第4話 松の実のほほ笑み

 かつて、広大な草原の真ん中に「ミルク粥の村」と呼ばれる場所がありました。この村では、特別な松の実を使ったミルク粥が作られており、それを食べると不思議な力を得られると言われていました。


 村の言い伝えでは、「ミルク粥を食べた者は『あきらめない力』を手に入れる」とされています。しかし、その力を得るには、自分自身の心と向き合う必要がありました。


 村の外れには「挫折の森」という暗い森が広がり、そこでは多くの人が夢をあきらめ、帰ってこれなくなると言われていました。




 村にはシンという少年が住んでいました。彼は明るく元気な性格でしたが、最近はどこか元気を失っていました。なぜなら、彼は夢見ていた弓の大会で失敗し、大勢の前で恥をかいてしまったからです。


 「僕はもうダメだ…。弓をやめよう」


 そんなシンを見て、村の長老が言いました。


 「シン、負けたら終わりではない。やめたら終わりなんだよ。あきらめずにもう一度挑戦したいのなら、挫折の森を越え、松の実の木を探しに行きなさい。その木の力を借りて、心を癒し、前へ進む勇気を得るのじゃ」


 シンは不安ながらも、長老の言葉に従い、森へと足を踏み入れました。




 挫折の森に入ると、シンの前に濃い霧が立ち込めました。しばらく進むと、森の木々がささやくように話しかけてきました。


 「お前は本当に弓を極めたいと思っているのか?」


 「また失敗したらどうする?」


 シンは足を止め、心が揺らぎました。失敗した時の記憶が蘇り、彼を動けなくしました。


 その時、一筋の光が差し込みました。そこには小さなリスが立っており、シンに松の実を差し出しました。


 「これを食べてごらん。少しだけ心が楽になるかもしれないよ」


 シンは半信半疑で松の実を口にしました。すると、不思議なことに体が温かくなり、少しずつ前に進む力が湧いてきました。




 森の奥へ進むと、突然、大きな影が現れました。それは「挫折の巨人」でした。


 巨人は低く響く声で言いました。


 「お前がここに来たのは何のためだ?どうせ、また失敗するだけだろう」


 巨人の言葉は、まるでシンの心の中の声のようでした。シンは恐怖で立ちすくみましたが、リスがそっと言いました。


 「挫折の巨人は君の心の中にある恐れだよ。それを乗り越えるには、自分が本当に望むことを思い出してみて」


 シンは目を閉じ、自分が弓を始めた理由を思い出しました。彼は、村を守るために強くなりたかったのです。そして、もう一度挑戦する気持ちが湧き上がってきました。


 「僕はあきらめない!」


 そう叫ぶと、巨人の姿は霧のように消え去りました。




 巨人を倒した先には、美しい大きな松の実の木が立っていました。木の下には、小さな泉が湧き出ており、その水は黄金色に輝いていました。


 木が静かに語りかけてきました。


 「シンよ、お前の心にはもう『あきらめない力』が宿っている。この松の実を持ち帰り、村でミルク粥を作りなさい。それは君の決意をさらに強くするだろう」


 シンは松の実を受け取り、村へと帰りました。




 村へ戻ったシンは、長老と共に松の実のミルク粥を作りました。松の実を丁寧に煎り、米と水を加えて煮込むと、部屋中に温かい香りが広がりました。最後に牛乳と塩で味を整えた粥は、まるで優しさそのものでした。


 シンは一口食べると、不思議な感覚に包まれました。心が穏やかになり、未来への希望が湧いてきたのです。


 「もう一度、弓に挑戦してみるよ。失敗しても、僕はあきらめない」



 シンは再び弓の大会に挑みました。緊張しながらも、松の実の力を思い出し、深呼吸しました。矢を放つと、それは見事に的の中心に命中しました。


 観客たちは拍手喝采し、シンの心は喜びに満ちました。


 「負けたら終わりじゃない。やめたら終わるんだ」




 その後、シンは村の子供たちに弓を教えるようになりました。彼の経験を語りながら、松の実のミルク粥を一緒に作ることもありました。


 子供たちも言いました。


 「僕も、あきらめない力を持ちたい!」


 シンは微笑みながら答えました。


 「その力は、君たち自身の中にあるんだよ」

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