閑話C
初めて彼女に会ったのは、軽音部かどこかの部活の新歓の後だった。部室までついていったはいいものの、楽器はどれがいいだの、演奏する曲はどうだの、未経験者の僕にはよくわからない話をされたのを覚えている。適当に抜け出して部室棟を散策していたとき、「ドラゴンハンター部」と書かれた看板が立っているのを見つけた。
「君、見学?」看板が立っている部屋の隣の部屋から、男が顔を出した。
「鍵は開いてるから、適当に見て行っていいよ。どうせ部員はいないし。」
「と、いうと?」
「そのままの意味だよ。卒業した先輩の頼みで何人か部員として申請してるけど、活動してる人はいないってこと。」
そういうこともあるのか、などと思いながら、部室のドアを開け、惨状を見た。
4畳程度の空間がゲームやらラノベやらで埋め尽くされ、僕一人が座る場所を確保するのでやっとという状態だった。
なんとかお目当てのゲーム機を引きずり出し、電源を入れた。ゲーム機にはすでにドラゴンハンター2が入っていた。
ドラゴンハンターシリーズは、いわゆるレトロなRPGだ。敵を倒して、レベルを上げて、装備を買って、また敵を倒す。そうして最後にドラゴンを倒して、ゲームクリアとなる。最新は2で、協力プレイが追加された3がもうすぐ発売されるらしい。とはいえ、古いゲームだ。新作が発売されるからといって、ドラゴンハンター部が人気になる、なんてことはまずないだろう。
僕は随分と熱中してプレイしていた。いつの間にか、部室にもう一人来客があったことに気づかないくらいに。
「さっき、軽音部を見学してた人だよね。」
「え?」後ろを振り向いた。やはり狭そうに、女が座っていた。そういえば、さっき軽音部の見学をしていたときに、後ろの方で話していた二人組のうちの片方が、彼女だった気がした。
「ああ、うん。」
「私も友達に誘われていったんだけど、別に興味があったわけじゃなかったし。他の部も見て回ってたら、ここを見つけたの。」
「そう。」
その後、特に彼女は何も言わなかった。だから僕もゲームに戻った。
「……。」
10分くらい無言でゲームを続けていたが、彼女はずっと後ろからゲーム画面を眺めていた。とうとう痺れを切らして、僕は彼女に向き直った。
「やりたいなら、探そうか?そこの山に多分もう一つくらい埋まってると思うよ。」
「せっかくだし、お願いしようかな、私にはどれも同じに見えるから。」
しばらく捜索して、僕はまたドラゴンハンター2が入ったゲーム機を見つけた。彼女はそれを受け取ると、ゲームを開始した。それを見て、僕はまた自分のゲームに戻った。
次に僕が周囲に意識を向けたのは、傾き始めた陽の光が窓越しに差し込んできたことに気づいた時だった。あれから1時間くらいゲームをしていたのだろう。振り返ると、ゲーム機から顔を上げた彼女と目が合った。
「これ、面白いね。」そう言って彼女は笑った。
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