2.VRでインターン ≪前編≫
私立
だが恵はそれ以上に
とはいえいつまでも
——なんでも最近、VRでインターンを体験
担当者に案内された個室に座って専用のVR機器を装着し、事前に受付した氏名と学籍番号に相違がないことを確認すると、恵の視界は穏やかなメロディと共に仮想のオフィスへと転換した。
目の前の机にはパソコンや電話機が置かれており、周囲を見渡すとデスクワークに没頭している従業員が何十人と並んでいた。
VR自体が恵にとっては
——そもそも俺は今、どういう職種の会社に勤めている設定なんだ? 何も選択した覚えがないんだが…?
何かそれらしい情報がないか視線を巡らせていると、デスクトップ画面の右下の時計が18時59分を差していることに気付いた。よく見れば半透明な窓
——おい待てよ、これもう終業時間に差し掛かってるんじゃねぇのか? この時間から一体何を体験するって言うんだよ?
「お~い茂良野君、ちょっといいか~?」
不意に聞き慣れた声音が右耳に届き、恵は振り返った。するとそこには、スーツ姿の
『なっ!? 千亜紀!? おまえ何でここに…!?』
思わず声を上げた恵だったが、その視界にはVRならではのテロップが音声付きで挿入された。
【彼は
『よりによって部長なのかよ!? てかその趣味の設定
恵は顔を
「悪いんだけどさ~
露骨にお
直後、時計が19時を指して室内にチャイムが流れ、他の従業員は
容赦なく取り残される現状に恵は
『あの…もう定時なんですよね? 俺、残業しなきゃならないんですか?』
「頼むよ~君にしか
『その腹立つキャラ設定なんなんだよ』
説明も半端なまま鳥井部長は恵に背を向け、実際に着信があったスマホに応答した。
「もしもしお疲れ様~。そうそう、今日とっておきのやつを持っていくからねぇ~代わりにあれを
『電話の仕方気持ち悪っ!? てか絶対それ仕事じゃねぇだろ!?』
——何なんだよこの上司!? 部下に定時直前に仕事押し付けて自分は遊びに行こうって算段なのか!?
「諦めろよ茂良野。あの人はいつもあんな感じだろ」
すると背後からまた聞き慣れた声を掛けられて振り向くと、スーツ姿の
【彼は
恵は友人である春が同じくモデルになっていたことに驚きながらも、気の知れた顔が同僚役として並んでくれることは心強く思えた。
一方の安室は、いつにも増してダウナーな雰囲気で恵に語り掛けた。
「優秀な人財は1人また1人と転職しちゃって、特に能力もなく
『
「あんなヘラヘラした会社の
『言い回しが
「は? 残業の片棒なんて担がないよ? 僕は社畜に
『怖っ!? 困ったときに助け合える同僚の設定どこ行ったんだよ!?』
狂気
今の自分よりも遥かに社会へ
だがそうしている間にも恵の背後には通話を終えた鳥井部長が迫り、安室との間に割って入った。
「え~連れないな~安室君も手伝っていきなよ~。
『自分のこと棚に上げすぎだろこの部長』
鳥井部長の
「笑わせないでくださいよ。どうせ残業代なんて出さない
『えっ!? それはもう
また1つ明かされたブラックな設定に恵は動揺を隠せなかったが、鳥井部長は安室の肩に腕を回しながら会話を続けていた。
「そ、そんなこと言うなよ安室く~ん。今度また甘いもの
「馬鹿言わないでください、そんな甘い話に乗るわけないじゃないですか」
「表参道で売ってる1日限定10個の高級ミルフィーユ買ってきちゃうけどな~。今夜頑張ってくれたら俺が明日の早朝から並んで買ってきちゃうけどな~」
『この部長、
嫌らしさ全開で春に詰め寄る鳥井部長を
「し、仕方ないですね…今回だけですからね!!」
『いや言動の不一致
2人の
3人しか残っていないオフィスに反響する無機質なコール音に恵は驚いて飛び上がりかけたが、その勢いのまま反射的に受話器を取った。
『はいっ! えーっと…』
恵は電話に出てから、
『…何だったんだ? 今のは…』
「あ、やべっ。定時超えたのに留守電設定してないじゃん」
受話器を戻した恵の背後で鳥井部長が
それとタイミングを同じくして、オフィスの外から何かのサイレンが聞こえてきた。その
『!!?』
けたたましい破砕音が室内に響き渡るとともに、机やパソコンの配列がその地点から波状に崩壊した。
想像だにしない衝撃に恵は動転したが、突っ込んできたのが
——いやどうなってんだよこの展開!? 仮想世界だからって演出が過ぎるだろ!?
息を呑んで
「はいはい、こんばんはー残業警察でーす」
『残業警察!?』
警察手帳を
【彼は
『いやだから何でインターンで警察
*****
インターン先で警察に押し掛けられた恵の運命や
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