灯籠流し②

とても嫌な予感がしていたのか。

何故だか視界が揺れるような、車酔いのようなその手の気持ち悪さだ。

僕は何故だか石を手放したくなくなった。

そこでぼんやりと、僕ら4人ではない誰かがそこにいると感じた。

背丈ゆえに子供のようだ。

僕はなんとなく察した。

「この石に触れちゃダメだよ」

歪む視界の奥には彼がいた。

確かにいる。

僕はえ?と言った。

「この石はあの世の石、だから絶対触れちゃいけないんだよ」

「僕もう触れちゃったよ」

彼はあーあ、と言っていた。

「ここは何もない場所」

と彼は言った。

「そうだ、君にとっての何もない場所ってどこなの」

僕は悩んだ末に、

「学校かな、勉強嫌いだし」

と言った。

「僕は国語が好き」

彼は言った。

それでも不自然な点が、明らかに小学生ではない。

年長さんか、年中さんかほどの年齢だ。

「僕は国語の授業を受けてみたかったんだ」

と彼は言う。

僕は冗談混じりに、

「僕の代わりに受けてよ」と言った。

彼は言った。

「僕の友達にも何人かそういう子がいてね、僕は勉強が好きだから大丈夫なんだけど、あと1人、誰かに石を持たせてくれる?」

僕は全く訳がわからなかった。

自分で聞いたものの分からなくなったのだ。

ちょうど勝田くんが近くにいるのだ。と思ったものの僕はやめておいた。

そんなことをしている間に僕は再び鬼になった。

結果的には三松くんが山川くんを選んだ。

不自然に石を持たせる彼の姿を私は見てしまった。

その様子を見ている彼も見てしまった。

僕はなんとも言えない気持ちになった。

それこそ彼がもしかすると犠牲になってしまうのでは。

何故だか自分よりも他人の心配をしていた。

僕は必死に階段を上がる。

一段一段と駆け上がる。

こんなこと先生に知られてしまっては彼らが怒られてしまうと。

僕は祠に辿り着いた。

僕は両ポケットに入れた石を置きにきた。

僕は何故だか手を合わせていた。

視界がだんだん歪んできた。

目の前に確かに男の子がいるのだ。

彼にありがとう届けにきてくれて、と言われた。

昨日は知らなかったが皆彼を見ていたのか。

「それと、僕に国語の授業を受けさせてもらってありがとう」

と僕はよく分からない反応をしていた。

が、僕はなんとなく察した。

「まともに受けない3人組か」

そう、授業中に山川くんはすぐに寝る。三松くんはおしゃべりをする。篠沢くんはすぐに絵を描く。

「石を触れちゃいけないよというのがずっと守られてきて、僕は授業を受けられないと思った。

僕たち3人は石に触れた誰かに乗り移ってまで授業を受けたいと思っていたんだ」

気づけば幻覚は3人になっていた。

「ようやく国語の時間に乗り移ることができたんだ君たちに!そしたら絵を描くわ、校庭へ遊びに行くわ、全部乗り移ることができなくて!!」

なんて彼は怒りながら笑っていた。

僕は彼らに戻らないと、と告げた。

今度色んなことを教えて欲しいと言われた。

彼らはまるで生きているかのように笑いながら手を振った。


♦︎


気がつくと目が覚めた。

ここはどこだ。

ここが授業をするところなのか?

僕は勉強がしたい。でも、絵が描きたい。

んーどうしよう。彼らは乗り移ることができたのか?

彼らはどこにいるのだろう。

こんな高い建物初めてだ。

下にいっぱい大人がいる。

なんだこの絵は。

僕はひょっとしてこんなに絵が下手なのか。まず、なんの絵なんだ。

勉強がしたい。

でも、人がいっぱいで逃げ出したい。

あの大人たちはいったい何なのか。

誰なのか。

誰かが走っている。2人だ。

大人たちにバレないように2人が走っている。

きっと彼らだ。

どうしようどうしよう。

僕は勉強がしたい。

授業ってこんな感じなんですか。

僕は何も考えずにまた絵を描き始めた。

それでもやっぱり勉強がしたい。 

絵も描きたいけど勉強だ。

僕は開いてあった本を読む。

それこそ読める文字だけ。

とても面白かった。

僕はたった一人の空間にいた。 

周りの声など聞こえない。

一人の空間にただ一人。



「勝田くん戻って来れるかしら」

なんて1人の女子がつぶやいた。

彼らはいったいどこへ行ってしまったのか、本当に神隠しなのか。

色んな憶測が飛び交う教室で、山岡くんは

「宮原くん、あれほんとなの」

と聞いた。

彼は内心怖がっていたのだろうか。

「僕の実家、阿魏神社だから」

周りの皆がえ!と驚く。

「うそうそ、でもその話はほんとらしいよ」

と言った。

「悪かったよ、あんなこと言って」

と言い出したのは鷲尾くんであった。

 続けて何人かも謝る。

 

「今日一緒にお昼食べよう」と山岡くんが言った後に、宮原くんも「いいよ」と言った。

天野さんは、

「ようやくクラスが仲良くなれたわね」と嬉しそうに言った。

そこで4時間目の終わりを知らせるチャイムが鳴った。

皆目を合わせている。しかし何も言わない。

「え、なんで」

と声を出したのは学級委員の今野くんだ。

元通りに三松くんと山川くんが席に座っているのだ。

2人も驚いていてあたふたしている。

「どうしたのみんな」

と何もなかったように山川くんが言う。

皆にこっちの台詞と言われている。

とある女子が山川の上履きを指さした。

とてつもない砂利が付いている。

「え、なんで!」と彼は言った。

三松も砂利がついていたらしく、その場に立ち上がった。

よかった無事で。という言葉が飛び交う。

確かにものすごくいいクラスのようだ。

彼らには記憶がなかったのだが、僕には記憶が存在する。

のちに僕は三松くんと山川君に伝えた。

そうだ。

あとは石を届けてくれた勝田くん。僕はありがとうと伝えた。



勝田くんと同時に担任の志村先生が戻ってきた。先生は、

「お昼ごはん、食べよう」と言って、教室の中へ。僕もしっかり勉強をして、いろんなものを大事にしようと思った。彼らのことが凄く気がかりで。

僕は開いてあったノートのページを見た。

自分の絵の上に“しっかりべんきょう”と書いてあった。僕は頷いた。


僕はしばらくして熱心に勉強をつづけた。

それから週の日課行事もすることにした。

 阿魏神社での勉強会だ。 

僕は教えてもらってばかりだけど。

 あの子たちもここにいてほしい。

僕らと一緒に笑ってほしい。

 そんなことを思っている。

普段はつくはずのない灯篭が3つ光出した。 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る