第7話 自分革命 春菊のピーナッツ和え

 森の中の一角に、「香りの村」と呼ばれる場所があった。そこには、個性豊かな食材たちが住んでおり、それぞれが自分の特技を誇りにしていた。春菊もその一人だった。彼女は深い緑色の葉をたなびかせ、村の中でも特に上品な香りを持っていた。


 しかし、春菊は心の中に小さな悩みを抱えていた。

 「私の香りは独特すぎて、皆が好きになってくれるわけじゃない。私は本当に役に立てるのかしら?」


 そんなある日、村に新しい住人がやってきた。それは小柄で丸みを帯びたピーナッツだった。彼は明るく気さくな性格で、村の住人たちからすぐに人気者になった。




 春菊は、ピーナッツが村の住人たちに囲まれ、笑顔を振りまいているのを遠くから眺めていた。

 「あんなにみんなを笑顔にできるなんて、すごいわ……。私は、私の香りでみんなを困らせているだけ。」


 そんな春菊の様子に気づいたピーナッツは、優しい声で話しかけた。

 「ねえ、春菊さん。どうしてそんなに寂しそうな顔をしているの?」


 春菊は少し驚いたが、正直に自分の気持ちを話した。すると、ピーナッツはにっこり笑って答えた。

 「そんなことないよ!君の香りには特別な力がある。少し僕と一緒に何か作ってみない?」




 ピーナッツの提案で、二人は村の中心にある「調和の鍋」という神秘的な器具を使って何かを作ることになった。村では、この鍋を使うことで、新しい味や香りを生み出すことができると信じられていた。


 春菊は緊張しながらも、ピーナッツの励ましを受けて鍋に飛び込む準備を始めた。彼女は自分の葉を丁寧に整え、湯に浸かることで柔らかな香りを引き出した。


 一方、ピーナッツは自分の硬い殻を割り、中身をすりつぶして滑らかなペーストに変えていった。

 「これで僕の良さを最大限引き出せるんだ!」と彼は嬉しそうだった。




 二人が鍋に入ると、村の住人たちが集まり、その様子を見守った。鍋の中で春菊の香りとピーナッツの濃厚な風味が混ざり合い、独特な香りが立ち上った。


 その香りを嗅いだ住人たちは、最初は驚いた様子だった。

 「何だこの香りは……?でも、不思議と落ち着く。」


 鍋の中では、春菊が不安そうにピーナッツに尋ねていた。

 「私たち、本当に成功しているのかしら?」


 ピーナッツは笑いながら答えた。

 「心配しないで。僕たちが全力を尽くせば、それが答えだよ。」




 鍋から完成した料理が取り出され、住人たちに振る舞われた。最初の一口を口に運んだ年配のカブおじいさんが目を見開き、満面の笑みを浮かべた。

 「こ、これは……心が温まる味だ!」


 他の住人たちも次々に料理を口にし、その豊かな味わいに感動していた。


 春菊はその様子を見て、少しずつ自信を取り戻していった。

 「私の香りが誰かを幸せにできるなんて……!」




 その夜、春菊はピーナッツと一緒に月を見上げながら話していた。

 「ありがとう、ピーナッツさん。あなたのおかげで、自分を少し好きになれた気がする。」



 「春菊さん、僕も君と一緒に新しい味を生み出せて嬉しかったよ。自分の特性を受け入れることで、もっと輝けるってこと、君が教えてくれたんだ。」


 春菊は心の中で、自分の香りや特徴を愛する大切さを感じていた。




 春菊とピーナッツが作った料理は「自分革命 春菊のピーナッツ和え」と名付けられ、香りの村で大人気となった。それはただの料理ではなく、食べる人たちに自分を愛する勇気を与える特別な力を持っていた。


 こうして二人は、自分たちの存在意義を知りながら、命を語る食材として生きていく道を選んだ。

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