第37話黒幕
倒したと思ったケクロプスは生きていた。フェリシアを食べると強くなるってのは意味わかんないけど、生首の状態なのに凄いスピードでフェリシアに向かう。
その迫力に気圧されたのか、みんなの動きが止まっていた。
倒したのに覚えた違和感の正体が今わかった。それは経験値取得の声が聞こえなかった事だ。
クソッ! すぐに気付いて止めを刺していれば……ッ!
「フェリシアさんには手を出させねえぞ!」
「フェリシアさんは私たちが護るわ!」
「どんな状況であろうと決して諦めず最善を尽くす。それが冒険者である!」
動きを止めたフェリシアとカルロスを護るように、冒険者三人組が前に出て防御姿勢を取る。
おおっ! あいつらやるじゃないの! 私が追いつくまで足止めして!
『雑魚が我の邪魔をするなぁあああっ!』
「「「ぐはぁあああっ!」」」
だが、生首ケクロプスの〖体当たり〗を受けた三人組は吹き飛ばされてしまった。
「す……すまねえアテナ姉さん……」
「こいつ強すぎるよぅ……」
「無念……」
三人とも倒れたまま立ち上がれないでいる。かなりのダメージを受けたようだ。
やっぱりだめか! ステータスに差がありすぎるからしゃあない。三人とも生きてはいるようだから後で回復してやろう。
「くっ……〖セイクリッドゾーン〗!」
冒険者三人組が吹き飛ばされた事でようやく我に返ったフェリシアが〖セイクリッドゾーン〗を発動させる。
すると、フェリシアの前面に聖なる力を感じる半透明の壁が出現した。
あれは〖聖魔法〗か? 確か結界の構築と、〖水魔法〗では治せない状態異常の解除ができるって言ってた。あの半透明の壁が結界なんだろう。
けど、あれでケクロプスの攻撃を防げるのか?
『そんな結界が通用するか! 我の糧となれフェリシア!』
「くぅ……ッ!」
私の危惧した通り、ケクロプスの〖体当たり〗の一撃で〖セイクリッドゾーン〗は高い音を立てて割れ〖体当たり〗を受けたフェリシアは吹き飛ばされてしまう。
追いついた私はフェリシアとケクロプスの間に割って入り追撃を防ぐ。そして、倒れたフェリシアを〖鑑定〗すると、まだHPがギリギリで残っていた。
フェリシア! ……大丈夫、まだ生きてる。
冒険者三人組とフェリシアが時間を稼いでくれたおかげで追いつけたわ。
まだ誰も死んでいない。後はケクロプスを倒せば完全勝利よ。
『終わりにしましょうケクロプス、私が介錯してあげるわ』
フェリシアへの〖体当たり〗が最後の力だったのか、頭だけになったケクロプスは動くこともできずに、私の〖爪撃〗によって真っ二つに切り裂かれた。
『クソクソクソッ! あと少しだったのに…… 我がこんなところで滅ぼされるとは……! こんなドラゴンがいるなど聞いていない……! 話が違うぞカルロスーーーッ!』
ケクロプスは後方に控えるカルロスを呪い殺しそうな勢いで睨み付けながら叫ぶ。
その断末魔にはカルロスへの憎悪の念がこもっていた。
【経験値を2851取得しました】
【
【通常スキル〖HP自動回復LV4〗が〖HP自動回復LV5〗に上がりました】
【通常スキル〖MP自動回復LV4〗が〖MP自動回復LV5〗に上がりました】
【通常スキル〖肉体再生LV4〗が〖肉体再生LV5〗に上がりました】
【通常スキル〖真空斬LV1〗が〖真空斬LV3〗に上がりました】
【耐性スキル〖麻痺耐性LV3〗が〖麻痺耐性LV4〗に上がりました】
【魔法スキル〖闇魔法LV7〗が〖闇魔法LV8〗に上がりました】
【スキルポイントを取得しました】
天の声の姉さんが経験値取得を告げる。過去最高の経験値量に驚きもある。
だが、ケクロプスが絶命する前の叫びは、それを上回る衝撃を私に与えていた。
えっ、カルロス? どうしてその名前が出てくるの?
聞いていない? 話が違う? どういう事……?
予期せぬ名前に困惑した私がカルロスを見ると、その顔は下等な生物の見世物でも見るかのような薄笑いを浮かべていた。
その反応を見て気付いてしまった。この事件の黒幕が誰なのかを……。
「フフフッ……ハハハハハハハッ! ダメじゃないかケクロプス、それは言わない約束だろう? 聡いアテナ君にはバレてしまったかな?」
『カルロス、全部お前が仕組んだ事だったのか……ッ!』
私はおどけた様に嗤うカルロスに前足を突き付けて言い放つ。
おかしいとは思ったんだ。だって、ケクロプスはあれだけ知能の高い魔物だよ。人類にとって重要人物である聖女候補のフェリシアを生贄に要求すれば、教会から強い刺客が送られてくる可能性が高い事くらいわかっていたはずだ。
まあ相手は魔物だし、人類の勢力なんて知らない可能性も高いと思って、あまり気にしてなかった。
そもそも、そんな重要人物が狙われていたら、とっくに討伐隊が組まれてただろうしね。
そこまで考えて誰が一番妖しいかって言えばこいつだ。
初めに違和感を抱いたのは、町に大蛇がやってきてフェリシアを生贄に求めた時。大を生かすため小を殺すのを考えるのであれば、人類にとって必要なフェリシアを生かすべきだもの。
娘でもあり人類の宝、町が滅ぼされようがフェリシアを選ぶべきだ。
なのにこいつは悩んだ。それが何を示すかというと、
『私は以前フェリシアからあんたが冒険者ギルドにケクロプスの討伐依頼を出していると聞いた。だけど、その依頼は受理されなかった。でも、あんなに危険な魔物を国が放っておくとは思えない。実際には依頼なんて出していなかったんだろう? それができるのは依頼を出しに行ったと言う町の代表のあんただけだ。カルロス、あんたは今まで善良な神父の演技をしてたんだろう?』
「はっはっはっ、さすがは神が認めた魔物だ。多少は頭が回るようだね。君の予想通りだよ。私とケクロプスは組んでいた」
やっぱりカルロスとケクロプスは仲間だったのか、最悪の予想が当たってしまった。
ても、神が認めたってどういう事だ? まさかこいつ……、
『神の声(仮)の事? あんた、あいつの手先だったの?』
「そう、私とケクロプスは神の指示を受けて生贄を要求し、町を支配していた。今回フェリシアを指名したのも神のご意志によるものだ」
神の声(仮)がフェリシアを指名した? 何か目的があるのか?
「フェリシアをケクロプスの生贄にするため町に襲撃をかける日、君が現れた。アテナくん、君の事は神から聞かされたよ。神曰く才能の固まり、神に愛された存在、神お気に入りだとね。だからこそ、私はあのお方に愛される君が憎かった。あのお方の寵愛を受けるのは私だけでいいのだ!」
カルロスは血走った目で私への恨みつらみを洗いざらいぶちまけてくる。
あの神の声(仮)の事だ。口八丁でカルロスを騙し、駒として利用したんだろう。
でも、頼みのケクロプスは私が倒した。カルロスだけじゃ何もできないだろう。
『それで、頼みのケクロプスはもういないけど、戦闘能力のないあんたはこの後どうするの? 人間は殺さない主義の私でも、さすがに命を狙われれば見逃せないわ。例え友達の父親だろうとね!』
カルロスに戦闘能力がない事は〖鑑定〗で確認済みだ。フェリシアどころか、冒険者三人組にだって勝てないだろう。
私はもう一度前足を突き付けて言い放つが、カルロスはこちらを見ていなかった。
こっちを見ていない? 舐めてんのかこいつ……ッ!
どこを見ているのかと視線を追うと、カルロスは倒れたフェリシアを見ていた。
フェリシアの容態を確認してるのか? 生贄にして殺そうとしたくせに、いまさら最後に娘の顔を見たかったとか言っても、私は
「ふむ、丁度いい頃合いか……。さあアテナ君、私を殺したまえ」
『ちょっ、あんた何やって……ッ!』
カルロスは自分を殺せと言い、大股で私に向かってくる。そして、私の突き出した爪がカルロスの胸に突き刺さった。
肉を貫くと言うよりも、包丁で豆腐を刺すようなスルリと抜ける感触は、カルロスの防御力の低さを物語っていた。
私は何もしていない。ただ、カルロスが私の爪目がけて、自分から刺さりにきたのだ。
何やってんだこいつ! 自殺志願者か?
「グフッ……胸を貫かれるっていうのは……中々に苦しいものだねぇ……」
『自分から刺されるなんて……あんた何考えてんのよ!』
「何をって、それは後ろを見ればわかるよ……」
カルロスに言われ振り向くと、そこには綺麗な顔を絶望したように歪めたフェリシアがいた。
えっ、フェリシア! 気を失っていたはずじゃ……ッ!
「なぜアテナがお父様を……いやぁああああああッ!!」
私の爪に胸を貫かれた父親を見たフェリシアの悲鳴が湖に木霊した。
この事件は私が思っていたより、ずっと大きな力が関与しているのかもしれない。ケクロプスを倒せば全て終わる。そう思っていたのに……。
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