3.社畜からの逃走 ≪後編≫
丸の内線改札に行き着くまでの通路に何も気配はなかった。だがそれはそれで、
『おい
「どっちも来るよ。多分
『えっ!? どっちも来るのか…!?』
改札を抜けて階段を駆け下りたが、ホームもまた無人同然であった。ゲーム開始以降、まるで人払いがされたかのように一般人の姿がなかった。
そんな
【間もなく1番線に、
その不穏な雰囲気は恵の
『なぁ、≪社畜≫ってもしかして電車にも乗ってるんじゃねぇのか? もしそれが左右同時に到着したら…俺達一瞬で挟み撃ちになるんじゃねぇか!?』
前後方それぞれから
けたたましい音と共に2台の電車のブレーキ音が地下に
顔を上げると車両はどちらもホームに差し掛かるところで停止していたが、
「恵、
『なんだよ春、どういうことだよ!?』
「これだけの騒ぎを起こしたんだ…きっと
『集まってくるのは普通の駅係員の方なんじゃないか!? でも電車を使わず逃げるってどうやって…?』
「恵! こうなったらもう線路の上を走って逃げるぞ!!」
声を張り上げた千亜紀は、
『ああもう! どうにでもなれ!!』
やむなく恵もホームドアを乗り越え、千亜紀と共に線路の上を
「春ぅ! おまえの社会的な死は無駄にはしないぞぉ!!」
『やめろ!! 冗談に聞こえないだろ!!』
それからどれくらいの時間が経ったのか
「…よし来た、次の駅だ! もう新宿は…抜けたのか!?」
『てか俺ら…どっち方面に走ってたっけ? …ホーム降りて右側の線路だったから…池袋方面か?』
——そうなると次の駅は…新宿三丁目じゃねぇか! その次も新宿
恵は体感以上に時間も距離もかかっていなかったことを内心
『駄目だ千亜紀! そのうち電車も運行再開する…線路はいつまでも走ってられねぇよ!』
「確かにそうだな…仕方ねぇ、
千亜紀の提案に乗った恵は、息も絶え
≪社畜≫とは遭遇しなかったが、遠くにチラつく数が1匹2匹どころではなくなりつつあった。
結果として脱出までの直線距離は多少南寄りに縮まっていたとはいえ、春の推測を踏まえればそれだけ付近に危険が
『くそ…これからどうすりゃいいんだ…?』
大型商業施設が立ち並ぶ通りに≪社畜≫は見当たらなかったが、どこからでも飛び出して来そうにも思えた。隣では恵よりも体力と根性があるはずの千亜紀が、恵以上に
「恵…俺ももう駄目そうだ…夜勤明けで力が残ってねぇ…」
『しまったこいつのコンディションも最悪なんだった』
「だがこのままでは終わらねぇ…駅の出口を見越してここにタクシーを呼んでおいたぜ!」
『そんな手が…!? いや、簡単に呼べるならそれこそ罠なんじゃねぇのか!?』
『おいおい、俺らタクシーからも逃げなきゃならねぇのかよ!?』
「そうじゃねぇ、裏を
『千亜紀おまえ…なんで夜勤明けなのにそんなに
「へへっ…ナチュラルハイってやつだよ。それじゃあ後は任せたぜ!!」
会話をしているうちにタクシーが到着し、後部座席の扉が開いて黒い
恵は何を言い返す余地もなく、
そのまま身体を伸ばして後部座席を閉めたが、その寸前に
無人で動いていた車両を乗っ取ることが違法になるのか
——取り
「いやぁー捕まっちまったよ、春も
「お疲れ様。僕もあれから結局確保されたよ」
「なんだよおまえら、俺が身を
「んだよ祐希、負け惜しみか?」
タクシーの助手席でハンズフリー設定にして置いたスマホから、脱落した3人の緩いグループ通話が流れてきた。
「≪社畜≫に捕まったときは目の前が真っ暗になったけど、気付いたら周りが元の世界に戻ってたというか、普通に人が行き交ってるというか…」
「ああ、俺もそんな感じだ。まるで夢でも見ていたようだったな」
「でも恵は
『…ああ、出たと思う。何ならこのまま大学に向かってる』
「
「いやいや、それ以前に新宿出てるなら逃走は成功したってことじゃねぇの?」
『そのはずなんだが…なんでか
国道を
通話で語られるような一般人の姿は、
「まじかよ、じゃあ大学が真のゴール地点ってことか?」
「もしかしてキャンさん寝落ちしてるんじゃないの? 連絡してみる?」
「恵、ここまで来たら頑張って逃げ切れよ! インターンに強制連行される俺らの分まで、モラトリアムを
『確かにそうしたいけど…なんかもう緊張感が限界っていうか…俺だけのんびりなんてしていられねぇよ』
大学の正門付近まで到着した恵は、路上駐車も気に留めることなくスマホを片手に下車した。周囲には無数の≪社畜≫が
『それに…腐れ縁のおまえらとは就活も
「恵…おまえってやつは…!!」
逃げる気配を見せない恵に対し、≪社畜≫が車道に
——本当は行先も
「まぁ俺は卒業したら
「僕も法科大学院進学希望だから、右に同じ」
「俺も公務員志望だから民間のインターンは参考程度になるなぁ」
『…えっ。何それ初耳なんだけど』
千亜紀、春、祐希それぞれの進路を聞いた恵は、
——じゃあ俺、降参する意味ないじゃん。
次の瞬間、その内心の一言を聞き逃さんとばかりに≪社畜≫が一斉に押し寄せてきた。恵は恐怖と後悔とが
『
だがものの数秒と経たないうちに黒い
*****
こうしてキャンのインターンに連行されることになった恵達だったが、実際は参加が
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