第2章第12話「頼って行こう」

 リビングに行けば既にお寿司が机に並べられていて、みんなは楽しそうに談笑しながら食べ始めていた。


「あ、沢渡くんの分もちゃんと取ってあるから安心してね」


 俺が入って来たことに気が付いた真柴さんがそう言ってくれた。


「ありがとう」

「城ケ崎くんは大丈夫そう?」

「うん、最初よりかはよく眠れてそう」

「それなら良かった」


 俺たちのそんな会話を弟くんたちは心配そうに聞いている。


「お兄ちゃんなら大丈夫だよ」

「僕、もっとお手伝いすれば良かった……」


 1番上の琉翔くんが泣きそうな声で言った。そんな琉翔くんの隣に俺は腰を下ろして、ぽんぽんと優しく頭を撫でてあげた。


「これから、手伝ってあげれば良いよ。奏良はさ、琉翔くんたちに心配かけさせたくなくて無理すると思うから大丈夫って言ってても無理やりにでも手伝ってあげて」

「うん」

「ぼくたちもできること、あるかな……」

「ぼくも」

  

 太陽くんと悠李くんの言葉に「きっとあるよ」と言ってあげた。


「実は、さっきね2人と一緒に洗濯物畳みしたんだけど2人とも上手だったのよ」


 中園さんの言葉に2人は嬉しそうに笑っている。


「琉翔くんもお風呂掃除ちゃんと出来てたよ」


 東宮さんがそう優しい声で言った。ちょっと、琉翔くんは照れ臭そうだ。そんな会話をしていると、玄関の音が開く音が聞こえた。お母さんか妹さんが帰って来たのだろう。


「ただいまー兄ちゃん、靴たくさんあるけど誰か来てるのー?」


 そんな声と一緒にリビングのドアを開けた妹さんは、俺たちの姿を見て「誰⁉」と驚いている。


「俺たち、奏良の大学の友達で……実は、奏良が風邪で倒れちゃったんだ。だから、手伝いに来ていて……」

「とりあえず一緒にご飯食べない?」


 机の上のお寿司を見て、妹さんは「うん」と頷いた。奏良の妹さん、高校2年生の晴(はる)ちゃんは反抗期と聞いていたが今のところ大人しい。人見知りなんだろうか。黙々とお寿司を食べている。弟くんたちはとっくに食べ終わっていて、中園さんと一緒に遊んでいる。弟くんたちに囲まれている中園さんは楽しそうで、本当に子どもが好きで子どもたちからも好かれやすいのだなと見ていて分かった。


「お兄ちゃん、頭痛と高熱があって、それから最近ほとんど食事も睡眠もとれていなかったみたいなんだ」


 俺は、お茶を飲みながらゆっくりと晴ちゃんに現状を伝えた。


「え……」

「たぶん、睡眠がとれてないから疲れも取れない、それでお腹が空いていても食事を受け付けなかったんだと思う」

「ねぇ、お兄ちゃんさ今までとここ最近で変わったことなかったかな?」


 優しく真柴さんがそう問いかけた。


「……大学のこと、楽しそうに話すようになってた。朝早くにヴィオラの練習している感じもあった」

「……奏良とさっき眠る前に話してたんだけどね、今までは大丈夫だったんだって。だけど、俺たちとピアノ五重奏やるようになってから意識が変わっちゃって、今までと同じ生活は厳しいって言ってた。本当はもっと練習がしたいって」

「兄ちゃん……」

「弟くんたちも、倒れちゃったお兄ちゃんを心配してこれからは手伝えること手伝いたいって言ってた。晴ちゃんも出来るかな?」


 東宮さんの言葉に小さく晴ちゃんは頷いた。


「出来る」

「偉いね。そしたら、早速だけど一緒にお粥作ってお兄ちゃんに食べて貰おうか?」

「うん」


 東宮さんと晴ちゃんは一緒にキッチンへ向かった。その様子を見て、これからの城ケ崎家は大丈夫そうだなと感じた。お母さんがいないのは気になるけれど、弟妹たちが思っていた以上にしっかりしていそうだから大丈夫だろう。


 それからしばらくして、出来上がったお粥を晴ちゃんがお盆に乗せて俺たちも一緒に奏良の部屋へと向かった。弟くんたちのことは中園さんが見てくれている。すっかり仲良くなっているみたいで、俺たちが入る隙なんてなさそうだった。


「奏良、入るよ」

「おー」

 

 まだ眠っているかなと思いつつ一応声をかけて入ると、奏良は身体を起こして楽譜を眺めていた。


「晴、帰ってたんだな。おかえり」

「……にいちゃんっお粥作ったから食べて」

「え、晴が作ってくれたのか?」

「舞お姉ちゃんが教えてくれた」

「ありがとな。寝たらすっかり良くなったから食べるよ」


 奏良は嬉しそうに笑って、そう言った。ここに来るまで本当に顔色が悪かったから、良くなってくれてようやくほっと出来た。保健室ではゼリーを二口しか食べられなかったけど、今はゆっくりではあるがお粥をちゃんと食べている。


「おいしいよ」

「良かった……兄ちゃん、ごめん。私ばっかり部活優先にして家のこと何もしなくて……。兄ちゃん、ヴィオラの練習時間もっと欲しいんだよね? 私も弟たちも家のこと手伝うからみんなで分担してやっていこう?」

「いいのか?」

「うん、兄ちゃんが倒れちゃう方が嫌だっ」

「ごめんな。兄ちゃん、目の前のことに必死過ぎたな……」

「兄ちゃんのバカッ」


 そう言って晴ちゃんは、奏良に抱き着いた。


「素敵な家族ね。琉翔くんも太陽くんも、悠李くんもしっかりしてるよ。まだ出来ることは限られているかもしれないけど、少しずつ頼って行っても良いと思うよ」

「真柴さん……ありがとう。凪音も東宮さんも本当に、助かった。これからはもっと晴たちを頼って行くよ。みんなのことも。あれ、そういえば中園さんは?」

「詩織ちゃん、弟くんたちとすっかり仲良くなっちゃってずっと遊んでるよ。本当に子どもが好きだし好かれるみたいだね」

「高い見返りを求められるかもしれないから覚悟しておいた方が良いかも」


 真柴さんはふふ、と笑ってそんなことを言った。


「はは、ありえるな。だけど、ほんとに今日はみんながいてくれなかったらどうなってたかわかんねーから、感謝してもしきれない。今度、ちゃんとお礼させて欲しい」

「俺としては、元気でいてくれたらそれで良いけどな」


 うんうんと真柴さんと東宮さんも頷いている。


「ありがとう。これからは、絶対に無理しないようにする」


 そう俺たちに言ってから晴ちゃんの方を見て「家事の分担、明日決めような」と奏良は言った。

 

「うん」


 晴ちゃんは嬉しそうに返事をした。その後、俺たちはもう大丈夫だろうと思い帰り支度をし奏良に「そろそろ帰るな」と声をかけた。見送ろうとする奏良を大丈夫だから言い聞かせて俺たちは城ケ崎家を後にした。

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