第8話 被害者意識と小豆がゆ
小豆たちはこれまでの旅で多くの村を救ってきました。プラーナの力で人々の心を癒し、命の輝きを取り戻す手伝いをしてきたのです。ところがある日、小豆は遠い風の中に、悲しみに満ちた小さな声を聞きました。
「助けて……私には、もう誰もいない……」
その声は、どこか寂しげで孤独に満ちていました。小豆は耳を澄ませ、声の方角を探しました。
「僕のプラーナが必要な人がいる!次の場所に行かなくちゃ!」
鍋の精霊や仲間たちも頷き、小豆と共に旅を続けることにしました。
小豆がたどり着いたのは、森の奥深くに隠れるようにして建てられた小さな村でした。そこには、年老いたおばあさんが一人、ぽつんと住んでいました。
「ここに人が来るなんて珍しいね。何か用かい?」
おばあさんは微笑んでいましたが、その笑顔の裏には深い孤独が隠されているようでした。
「おばあさん、僕は小豆。プラーナの力で人々を助ける旅をしているんだ。ここに何か悲しいことがあるの?」
おばあさんは少し目を伏せましたが、やがて静かに話し始めました。
「昔、この村はとても賑やかだったんだよ。でもあるとき、人々は互いに傷つけ合い、村を出て行ってしまったんだ。」
おばあさんは涙を浮かべながら続けました。
「私にも悪いところがあったかもしれない。でも、もう遅い。誰も戻ってこないし、私は一人きり……。」
小豆は胸が締め付けられるような思いになりました。
「おばあさん、まだ遅くないよ!僕たちで何かできるかもしれない。プラーナの力を信じてみて!」
小豆は鍋の精霊と相談し、おばあさんのために特別なおかゆを作ることにしました。そのおかゆは、過去の悲しみを浄化し、新しい繋がりを生む力を持つと言われていました。
「でも材料が足りないわ。森の中に残った食材を探さなきゃ。」
おばあさんと小豆たちは、村の周りの森を探し回りました。そこには、小さな米粒や隠れた黒胡麻が残されていました。それらの食材たちは、自分たちも力になりたいと協力してくれました。
鍋の精霊が鍋を温め始め、小豆たちが材料を次々に鍋に入れました。
「さあ、みんなのプラーナを込めて!」
おばあさんも少しずつ笑顔を取り戻し、おかゆ作りを手伝いました。そして、鍋から立ち上る湯気に、ほんのりとした優しさと温かさが感じられるようになりました。
「これは……なんて優しい香りなんだろう。」
おばあさんはそっと鍋の中を覗き込みました。
おかゆが完成すると、不思議なことが起こりました。鍋の精霊が魔法をかけると、村の中に散らばっていた人々の思い出が光の粒となり、森の外に広がっていったのです。
「これで昔の村人たちに届くかもしれない。」
おばあさんは涙を流しながら微笑みました。
数日後、村に一人、また一人と、昔の村人たちが帰ってきました。
「おばあさん、久しぶりだね。」
「あなたが作ったおかゆの香りが、私たちを導いてくれたんだ。」
村は再び人々の笑顔で満たされました。
おばあさんは小豆に感謝しました。
「小豆、あなたのおかげで、私の孤独は消えました。村のみんなが帰ってきてくれたのも、あなたのプラーナの力ね。」
小豆は照れくさそうに笑いました。
「僕一人じゃ何もできなかったよ。鍋の精霊や、みんなの協力があったからだよ!」
村人たちは再び心を通わせ、過去の悲しみを乗り越え、新しい未来を築いていくことを決意しました。
小豆は次の旅に出発します。その背中を見送りながら、おばあさんはそっと祈りました。
「ありがとう、小豆。またどこかで会える日を楽しみにしているよ。」
そして小豆は、森を抜けて次の目的地へ向かいます。彼の心には、これからもプラーナの力で人々を幸せにしたいという思いが輝いていました。
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