あなたを失いたくないので殺します!
吉崎さん、吉崎さんのことが好きなんです。
私はそう彼女に告げました。
吉崎美玲、実に美しい。
ベリービューティフォーな
私のレディだ。
そうはいっても私は一度彼女に断られた。
願い下げだと言われてしまった。
しかしながら私のレディ。
吉崎美玲は私の元へと来てくれたのだ。
おお、神よ。神の恵みよ。
やはり私に微笑んでくれたのか。
なんてアンビリーバボーな
出来事が私の味方でいてくれるのか。
しかしながら私は彼女を殺めてしまった。
仕方がなかったことなのだ。
私がそう、いかにして吉崎美玲という女性を
殺してしまったのか。
それを順を追って説明しよう。
♦︎
平冨 保はそこにいた。
南公園の草むらの奥。皆が秘密基地といい、
放課後屯するその近くの土に、
買っていたハムスターを埋めた。
彼は手頃なシャベルで片時もなく掘り続けた。
続くはまた深く、その深くまで掘り続けた。
またしても私は飼っていた蔵鼠を
握りつぶしてしまった。
その感覚はなんとも言い難く。
それはそれは快感であった。
「また生まれてこいよ」
私はそう、これが普通になってしまったのだ。
ああ、なんとも言い難い、
私は晴れやかな気分になっている。
これをこう、彼らに見せるんだ。
平冨がそう頭で考えた途端、彼らが現れた。
向こうのほうから彼らが現れた。
彼らは三人で歩いている。
そのうちの1人が気づいた。
驚いて大きな声を出したのだ。
「わあ、平冨くん、びっくりした」
「どうしてここに?」
平冨はにやけ顔を浮かび上げる。
彼は右手に握っているものを彼らに見せた。
それは掌で握りつぶした蔵鼠である。
臓器はめくれ、
凄惨なその姿を見た彼らは口を塞ぐ。
平冨はその口を開き、
「埋めておいたんだけど見せてあげるよ、
僕の大切な鼠を」
少量の土が地面に散る。
開いた口が塞がらないまま、彼らの1人が
「どうしてそんなことができるんだよ」
という。
かえって彼は、
「大切にしすぎて、こうなった」という。
危険を察知したのか、
彼らは行こうぜと言って去っていった。
何がいけない?何がいけないんだ?
大切な人を大切にして何がいけないんだ。
彼の右の手のひらから
一縷の血溜まりが落ちた。
♦︎
私はそう、この後、
施設に預けられることになった。
下世話な話や、塀の中の暮らし。
私は窮屈な日々を送ってきた。
頭の中で妄想したりする。
そう、あの握りしめた感覚、
胸が少し締め付けられるような感覚。最高だ。
私はその隙間から漏れる陽を
じっと眺めていた。
私は中学生になっていた。
気がつけばその衝動というものが
少し弱まってきたのだ。
騒々しい階段を上がる。
彼らが共にする生徒たち、道は
平坦になり
私は教室へとたどり着いた。
新しい街に来て、通学路も覚えたてのまま。
全てがあやふやだった景色に光が差した。
女神だ。
同じクラスの吉崎美玲、彼女は女神だ。
つるんとした唇、その凛々しい目、
私のものにしたい!
これは一目惚れというものか。
人生初のその突発的な感情は、
地球にひびが入ってしまうようなものだった。
背景がモザイクに切り替わり、
彼女だけに焦点があった。
周りの音も消え去り、
彼女だけの世界へ誘われた。
それからの日々は上品なものだった。
枠組みから外れるような
この気持ちは一体なんだ!
寝ても覚めても飯を食う時も
何をしている時も彼女がいる。
好きです。
私は素直にその気持ちを告げた。
全てが解き放たれたような気分になった。
ごめんなさい。
この世に在る音が全て消え去った。
頭を銃弾で撃ち抜かれたような。
その日は部屋の隅で泣いた、泣き喚いたのだ。
だがまだまだまだまだ。
好きです。
どうだどうだ。
そんなに思ってくれるなら。いいよ。
来ました。神は実在しました。
こうして彼女が私のものになりました。
大切にする。大切にするぞ。
そうして私は彼女の温かい手を握った。
こんな温かいもの、
世界はまだ終わっちゃいない。
色んなところに出かけた。
駅前のショッピングモール、映画館、
その全てに彼女がいた。
愛おしい。愛おしい。
ある夜の駅の外れ、
私は彼女とベンチに座っている際、
すでに私は彼女の首を絞めていた。
その力は強く、強く。彼女の顔が窺える。
愛おしい、愛おしいからこその。
より強く絞めている。
「何やってるんだ」
と中年男性が駆け寄ってきた。
彼は近くの店の店主のようで、
店の名前がついたエプロンを着ている。
彼ら私を押さえつけた。
なぜ、なぜなんだ。
彼女の咳き込む声が聞こえる。
好きなのに、どうしてなんだ。
私が地面に押さえつけられている間、
彼女は鞄を掴んでその場を
立ち去ろうとしている。
さよならと彼女の声が
聞こえたような気がした。
私はそれからその足で交番へと
連れてかれたのだ。
事情を聞かせ、
しばらく拘留されることになった。
数日後、私は学校へ向かった。
人の目がやけに刺さる。
彼女の存在は学校から無かったことになった。
親の事情で転校することになったらしい。
どうして、どうして彼女は。
私が悪かったのか?分からない分からない。
分からない。
もしかしたら、もしかするとまだ
家の周りにいるかもしれない。
家に帰って、
そうだ、包丁を持って探してみよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます