第3話 百合根の祈りと少年の約束

 深い森の奥に、誰にも知られない小さな村がありました。この村では、誰もが穏やかに暮らしていました。村の中央には、特別な畑が広がっていて、そこには不思議な輝きを持つ「百合根」が育っていました。


 百合根は心の熱を鎮め、イライラや不安を和らげる力を持つことで知られており、村人たちはそれを大切に守り、育てていました。しかし、この百合根には特別な力がありました。それは、心の傷を癒し、痛みを和らげる「祈りの力」を込められることでした。


 百合根たちには意識があり、彼ら自身が「誰のために力を使うべきか」を決めることができたのです。




 ある日、一人の旅人の少年が村にやってきました。その名はレン。彼は疲れ切った顔をしており、肩には小さなリュックを背負っていました。


 村の入口に立つと、レンは深いため息をつきました。


 「やっと見つけた…。この村には癒しの百合根があると聞いたんだ」


 レンは、家族とのケンカや学校での失敗に悩み、心が疲れていました。そんな彼にとって、この村の百合根は最後の希望でした。




 その夜、畑の百合根たちは集まり、話し合いを始めました。


 「新しい人間が来たよ。彼は心が傷ついているみたい」


 「でも、簡単に私たちの力を使わせるわけにはいかない。彼が本当に必要としているかどうか見極めないと」


 百合根たちは、村の掟を守りながらも、レンをどう助けるべきか考えました。その中で、一番大きく輝いている百合根が口を開きました。


 「私は彼に力を与えるべきだと思う。だけど、その前に試練を乗り越えてもらわないと」



 翌朝、レンは村の長老に呼ばれました。


 「百合根の力を求めるのなら、試練を受けてもらわねばならない」


 長老は厳しい顔をしていましたが、その瞳には優しさがありました。


 「君が本当に自分を癒したいと思うなら、百合根畑に入って彼らの声を聞いてごらん」


 レンは畑に足を踏み入れました。すると、周りの百合根たちが光り始め、不思議な声が聞こえてきました。


 「レン、私たちの力を使う前に、君自身が『自分を痛めつけない』と決意しなければならないよ」




 百合根の声に驚いたレンは、自分自身と向き合い始めました。


 「僕は、いつも自分を責めてしまう。失敗すると、なんでこんな自分なんだって思うんだ。でも、それをやめるにはどうしたらいいのか…」


 百合根は優しく答えました。


 「まず、人と比べるのをやめよう。君は君自身であるだけで価値がある。そして、自分や他人を責めるのをやめること。最後に、執着を手放すことだよ」


 レンは少しずつ、心の中のモヤが晴れていくのを感じました。




 その時、畑の奥から黒い影が現れました。それは、レンの心の中に住む「責める心」が具現化した怪物でした。


 「お前なんてダメなやつだ!いつも失敗ばかり!」


 怪物の声は、レンの心に深く刺さりました。しかし、百合根が力強く光り始めました。


 「レン、君が決意すれば、この怪物は消えるよ」


 レンは震えながらも立ち上がり、心の中で強く叫びました。


 「僕はもう自分を痛めつけない!」


 すると、怪物は消え去り、百合根の光がレンを包み込みました。




 試練を乗り越えたレンの前に、村のおばあちゃんが現れました。彼女は優しい笑顔でレンに語りかけました。


 「よく頑張ったね。この百合根を使って、特別な料理を作りましょう」


 おばあちゃんは百合根と鶏肉、甘栗を使って中華炒めを作りました。その香りは村中に広がり、レンの心にも温かさが満ちていきました。


 一口食べると、レンは驚きました。


 「すごい…心が軽くなる!」


 それは、百合根が持つプラーナの力と、村の人々の祈りが込められた一皿でした。



 レンはすっかり元気を取り戻し、村を後にする準備をしました。村の人々は彼を笑顔で送り出しました。


 「忘れないでね。君はもう、自分を痛めつける必要なんてないんだよ」


 百合根も、畑の中で優しく輝いていました。


 「ありがとう…僕はもっと自由に生きてみるよ!」


 レンは新しい決意を胸に、再び旅を始めました。彼の心にはもう、不安や責める心はありませんでした。ただ、穏やかで温かい気持ちだけが広がっていました。

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