灯籠流し①
三松くんと吉川くんがどこかへ消えてしまった。
僕たちは授業を受けていたのだ。誰もが前を向いて授業を聞いている(ふり)をしていた。誰もがだ。
僕は教科書やらに落書きをして、たまに窓の外を見ていたりした。
国語の授業だったので朗読の時間がある。当てられてしまうと読まなければいけない。とても嫌である。
担任の志村先生は黒板の方を向いていたが、皆がうとうとしていると察するようにこちらに振り返る。
その時に三松くんと吉川くんが消えてしまったのだ。
何も物音もなく、一言も入れずに消えてしまったのだ。
僕たちはゆっくりと騒ぎ立てた。いない、いないと。
外に出て遊んでいるのであろうか。僕たちには何もわからないけれど、何か理由があるに違いない。
とうに授業どころではない騒ぎになった。
志村先生は慌て果てて教室から抜け出し、私たちも席を立ち上がったりした。
落ち着きなさいと隣のクラスの担任、渋川先生が私たちのクラスに入ってきた。ひとりふたりと続いて皆があたりをきょろきょろ見渡す。
それにしても彼らは校舎のどこにも見当たらないようで、色んなクラスの先生たちが校庭の外に集まり出したのを僕は見ていた。
他のクラスのみんなも騒ぎだし、それはそれは大変な騒ぎになった。
僕たちははたはた、うろうろしている。
4時間目があと10分で終わる。お腹も空いたが僕たちはまさにそれどころではなかったのだ。
僕たちはいろいろな憶測を立てた。
それはそう。色々。例えばトイレで遊んでいるとか、
お化けに連れ去られてしまった、とか僕たちは色々と意見を募らせていた。
そこで校内放送が流れるチャイムが鳴り、安静に席に着くようにと、おそらく校長先生の声が聞こえた。
僕たちはある程度静かに過ごすことになった。
それも学級委員の今野くんが僕たちを静かにさせたのだ。それでも幾人かの生徒には
「真面目君」なんて茶化されたりしていた。
僕は静かに窓の外を見ている。一向に彼らは見つからないらしく、担任の先生たちも頭を悩ませていた。
「なんだと思う」と、急に大きな声を出したのは宮原くんだった。彼は特に誰とも話さずにクラスでは少し浮いたような子だ。
「宮原くん、どうかしたの?」
と天野さんが言った。
「僕思い当たる節がある」
と彼は皆に向けてこう話した。
「神隠しって知ってる?」
普段話さない彼が急に目立つ行動をとったので皆があたふたしている。
「神社で行方不明になった子が何日か後に発見されたり、いなくなってしまうことを言うんだ」
何人かの生徒が茶々を入れる。
「急にどうしたのー」
と山岡君が言った。
「不思議なんだ、何か」
何人かの彼らが鼻で笑う。
「不思議くん、不思議くん」
と馬鹿にした声が飛び交い始めた。
彼は意気揚々とこんなことを話し始めた。
「僕たちの住むこの街に阿魏神社という神社がある」
皆ぽかんとしている表情だ。
「その神社にまつわる話で、ある子どもたちがそこの神社でかくれんぼをしていた。その時に男の子の1人がどこかへ消えてしまった。その近くの森か、それともどこかで死んじゃっていないかなんて言いながら彼を探していたんだ」
そこで切り込むように鷲尾くん、先程まで茶々を入れていた彼が、
「宮原くん、すごく変だよ」
と嘲笑うかのように言った。まわりの生徒も幾分か笑っている。私は笑わなかった。
「その男の子は結局、見つからなかった」
彼は少しトーンを下げてこう話した。数人の女子生徒は少しの悲鳴を上げる。
「彼は石になったんだ」
石になった?と僕は困惑をする。いや他の生徒もおそらく困惑している。
「石になったってどういうことだよ」
と再び山岡くんが言った。
「彼はしてはいけないことをしてしまったんだ」
♦︎
そこで、一人の女子、岡田さんが席を立ち上がった。
皆が驚いていた。
「私、その話聞いたことある」
そうして何人かの生徒が口々に「俺も」「私も」と言い出したのだ。鷲尾くんらは不機嫌そうに見ている。
「みんな知っているよね。三松くんと吉川くんはあの場所の前でしてはいけないことをしたのかもしれない」
彼は深刻そうに言った。
天野さんが即座に、
「してはいけないこと?」と彼に尋ねた。
「あそこの神社の祠にある石を持ち帰ったら」
教室が少し恐怖に染まる。
「嘘だ」と山岡くんが言った。
「信じない方がいいよ」
なんて彼らが口々に言う。
勿論僕も知っていた。
「嘘じゃない」
「どうしてそんなことが言えるんだ?」
なんて山岡くんが言う。
「だって」
彼は何かを言おうとしてやめたようだ。
「でもとにかく、それが原因だと思うんだ」
勝手にやってろと彼らの声がする。
僕は再び窓の外を見る。
「勝手にしろ」
と彼らはぼやきながら言う。
今野くんが突然、
「それじゃあ」
と言う。あたりの皆はどうしたのと問う。
「これで3人目?」と言う。
もしかしたら、と鷲尾くんが三松くんの机の中を確認する。彼の机上は開かれたままのノートと教科書が。
鷲尾くんは一歩ほど引いて、
「ある」
と震えた声で机の中からパソコンのマウスほどの大きさの石を取り出した。
「ってことは」と山岡くんも大慌てで吉川くんの机の中を確認する。やはり同じような石が見つかった。
「宮原くん、すごい」
と女子生徒たちが言う。
逆に彼らは呆然としていた。
「この石は戻しに行かないといけない」
怖いね、などの声が聞こえてくる。それに応じて宮原くんは、
「そのいなくなった子が持っていた石は神社の中で供養されている」
とさらに不安を煽った。
「でも授業中だし」
といろんな声が聞こえる。
「僕が置きに行ってくるよ」
と言ったのは僕の親友、勝田くんだ。
僕は嬉しかった。
「僕の親友ももしかしたら。
その言葉が出てきた。やっと気づいてもらえたのだ。
僕も彼らと同じ、いない存在になっているからだ。
僕の目線からだと山川くんと三松くんもそこにいる。
要するに身体だけがあるのに皆が気づかない。彼ら2人と僕はいない存在と皆が認識してしまっているのだ。
「それじゃあ」
と勝田くんが教室を出ていくのが見えた。
僕はとても嬉しかった。
ここから阿魏神社となると走って5分ほど、
実を言うとこの校舎からも神社が見える。
僕はふと、昨日のことを思い出した。
勝田くん、僕、それと山川くんと三松くんの4人で鬼ごっこをしていたのだ。それこそ街を見渡すことが出来る高台に位置するこの神社。
私が鬼の番だ。
境内はとても広い、神社を模るように4つの大きな灯籠が置かれてある。その間を舗装された道があり、そんな所を行き来するように僕たちは鬼になったり、ならなかったりと遊んでいたのだ。
三松くん、彼が鬼になった時。その祠が目についたようだ。
彼は興味本位で石に触れた。
それはいけないよと僕が注意をした。
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