断片小説②

そうだ、やはりそうだ。

あれは初恋の相手だ。本物の初恋の相手だ。

淡々と彼女はこの町について話している。

近くの家のおじさんはヒューと冷やかしを入れるが、隣にいた妻に引っ叩かれている。

彼女はこちらを見て手招きをする。

どうやら生中継のようだ。私は小説家、

だがこんな姿で世に映ってしまう。世に知れ渡ってしまう。逃げたい。だが、好きだと言うことも伝えたい。

どうしてだ?何故そんなことを思っている。今?何故今?そんなことを思ってしまうのか?私は彼女のことを思いながら眠った日もある、彼女のことを思い浮かべて書いた小説もある。しかし、何故今なんだ、今どうしても言いたい。今だ今!と思うが体は言うことを聞いちゃくれない。

「おばけさんたちーおいでー」

と言われるがままに私たちは一列に並ぶ。

これで我々おばけ一同は、根っからもなくお茶の間に映る。白装束Aは「どうも、おばけでーす」と辿々しい様子で言う。それを半分無視するかのように彼女は

「はい、この町のハロウィンです、色々な幽霊がいるみたいですよ」

と声色を変えながら上手に話す。

やはり彼女だ。惚れた時のまんまだ。

どこかの家のおばさんがカメラも気にせず誰かから貰った缶に入ったクッキーを持ってきた。それはそれは大きく。彼女は苦笑いしながら受け取り、トリックオアトリート!なんて言ったりした。

私は隣にいた彼、白装束Aに初恋の相手だと言うことをこそこそ伝えた。

え、そうなんだ!と彼はかなりの声で言った。

幸い彼女には聞こえていないようだが、彼が提案したのだ。それはそれはこそこそと、俺の後に続いてと。


♦︎


僕は、と彼が言った。

何を考えていたのだろう、いや何も考えていなかったからか。私も「僕は」と言ったのだ。

もちろん中継は回っている。彼女もえ?と言う表情でこちらを見てきた。

ずっと前からと彼が言う。

私も続けて言った。なんの恥ずかしさもなかった。

好きでしたと彼が言い、私も言った。

そこでほぼ初めて彼女と目が合った。

彼女も驚いたような顔で、「やっぱり?」と言った。

撮影スタッフは困惑し、我々にハケろと手で合図を送る。それは確かにそうだ。今は中継されている。大多数の茶の間へ。しかも白装束だ。

彼女は少し顔を赤らめ、私も!と言った。私は驚いた。

「好きだった時期はあったわ、それはね」

呆れたスタッフの一人がちょっと!と止めに入る。

「でもあなた一度私を振ったでしょう!」と彼女が言う。確かに私は彼女を振った。

命懸けで小説を書くためだ。

その時私は、当時から優秀である彼女とは一緒にいられないと思ってしまったのか、そう答えてしまったのだ。私はそのことを後悔している。

どうしよう、どうしようと私は言葉を探す。探す。

やめてくださいとスタッフの彼が言う。

私は思い思いの考えを振り絞り、こう言った。

「僕は今日一度、死にます。

小説家の自分を捨てます」と。

「だからもう一度、もう一度だけチャンスをください」私は精一杯を込めて言った。

少し考えた上で彼女は、ばっと顔を上げてCMの後!と言った。


ちょっと困りますってとスタッフに我々は怒られた。

白装束Aは頭を下げ謝った。私も同じように謝った。

ごめんなさい、と彼女も謝っている。

「もしかすると、クビってのもあり得るからね!次のシーンはちゃんとやってもらわないと!」

と言われ、彼女は俯いたまま再び謝る。

カメラだカメラだ!と子供たちはこちらへ寄ってくる。

私は先ほどの発言を白装束Aの彼に謝った。

死にます、なんて言ってと。

彼は笑っていた。まったく上手いよなんて言って。

再び彼女の方を見ると俯いたままだ。

私は彼女の顔を見ていることしかできなかった。


本番いきますよ、5、4とカウントが来た後で

スタジオと中継が繋がるらしい。

彼女は表情を変え、仕事の顔を見せた。

「はい、とても活気のある町です。皆が一丸となってハロウィンを盛り上げています。はい、ええ、え?そうですか」

なんのことだからさっぱりだったが、やっと知れた。CMの後を。

「それはですね、OKです」

私たちは肩を掴み合いながら大喜びした。それはそれは喜ばしく、私はガッツポーズをした。

以上中継でした。と彼女は言い、撮影が終了した。

だめだよと説教をされる前に私は彼女の手を取った。

驚いた彼女もすぐに笑顔になった。

走りながらどこへ行こうかなんて話をしている。

あなたってそういう人だったのねと言われた。

どちらの意味かわからなかったのでとりあえず「ああ」と答えた。私たちは子供のように走る。

全力でこの田舎道を走る。私は白装束のまま。


♦︎


とことん走り終えたあと、私たちはベンチに座り込んだ。自動販売機の明かりのあるベンチだ。

ここからどうする?と聞くと、私はクビだあとため息をつく。「僕のせい?」と聞くと「僕のおかげ」と答えた。

「せいせいするよまったく、いつ辞めてやろうかって」予想外の返答に驚いた。

すると向こうのほうから車が一台やってきた。

隠れる?と提案したが、

あれはテレビ局ではないと彼女が言った。

車の運転手は白装束Aだった。

まだ彼は白装束を着ている。変わらず私もだが。

「どこにいるかと思ったよ」と彼は窓を開け言った。

とりあえず乗ってと言われたので、私たちは後部座席へ乗った。

「いやほんとうまく行った?みたいで安心したよ」

と彼は車を動かしながら言う。

ありがとうと私は言った。

車を走らせること5分、とりあえずうちに寄ると彼の自宅で止まった。

ちょっと待っててと彼は1分ほどで大きなクーラーボックスを後ろのトランクに入れた。

怪しい。何が入っているのか。

彼はまた運転席に乗り込む、すると白装束B、弟が玄関から出てきた。私はありがとうと声をかけると「絶対幸せになってください」と言われた。私はそれが嬉しく、大きく頷いた。

白装束Aの彼はここから一番近い大きな駅まで送ると言う。ありがたく送ってもらうことにした。

やはり田舎は田舎で、車通りもほど少ない。

私は聞くべきことを聞こうとした。

そう、クーラーボックスの中身である。


私は彼女と目が合い、問いかけた。

「あのクーラーボックスの中身って?」

彼は変わらぬ口ぶりで

「処理に困るものだよ」と言った。

私たちは何か悪い予感がして、

「いいよ、いいよここら辺で」と降りようとした。

「ダメだよダメだよこんな山道で」と言った。

確かにそうだがただならぬ予感がしてやまない。

「じゃあタクシー呼ぶ」

と彼女も言う。「電波繋がらないよ」と彼は言う。

これはやばい。と私たちはだんだん焦り始めていると、「ほら近道」と大きな駅が見えてきた。

ビルとかではない大きな駅だ。

ありがとうと私たちは礼を言う。

いえいえと彼は答える。

車を降りてからはトランクから問題のクーラーボックスを出した。「こんなところで!」と私は声を出してしまった。彼はクーラーボックスを開けた。

「処理に困るんだよ」

中身は大量の麩菓子でした。

「これ食べきれないから持ってって」

私たちは安心して笑い合った。

「殺されるかと思ったよ」と言いながら私たちは再び彼にお礼を言った。

「達者でな」と彼は手を降り、去って行った。

大きなクーラーボックスを抱え、彼女と駅の方へ向かう。警察に2回ほどクーラーボックスの中身を見せた。やはりこんなに怪しいものはない。私は白装束を着たままですし。


あれから私たちは正式に付き合い始めた。

仕事のことはとりあえず二の次で、今はとても楽しい。自由で開放感のある生活の中にいる。

そういえば占い師に言われたのを思い出した。

"あなたはこの数ヶ月甘いものばかり食べる"と。

とりあえずはこの麩菓子を食べ終えてから考えよう。

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