北の山脈編
第40話ケクロプス事件その後(フェリシアside)
「よくぞ伝説の大蛇ケクロプス討伐を成し遂げたフェリシア・ブルーホワイトよ。さらに伝説の聖女にまで覚醒するとは驚いたぞ。何か褒美を取らさねばな」
「恐悦至極に存じます陛下」
アテナとの戦いの後、王国に事件の顛末を報告したところ、王都に呼び出された私は魔道具によって〖鑑定〗を受け、正式に聖女として認められました。
その後、国王陛下に謁見する事となりました。
玉座に深く腰掛けた陛下が、私に労いの言葉をかけてくれる。
だが、その表情には少しの陰りが見えた。
「しかし、逃げたドラゴンが気になる……我が王国に害をなす存在にならねばよいのだが……」
ドラゴン種は魔物のなかでも特に危険とされる種族である。その最強の一角を担うドラゴン種に、元々特殊なリザードであったアテナが進化してしまった。
成長したら国を滅ぼしてしまうほど危険な存在になってしまう可能性があるのに、私はアテナを取り逃してしまったのだ……。
「フェリシアはそのドラゴンと親しかったと聞くが、どんなドラゴンなのだ?」
「奴の名はアテナ、強力な〖闇魔法〗を操り、近接戦闘力も高い。夜の闇のような漆黒の外皮を持つ黒竜です。ドラゴン種にしては小柄な姿から、恐らく
「アテナ……ネームドの
私からアテナの情報を聞いた陛下は、疲れたように下を向き深く溜息を零す。
ドラゴン種は幼体でも強く、普通の人間の手に負える相手ではないが、王国の精鋭を集めれば討伐も可能だ。
だが、戦いによる被害は凄まじく、過去のドラゴン討伐の際には軍の半分を失った記録が残っている。
陛下の溜息は戦後を考えてのものだろう。
「それで、奴はどこに飛んでいったのだ……?」
陛下は溜息で気を取りなおしたのか、顔を上げて私に問いかける。
「アテナは父を殺し、北の山脈へ飛び立っていきました」
「カルロス神父か、惜しい男を亡くした……。だが、仇は我が王国が国を挙げて討ってみせるぞ」
父の仇を討とうとしてくれるのは嬉しい。でも、
「その件なのですが、アテナ討伐の任、それを褒美とさせてもらえないでしょうか?」
それは私自身がやらねばならない。
私は陛下をジッと見据えて嘆願する。
「なんと! お主自ら仇を討つと申すか……ッ!」
「はっ、アテナは強大な力を持つドラゴンです。この国で、奴とまともに戦えるのは私だけと存じます」
大人数で攻めたところで犠牲者が増えるだけである。そして何より、仇は私自身の手で討ちたい。
「むぅ……確かに、ドラゴン相手に戦えるのは聖女に覚醒した其方のみか……わかった。此度のドラゴン討伐、フェリシア・ブルーホワイトに一任しよう。聖国へ旅立つ前に戦果を挙げるだ」
世界一の宗教大国聖国、聖女が誕生したら聖国で管理するよう昔から定められています。この戦いが終われば、私も聖国の所属となる事が決まっていました。
生まれ育った国を離れるのは寂しくもありますが、聖女を生んだ国にも多大な利益がある。私もお世話になった王国に恩返しができる事を嬉しく思います。
「承知いたしました陛下。必ずやアテナの首、陛下の御前にお持ちいたします」
「うむ。頼んだぞ聖女フェリシアよ」
こうして謁見は終わり、私はアテナ討伐の全権を任される運びとなりました。
討伐に軍を動かせば国の守りに隙が生まれ、他国から攻め込まれる可能性もある。それに、軍で動けば発見されてアテナに逃げられてしまうだろう。であれば、私個人で動いた方が上手くいくはずです。
聖女に覚醒した私には、それだけの力があるのだから。
◇◇◇
「あっ、フェリシアさんが戻ってきたよ!」
「やっとか、待ちくたびれたぜ」
「お疲れ様フェリシア殿、謁見はどうでしたかな?」
謁見を終えた私が王城を出ると、町からついてきた冒険者三人組が待っていた。
魔法使いのマイさんは小柄で可愛らしい女の子。
剣士のアランさんは少しぶっきらぼうですが、本当は優しい青年。
戦士のダンカンさんは筋骨隆々で口数少ないですが、義に厚い青年。
三人はともにケクロプスと戦った仲間です。
ですが、
「貴方たちはどうして私につき纏うのですか?」
確かにケクロプスの情報収集を依頼したのは私ですが、それは終わった事。報酬も支払ったのになぜついてくるのでしょうか?
「どうしてって、そんなの決まってるよなぁ? 俺らはフェリシアさんの事をアテナ姉さんに頼まれたからだよ」
依頼が終了してもついてくる三人に問いかけるが、アランさんは当然だと言わんばかりに肩をすくめて答えた。
「アテナに頼まれたから? 何を言っているのです。アテナは父を殺した凶悪な魔物なのですよ?」
「うぐっ……!」
私の言葉に威勢の良かった三人が口をつぐむ。
それもそうだろう、私もアテナが好きだった。父を殺した事実さえなければ、今も仲良くできたはずなのに……。
「た、確かに結果だけ見ればそうかもしれねぇ。だが、俺らはアテナ姉さんに命を救われてる」
「そのアテナ姉さんが私たちにフェリシアさんの事を頼んだんだよ」
「うむ。命の恩には命で報いねばな。それが男という生き物だ」
私の言葉に一瞬狼狽えた三人だったが、すぐに気を取り直して反論してくる。
力押しの脳筋理論なのに意思の強さが伝わってくる……この三人はそこまでアテナの事を信頼しているのね。でも、
「だからといって、私も意見を変えるつもりはありません。ついてくるのなら好きにしてください」
「ヒューッ! やったぜー!」
「フェリシアさん愛してるー!」
「さすがはフェリシア殿。我らの想いが通じたのだな」
私の返答に三人の冒険者たちから喜びの声が上がる。
まったく、調子のいい方たちです。ですが、私はこの三人を放っておけないのです。
なぜならば、男が二人に女が一人、いずれ男女関係で揉める事になりそうですもの。この仲の良い三人のいがみ合う姿は見たくないものです。そうならないように、私が道を示してやらねばなりません。
「……なんかシスターに失礼な想像されてる気がするんですけど……。私たちそんな関係じゃないからね!」
「皆まで言わずともわかっております。さあ、早く出発しますよ」
「もうー! この人絶対誤解してるよーッ!」
今のまま仲良く冒険者を続けてほしい。そう考えて、私は三人の同行を許可した。
それなのに、マイさんがジト目を向けてくるのはなぜでしょうか?
私は腑に落ちない気持ちを抱えたまま歩き出す。
アテナの向かった先は北の山脈、まずはそこに行ってみましょう。
待っていなさいアテナ。父の仇、討たせてもらいます!
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