬草採りに明け暮れていた。

 

「ご主人。まだ奥に行くの?」


「そうだなあ。今日はもう少し奥まで行こう」


 魔族と人間の混血だが、戦う力に乏しいシルバは魔物の声を聞くことが出来る特技を生かして魔物使い、テイマーとして日銭を稼いで暮らしていた。


「こっちにもあったよー」


「気をつけろよ? そっちは崖になってるからな」


「大丈夫ー。あー」


「おいー⁉︎ 気を付けろって言っただろお⁈」


 視界から相棒の魔物であるスライムが姿を消したのを見て、シルバは焦って駆け寄るが、眼下に生い茂った木々で相棒の姿は見えない。


 冷や汗を浮かべ、シルバは降りることが出来そうな場所を探してそれほど高くない崖を下ると、相棒のスライムを探し始めた。


「あの辺りから落ちたから、こっちか」


 相棒を探しながら、薄暗い森を歩いていくが、相棒の姿は見えない。


「他の魔物に襲われてなきゃいいけど」


 などとぼやきながら歩いていると前方でやぶがガサっと音をたてた。


(まずい。アイツより先に俺が魔物に襲われちまう)


 こちらに向かっているのか、ガサガサと音をたてる藪に視線を向けたまま、シルバは後退りしていく。

 しかし、藪から飛び出してきたのは誰あろう、相棒のスライムだった。


「ご主じぃぃいん!」


「お前かあ! 良かった無事で」


 飛び出し、跳ね上がったスライムをシルバは抱えて撫でくりまわす。

 

 すると、相棒のスライムは体から触手を伸ばすと、藪の向こう側を指して「落ちた近くに面白い場所があったよ?」と、言ってくりくりした真ん丸な黒い目でシルバを見上げた。


「面白いもの?」


 魔物の中でも弱い個体に分類される相棒のブルースライムが警戒していないということは、その方向に危険はないということ。


 シルバはせっかくだからと、相棒が指差した方向に向かって歩き始めた。

 

 藪を掻き分け、踏み越え進んだ先。

 辿り着いたその場所には森に侵食された遺跡の一部があった。

 よく見れば更に奥にはポッカリと口を開けた洞窟らしいものも見える。


「うわ。ダンジョンか? こんな町に近い場所にダンジョンがあるなんて」


 シルバは冷や汗を滲ませるが、相棒を探している間に傾いてきた太陽と、遠くから聞こえてきた狼型の魔物の遠吠えが聞こえてきた事から、一時的にダンジョンに身を隠そうとそちらに足を進めた。


 しかしこの時、シルバはある事に気がつく。

 ダンジョンから本来感じるはずの特有の魔力を全く感じなかったのだ。

 

 この世界のダンジョンは謂わば魔物の一種であり、宝箱などに擬態するミミックと呼ばれる魔物の近縁種だというのが、学者のあいだで主張されている。


「このダンジョン。死んでるのか?」


「強い魔物の気配は感じないねえ」


「アオが言うなら間違いないか今から町に戻ろうとすると、夜の森を歩く事になるし。今日はここで野宿かなあ」


「え〜? やだあ。おうちの布団で寝たい〜」


「お前のせいなんだが? まあ文句言ってても仕方ないだろ。まきあつめるぞ、流石に夜は冷えるからな」


「はーい」


 遺跡の入り口にも見える洞窟に向かう前に、近辺から落ちている枝や枯れた木から枝を拝借して薪を集めていくシルバと、相棒であるスライムのアオ。


 幸いシルバが背負っていたバックパックに、間食用のサンドイッチやパンを入れていたため、夕食の心配はない。

 

 一人と一匹は薪を集めると、合流して再び洞窟の入り口を目指す。


「ただの洞窟。じゃないなあ、やっぱり」


 石畳が敷かれた床がしばらく続き、不意に下へ向かう階段が現れたのを見て、やはり廃れたダンジョンの可能性が高いと感じ、外の魔物に気づかれないように、少しずつシルバは階段を降りていく。


 とはいえ、明かりがあるわけもない。

 シルバはバックパックの横に下げた、発光系の魔石で光るランプに触れて明かりを灯すと、少しずつ階段を降りていく。


 しかし、シルバとアオは階段を降りきったところで魔物と遭遇することになる。

 

「赤い。レッドスライムか。おいアオ、魔物の気配は感じないって言って無かったか?」


「言ったよ? 強い魔物の気配は感じないって」


「まあでもなんか弱ってるし、倒して小遣いになってもらうか」


「倒すの? こんなに弱ってるのに?」


 アオに言われて、シルバはバックパックからランプを外すと、目の前にいる赤いスライムに近付いていく。

 確かにアオの言う通りで、シルバが近付いてランプを近付けても、赤いスライムはその場から動く事すらしなかった。

 

 それどころか、すがるような声で「助けて」とシルバに命乞いをしてきたのだった。


 敵対する魔物からは声が聞こえないシルバからすれば、赤いスライムから声が聞こえてきたことで既にスライムが犬や猫などの動物と同じように見えてしまっていた。


「はあ。これで薬草採取失敗するのは二回目になるな。まあ明日、帰りながらまた集めればいいや」


 自分の甘っちょろさに自嘲して、笑ってしまいながらシルバはバックパックを背中から下ろして、中から集めてきた薬草を取り出すと、赤いスライムの前に置く。


 そんなシルバに、赤いスライムは弱った声色で「僕の声が聞こえるの?」と、驚いて聞いてきた。


「分かるよ。母さんが魔族でね」


「そうなんだ。ありがとう」


 シルバの言葉に感謝を伝えて、薬草の上に体を預けると、その薬草を体内に取り込む赤いスライム。

 こうしてシルバとアオ、赤いスライムは一夜を共にすることになる。

 

 そして、この出会いがシルバの人生の転機になるのだった。

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