2.VRでインターン ≪後編≫
「馬鹿な…ここはオフィスビルの3階だぞ!? どうやって窓から入って来たんだ!?」
『最初に疑問を持つところそこなの!?』
一方の倉石警察官は、鼻で笑いながらその問いかけに答えた。
「ふっ…
『いや何もキマッてないからなその登場!! てかパトカーでオフィスをぶち抜く捜査自体が違法極まりないだろ!?』
「
『さっきワン切りしたのあんただったのかよ!? 残業に対してシビア過ぎるだろこの世界!?』
「ざ、残業を咎められる
『それっぽいこと言ってるけど残業代
だが倉石警察官は、ポケットから何かの書類を提示しながらその反撃を突っ
「残念ながら御社から届け出がなされているのはサブロク協定ではなくサブリミナル協定なので、従業員に残業を課すことは
『サブリミナル協定って何だよ!?』
「な…何だと!? 俺が無意識に
『おまえの書類管理が
恵は鳥井部長を
「…じゃあ令状は? 令状はあるのか!?
『おまえらはパトカーがオフィスをぶち抜いたことには何も苦言を
「令状ならちゃんと用意している……
倉石警察官は不敵な笑みを浮かべながら、掲げる書類を素早く入れ替えて高らかに宣言した。
「
『はぁ!? なんだそりゃ!? そういう意味でブラックな会社だったってことかよ!?』
宣言に釣られるようにして恵が振り返ると、鳥井部長が
「え? それはうちの本業じゃないよ。きっと部長が趣味で勝手に育ててる植物が摘発されたんでしょ」
『その設定ここで反映されるのかよ!? てか自家製じゃねぇし!? 会社巻き込んでどうすんだよ!?』
「ち、違う! 断じて脱法ハーブなんかじゃない! これはその、料理のトッピングとかに使う…スパイス! そう、スパイスを育ててるんだ!!」
『隠語どストライクじゃねぇかよ!! アウトだよ!!』
鳥井部長の釈明はかえって火に油を注ぎ、倉石警察官は勝ち誇ったような表情でオフィスの奥へと足を進めた。
「さて、あとは現物を押収するだけだな…そこの
『なんでこの警察はこんなにウキウキしてんだよ』
そうして嵐がぶち当たったような室内には静寂が訪れ、鳥井部長は絶望を感じてかその場に崩れ落ちた。安室はその姿に冷ややかな視線を送っていた。
「そんな…本当に違法薬物でも何でもないのに……摘発されればこの会社ごとお
「え、困りますよ部長。僕に
『もうそれどころの話じゃないだろ。おまえも
だが情けない雰囲気に
仮に鳥井部長が独断でそのような植物を栽培していたのだとしても、安室のように実情を知る部下もいる以上、会社という組織単位で刑罰の対象になる可能性は充分にあり得た。そうなると従業員である恵もまた、会社の倒産によって路頭に迷う
——何なんだろうこの状況。何の選択肢も選んでないのにゲームオーバーになったんだけど。どうするつもりなんだろう、このシナリオ…。
散々な気が遠くなりかけていたそのとき、オフィスの玄関ベルが室内に
——え、こんなときに来客? 外は警察が包囲してるんじゃなかったのか?
恵が玄関と
「あ、どうも~ピザキャップ
【彼はピザキャップ
『なんで急にピザ屋が出て来るんだよ!?
平然としている大柄な男を前に恵は思わず声を荒げたが、鳥井部長はトボトボと進み出ながら財布を取り出していた。
「ああ、俺が出前を取ったんだよ。君達にいきなり残業をさせてしまう以上、せめてもの夕飯をと思ってね…」
『もしかしてこの部長、これまでも現物支給で残業代を
「だがこうなってしまっては、
『いや俺これVRだから味わいようがないんだけど』
恵の目の前では
そんななか、
「どういう状況かは
「…その心は?」
「≪会社≫を意味する≪Company≫という単語の語源は、≪共にパンを
「そうか…会社とはこんなにも温かく、尊いものだったんだな…まさか自分が会社を潰しかけているときにそれに気付くだなんてな」
「皮肉なものですね。まぁ
『なんでさっきから上手いこと言うみたいな展開になってんだよ』
恵が傍観を続けていると、オフィスの奥から倉石警察官が足早に戻って来た。
「おいおい、警察が捜査している間に
『あんたまで仕事放り出すのかよ!?』
「まぁそう身構える必要はない。捜査の結果、例の植物は白だということが
『いやあんだけ威勢放っといて結局空振りだったんかい!!』
その報告を聞いた鳥井部長の表情は、
「あ、それならいっそこのスパイスをピザに掛けて食べてみてくださいよ! 本当は今夜友人の店に直接
『冒頭で掛けてた電話はその案件だったのかよ!?』
「おお~これはいいトッピングですね~今度ピザキャップでも試しに仕入れさせてくださいよ~」
「部長がこんなところで商談を成立させるなんて…いっそのこと独立したらどうですか」
「はっはっは! 人の輪とは何がきっかけで生まれるか
4人が談笑しながら食事を囲む様子が、徐々にフェードアウトしていく。VR体験がエンドロールを迎えていた。
【こうして≪会社≫の大切さに気付いた彼らは、また明日から仕事に励んでいくのでした】
『まさかのピザで丸く収めちゃったよこの脚本!!』
*****
【ご利用ありがとうございました。最後に一言感想をお答えください】
『…この会社だけには絶対入社したくないと思いました』
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