第6話 自分を認めた、かぼちゃの奇跡
暗い台所の片隅で、かぼちゃはひっそりと自分の居場所を見つめていた。緑とオレンジの厚い皮に覆われた体は硬く、少し無骨な印象を与える。
かぼちゃは自分のことが少し嫌いだった。
「どうして僕はこんな形なんだろう。他の野菜みたいにスマートでも、輝かしい色を持っているわけでもない。」
彼は、自分が何か特別な存在であるという思いを持つことができなかった。
その日、台所に現れたのは、優しい目をしたおばあちゃんだった。彼女はかぼちゃに微笑みかけると、そっと言った。
「あなた、今日は特別な役目があるのよ。」
おばあちゃんの手にかぼちゃが持ち上げられ、調理台の上に置かれた。彼は心の中でつぶやいた。
「僕に何ができるっていうんだ……。」
おばあちゃんは優しくかぼちゃを撫でた後、ラップで包み、電子レンジに入れた。温かな光と熱がかぼちゃを包み込み、彼の中に変化が訪れる。
加熱が終わり、皮が柔らかくなったかぼちゃは、すこし心地よさを感じていた。次に、おばあちゃんは彼の上部を切り取り、中の種を取り除き始めた。そのとき、かぼちゃは心の中で小さな声を聞いた。
「外見だけじゃない。中身も大事なんだよ。」
取り出されたかぼちゃの実は、まるで新しい冒険に出る準備をしているようだった。おばあちゃんは柔らかくした実を丁寧にミキサーにかけ、牛乳と一緒に滑らかなスープに変えていく。
かぼちゃは感じていた。
「僕が形を変えることで、新しい自分になれるんだ。」
鍋の中で温められ、生クリームとコンソメが加えられると、スープはさらに豊かな香りを放ち始めた。
一方、元のかぼちゃの器は、空っぽの状態で調理台に置かれていた。自分の中身がすべて取り出されたことに、少し寂しさを感じていた。
「もう、僕には何も残っていない……。」
しかし、おばあちゃんはスープを鍋から移し、そっとかぼちゃの器に注ぎ始めた。 その瞬間、器は気づいた。
「僕はまだ役に立てるんだ。この形のままで、新しい命を支える役割があるんだ。」
スープが完成すると、おばあちゃんはそれを食卓に運んだ。今日は孫のサチとおじいちゃんが遊びに来る日だった。
サチは、かぼちゃの器に盛られたスープを見て目を輝かせた。
「わあ!かぼちゃがお皿になってる!」
おじいちゃんも優しく微笑みながら言った。
「このスープには、命が詰まっているね。」
サチはスプーンを持ち、一口すくってスープを飲んだ。その瞬間、彼女の心の中に温かい感情が広がった。
「おばあちゃん、これ、すごくおいしい!」
かぼちゃは、サチの笑顔と言葉を聞いて、
「まるで僕が僕のままでいいって言ってくれているみたい。」
おばあちゃんはそっと答えた。
「そうよ。自分を認めることが一番大切なんだから。」
器となったかぼちゃも、スープとなった実も、それぞれの役割を果たしていた。そして、彼らは気づいた。
「僕たちには、それぞれの形で生きる意味がある。」
かぼちゃの器はサチが食べ終わったあと、彼女の手で優しく包まれた。
「また、来年も育ててね。」とサチが言ったとき、かぼちゃは自分が誰かにとって大切な存在だと初めて感じた。
「かぼちゃの器スープ」は、その後も家族の食卓に登場し、みんなを笑顔にした。かぼちゃはその度に「自分を認める」ことの大切さを、食べる人々に伝え続けた。
かぼちゃは口にした誰かの心の中にそっと種を残し、また新しい命として芽吹いていくのだった。
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