花だけが知る・・・

憧宮 響

花だけが知る・・・

花の生産が盛んな国『ぺルセス』。

春の女神の名が由来のこの国では、特にスミレの花が人気だ。

その日、フィーラも例にもれず、スミレの花を中心に、花屋の開店準備をしていた。

スミレと同じ色の薄紫色のエプロンを着け、長い黒髪を結い上げる。

その後に、背が低いので、高い場所の花を踏み台に乗って、陳列する。

明るい緑色の瞳を細め、今日もいい具合に準備ができた、と一人満足した。


「フィーラ、今日もよろしくネン♪」

「こちらこそ、よろしくね」


こっそり、花の妖精達と話す。

フィーラは幼い頃から、こうして様々な花の妖精と話をすることができた。

そのせいでいじめられたりもしたが、その度に、今はいない双子の兄と、妖精達が守って、慰めてくれた。


(兄さんも、スミレが好きだったな)


そんなことを思っていると、ボーラーハットをかぶり、スーツを着た男性が一人、近づいてくる。

女性への贈り物に来た客だろうかとフィーラが接客しようとすると、彼は思いがけないことを言った。


「今、誰かと話してたでしょ?」


声音は柔らかい。

だが、フィーラは硬直した。


「み、見てたんですか・・・?」

「うん。いやあ、久しぶりに“視える”人と会えて、嬉しいよ」


彼は店内に足を踏み入れ、中を見渡す。

男性にしては長い、括られた銀灰色の髪が揺れた。


「きれいだね」


彼の緑がかった青い瞳が輝いている。

戸惑っていたフィーラだったが、花をほめられて少し微笑んだ。


「ありがとうございます。もしかして、あなたも?」

「うん。そうだよ」

「そう、ですか・・・嬉しいです」


不意に、フィーラは男性に既視感を覚える。

でも、どこで?

はじめて会った人、なのに。


「じゃあね」

「え、あ」

「どうかした?」

「い、いえ」


いや、そんなはずはない。


ー兄は、もう死んでいるの、だから。


「ありがとうございました」

「こちらこそ。話せてよかった」


そう言って、男性は去っていった。



「ー大きくなったね。フィーラ」


できることなら、一緒に生きていきたかった。



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花だけが知る・・・ 憧宮 響 @hibiki1003

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